第15話 魔王ザフトの野望と鋼鉄の聖女の誓い




「……セイリア、みんなも元気でな」


 髑髏の仮面越しで俺は切なく、嘗ての恋人と大切な仲間達の後ろ姿を見送っていた。


 ――本心じゃ、自分の正体を明かしたい。


 ――俺がシユンだと名乗り、この素顔を晒したい。


 でも今の俺は魔王ザフト……見た目はシユンでも内に秘める膨大な闇の魔力は正真正銘の魔王その者だ。

 仮に全てを説明しても、セイリア達が信じてくれるかどうか……。


 それに……ここの部下達を見捨てることはできない。


 みんな癖が強く物騒だけど……なんだかんだ俺に忠実だし、最近じゃ情も芽生えてしまっている。

 悪戯に人間の命を奪おうとしないし、ひょっとしたらアレクみたいな下手なクズ人間より、よっぽどまともな魔族かもしれない。



「ザフト様、プンですわ!」


 そんな悩める俺の隣に立つ、マリーベルがぷく~っと頬を膨らましそっぽを向く。

 相変わらず、いちいち可愛い仕草をみせるサキュバスクイーンだ。


「マリーさんってば、何を膨れてんの?」


「どうせ、あの神官の娘が気に入られたのでしょ!? わたくしという者がありながら、本当に人間の娘が大好きなんですから~、いーっですわ!」


 白い歯を見せて顔を近づけてくる、随分とご立腹の様子である。

 危ぶねぇ……あんまり怒らせると、また爆死されそうだ。


「違うよ、彼女達の行く末に期待しているんだ……ライバルとしてね」


 勇者も不在となり、セイリア達がこれからどのような道を歩むのかわからない。

 

 もしこのまま冒険者を続けるようであれば、今度は敵として相まみえるだろう。


 そうなったら、俺はセイリア達と戦うことができるのか?

 

 ――このままセイリアを諦めなければならないのか……。




 自問自答をしている中、ダークロードとモエトゥルが戻ってくる。

 どうやら無事に、セイリア達を送ってくれたようだ。


「二人共、ご苦労さん」


 俺の言葉に、ダークロードは違和感を覚えたように両目を細める。


「はぁ、陛下……そのお姿で復活されてから、少々変わられましたな?」


「え? ダーさんどういうこと?」


「ええ……前の陛下は無類の女好きで特に人間の女に目がありませんでした。反面、男には残酷で容赦ありません。部下に対しても同様です。側近の私とて労いのお言葉を頂いたのは初めてでしたので……(本当、ムカつく糞骸骨だったからな)」


 ふ~ん……なんか、アレクみたいな魔王だな。

 エロ魔王だと思っていたけど、ガチで最低なクズだ。


「そういや、ずっと思っていたけど……どうして、みんなはそんなに強いのに積極的に地上を支配しようとしないんだ? 軍も大抵、地味な侵略活動しかしてないよね?」


 俺の問いに、みんなは黙り沈黙する。


 マリーベルが豊な胸を寄せてもじもじと身体をくねらせる。


「……陛下がいけないのですわ。わたくしに内緒で軍事予算のほとんどをハーレムの建設費用につぎ込むから……」


「お、俺のせい!?」


「おまけに、ゴブリンやオーク達に対して『魔王がモノにするまで、人間女子の交わりを禁止する』っと、意味不明な法令を打ち立てており兵士不足の要因となっています。なにせ奴ら下等な妖魔族は人間の女でなければ繁殖できぬ存在ですので……」


 ダークロードも補足の説明をしてきた。


「そ、そうなの!?」


「戦と侵略は軍事力と資金が必須ですわ。いくら一騎当千を誇る猛者揃いとはいえ、今の魔王軍では、この『魔王都』を維持するので精一杯ですの」


「それに兄様、地上界の情報も不足しております。結局は軍の配置も満足にできず資金を確保する程度の侵攻しかできないのが現状です」


 なんだよ……結局、全部魔王のせいじゃん。


 これだけ力があるにも関わらず、自分の趣味趣向にしか活用してなかったようだ。

 おまけに、軍事資金の無駄使いに兵士不足やろくな情報も揃ってないってか?


 それで勝手にハーレム造った日にゃ、そりゃ何度もマリーベルに爆死させられるわ。



 ――いや、待てよ?



 今は俺が魔王なんだ……。


 俺の意志で魔王軍を強化したり体制を変えることもできる。


 もし、頑張って地上を支配できれば……アレだ。



 世界は魔王軍の――つまり俺のモノになる。



 だとしたら、俺が世界のルールを決めて変えることだってできるんじゃないか?


 そうなれば、魔族と人間との境界を無くすことだって……。


 魔王になった俺でも、セイリアともう一度、恋人になれるだろうか?



 俺はセイリアが忘れられない……。

 

 今回の件で、俺に対しての彼女の強い想いを知って……。



 ――ますます好きになってしまった。



 俺はこの世界を変えたい!



「みんな聞いてくれ! たった今から魔王軍は生まれ変わる! これからは精力的に地上を支配する!! 俺達、魔王軍で世界の秩序を変えてみせるぞぉぉぉ!!!」


 唐突のやる気発言に、側近達は固まり呆然としている。


 みんなから「今更マジで言ってんの?」って顔をされた。


 前魔王……あんた、どんだけ信用ないんだ?



 ……まぁ、いいや。


 それも含めて、これから俺が変えてみせる。



 俺はシユンであり、魔王ザフト。



 ――この世で最強の魔王なのだ。






~セイリアside



 ダークロードという黒騎士と、モエトゥルという死霊魔導師ネクロマンサーの少女にダンジョンの外まで丁寧に送ってもらう。


 二人とも何も語らないが親切すぎて妙な気分だ。


 敵の情けというよりも歯牙にもかけてない……そう捉えることもでますが。



「……ねぇ、これからどうする?」


 ララノアが私に聞いてきた。


「祖国フォーリアに戻るしかないでしょう……勇者もいないことだし、国王にご説明しないと……」


「それはオレの役目だ。国王陛下にアレクの所業を全てご報告する! 魔王じゃないが、このまま名誉の戦死にしてなるものか!」


 レイドは拳を握り締め、怒りで震わせている。

 

 まったくその通りです……しかしもうこの世にいない存在。

 

 今となっては怒りよりも、シユンが死んでしまった悲しみの方が強いです。

 本国に戻った暁には、彼の両親と妹に真実を説明し謝罪したい……。


 ――わたしのせいで、シユンは冒険者になり命を落としてしまったのですから。


 そして彼のお墓を建てたい……きっと生涯を懸けて祈りを捧げていくでしょう。


 もう、わたしはシユン以外、誰かを愛することは二度とありません。


 それが彼への手向けであり、シユンへの償いと愛だと誓ったのです。




 こうして、私達は祖国フォーリアに戻ることを決意しました。


 おそらく戻った暁には、このパーティは解散することになるでしょう。


 わたしは今後、どうするかわかりません。

 再び魔王討伐隊に参加するか……それとも二度と冒険者にはならないか。


 どちらにせよ――まず自分がやるべきことをやっていきたい。



 ですが、これだけは言えます。



 わたしは、この先どんなことがあろうと、悪には屈せず前を向いて鋼鉄の意志で正しき道を歩んでいきます。


 シユンだって、きっとそれを望んでいる筈……。


 そう信じていますから――



──────────────────

【あとがき】

ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きはノベルピアさんの方で連載しています。

完結しておりますので、そちらでも読んでもらえると嬉しいです。

よろしくお願いいたします<(_ _)>

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