第二章 前魔王の所業

第16話 魔王、侵入者達にイラつく




 勇者アレクに復讐してから、その日の夜――。


 寝室で寝ていた俺は、マリーベルに起こされた。


「――ザフト様、起きてくださいまし」


「ん? マリーさん……あっ! また夜這いに来たのか!? いい加減、俺の貞操を狙うのやめてくれるぅ!?」


「うふふふ、それは出来ませんわ……っと言いたいところですが、ラビテースからご報告がございますわ」


「ラビから? なんだよ、こんな夜更けに……」


 俺はベッドから起き上がり、寝間着を脱いで着替えようとする。


 瞬間、マリーベルの顔つきが変わった。

 俺の裸になった上半身を恍惚な表情で舐め回すように見つめてくる。


「ザフト様ぁ、わくしもう我慢できませんわ~!」


 マリーベルは叫ぶと腰元の翼を羽ばたかせて、俺に抱きつきベッドに押し倒した。


「もう、マリーさん、やっぱりそういうことじゃないか!? やめてくれよぉ! いくらNO.2の副司令官でも、俺だっていい加減に怒るぞ!」


「いいですわ、ザフト様ぁ。どうか、この淫らなマリーベルにお怒りください。叱ってください。そして縛ってください……わたくし、陛下になら何をされても構いませんわ」


 駄目だ、この子……。

 性癖がマニアックすぎて、結局全てがご褒美になってしまう。

 とんだサキュバスクィーンだ。


 くそぉ……両頬を挟む胸が柔らかくて超気持ちいい。

 なまじスタイル抜群の美少女なだけに気持ちがぐらついてしまう。

 思わず、その気になってしまいそうになる……。


 その度に、セレイナを思い出して欲情を抑え込んでいるんだ。


「マリーベル、またあに様においたを……いい加減にしないと呪いますよ!」


 俺の妹(正確にはザフトの)であるモエトゥルが部屋を覗きに来てくれる。


 マリーベルは「チッ」と舌打ちしながら、俺から離れた。


「ありがとう、モエちゃん……助かったよ」


「いえ、陛下……皆が待っておりますので早々にお着替えを(あわわ、兄様の裸が見れちゃいましたぁ! 骸骨だった姿とまた違う、なんて艶めかしいのでしょう!?)」


 滅多に表情を変えることのない、冷静系クールでジト目のモエトゥルがどんな眼差しで俺の着替えを見ているのか、俺が知る由もない。




 それから『玉座の間』に行き、普段通りに豪華な玉座に腰を下す。


 チラッと見渡すと壁際にメイド達が並んでおり、中央の赤絨毯腹心の幹部達が跪いている。


 両端にモエトゥルとダークロード、その後ろ側に四天王でありダークエルフの族長ラビテースが跪いていた。

 ちなみにマリーベルは俺の隣に立っている。

 

 組織図としては、最高司令官の魔王を筆頭に、副司令官、親衛隊長、宮廷魔道師、四天王、各部族長(将軍)、部隊長っという順で編成されているらしい。


 にしても、みんな夜中だってのに随分と不眠不休で頑張るよな?

 だから、どいつも顔色が悪いのか? あっ、魔族だからか……。



「んで、ラビ。報告ってなんだい?」


 俺が問い質すと、ラビテースは褐色肌の美しく可愛らしい顔を上げる。


「ザフト様、ボクの部下からなんだけど、ダンジョンに勇者パーティが侵入したようだよ」


「え? 勇者パーティ? 昼間、始末したばっかじゃん!」


「きっと別の国から送られてきた連中だよ。わざわざ夜中に侵入ってことは、ザフト様を暗殺する気満々かもねぇ。勇者達の常套手段だからね~」


「何だよ、それ……気に入らないな。勇者なんだから正々堂々と正面きって挑んで来いっつーの」


「エロ糞骸骨……いえ、陛下。連中もバカではございません。正面きっては陛下に勝てないのは重々承知の筈……だからこそ奇襲を試みるのでしょう」


 ダーさん、今はっきりと「エロ糞骸骨」って言ったな。

 もう、俺はエロ糞骸骨じゃないんだから、そう言うのやめてくれる?

 

「確か20年前に、陛下は忍び込まれた『ある勇者』によって暗殺されています。それが口伝となり味を占められているのでしょう」


「え? モエちゃん、マジで!? んで俺はどうなったの!?」


「陛下は私が直ぐに蘇生させました。かれこれ、83回目の復活でしょうか? 相手の勇者は陛下と相打ちになり斃された筈です」


 モエトゥルが説明してくる。


「そ、その勇者の仲間パーティは?」


「一部はダンジョン内で魔物達によって始末されましたが、もう一部は逃げ延びて生存しています。きっと、その勇者だけが単独で『魔王都』に忍び込んだと思われます」


「きっと高い隠密スキルと、それに見合った勇者スキルを持ち合わせていたのですわ……まったく、わたくしのザフト様を襲うなんて、なんてはしたないのでしょう! プンプンですわ!」


 マリーさん、怒ってくれるのは嬉しいけど……キミだってしょっちゅう俺に夜這い仕掛けて襲ってくるじゃん。


「けど、勇者ってこうも立て続けに侵入してくるもんなの?」


 俺が雑用係の頃はレベル上げもあったけど、ダンジョンを探し出すだけでも結構手間取った記憶がある。

 そんなポンポン簡単に来られるような場所ではないと思う。


「数年ごと、『奈落ダンジョン』の入り口門ゲートの場所を変えていますが、一度でもバレてしまえば連続して来てしまうことも多々ありますわ。時には他国の勇者パーティ同士が徒党を組んで潜入してくる場合もありますのよ」


 なるほど……各国で魔王討伐レースを繰り広げる一方で確実に斃すために勇者同士が情報を流したり一時的に組む連中もいるのか。


「過去、この『魔王都』に潜入した勇者パーティは極わずか。大抵は道半ばで倒されるか、私達が害虫として駆除しています」


 モエトゥルが補足してくる。


「しかし、先程マリーベルが話した通り、過去において陛下は何度か勇者に暗殺されております。確か20年前の件は、陛下が人間の女子をこっそり連れ込んでイチャコラしていた時にキルされましたね」


 ダーさん。そのキルした犯人、実はマリーさんじゃないの?


 う~ん、なるほどね……。


 実際に魔族側視点に立つと背景がよくわかるものだ。


 どっちにしても、当時から部下に任せっきりで好き放題にしていた魔王ザフトにも問題があると思う。


 幸い死霊王ネクロキングという不死身の存在だから、すぐに復活されるらしいけどね。


 ん? 待てよ……。


 今の俺が死んだらどうなるんだ?


 モエトゥルの秘術で身体は蘇生できても、また俺の意識で復活できると限らないんじゃないか?

 そのまま魂が消滅なんてこともあり得るぞ。


 やっぱり油断しちゃいけない……特に暗殺は用心しなければ――。


 他国間では互いの戦に備えて軍隊ごと仕掛けて来ない……いや来れないと言った方が正確だろうか。

 だからこそ、勇者を選抜してわざわざ送り込んでくるらしい。


 しかし、あれだな。


「ガチでイラっとするわ~。とりあえずマリーさん、すぐに入り口門ゲートの場所を変更してくれよ」


「わかりました直ちに。それとザフト様、既にダンジョンに侵入した勇者パーティは如何いたしましょう?」


 マリーベルは聞かれ、俺は頭をポリポリ掻きながら少しだけ考える。


「ん~、ああ……またここに連れて来てくれない? 頭に来たから、俺が直接会ってヤキ入れるからさぁ」






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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