第14話 クズ勇者の最後―復讐完了




「はい?」


「アレク、今からお前を幽閉する。永遠の苦痛を与えた上でな……」


 俺は指を鳴らすと、一人の少女が部屋へと入って来る。


 血に染まったような深紅のドレスをまとった淑女であり美少女だ。

 朱銀色の長い髪を後頭部で丁寧に結い編み込んでいる。

 黄金色の瞳、蒼白の肌に細身で抜群のスタイル。

 微笑む口元に鋭い牙がチラリと見え隠れしている。


「自己紹介するよ。彼女は、エスメラルダ。吸血鬼の真祖、つまり女王の立場であるヴァンパイアクィーンだ」


「わらわは、エスメラルダ・ヴァンティーナ。偉大なる主、魔王ザフト様に永久の忠誠を誓う高貴なる使徒じゃ」


 エスメラルダはスカートの裾を持ち、軽くお辞儀をして見せる。


「ぼ、僕をどうするんだ? そのヴァンパイアはなんなんだ?」


「エスメは魔王軍で四天王の地位にいるが、ある特別な役割も担っているんだ……」


「特別な役割だと……?」


「エスメ、例のモノは準備できているか?」


「はい、陛下……いつでも――者共、持って参れ」


 エスメラルダは手を叩くと奥側の扉から燕尾服を着た紳士風の男達が、高さ2メートルくらいで女性の形をした鋼鉄製の像を担いで持って来る。


 紳士風の男達全員が整った顔立ちであり灰色の肌をした若い容姿。

 エスメラルダの配下であるヴァンパイア達だ。


 アレクの前で、鋼鉄の像が鈍く重い音を立て無造作に置かれた。


「な、なんだ……これは?」


「わらわのお手製、『鉄の処女アイアンメイデン』じゃ」


 エスメラルダは微笑みながら、像の蓋を開けて見せる。

 中身は空洞だが、至る箇所に鋭利な棘状の突起物が設置されていた。


「エスメラルダは『拷問のスペシャリスト』だ――アレク、今からお前にこの中に入ってもらう」


 俺の言葉に、アレクの表情は恐怖と絶望に歪み、一瞬で青ざめる。


「なんだって!? そんな中に入ったら、僕は死んでしまうじゃないかぁ、おい!?」


「安心せい。致命傷にならぬ箇所に棘を設置しておる。出血も最小に抑えられるぞ。その分、激痛が伴うから覚悟するのじゃ」


「安心できるか、アホか!? 嫌だァ、そんな中に入ってたまるか!!!」


「見苦しいぞ、アレク。望み通り命は助けてやるんだ、贅沢言うなよ」


 俺は左手で、アレクの金髪を鷲掴みにする。

 そのまま軽々と持ち上げた。


「い、いでぇっ……な、何する!? やめ、やめてください!」


「幽閉する前に、お前のスキルを貰う――《無双吸収ピアレスドレイン》」


 左手から漆黒の渦巻きが発生し、アレクのスキルを吸引して飲み込んだ。


 これで勇者スキル――《会心の一撃クリティカルMAX》は俺のモノとなった。



「ほら、入れ」


 俺は、アレクを蓋が開けられた『鉄の処女アイアンメイデン』の中に放り込んだ。


「嫌だぁ! シユン様ぁ、許してぇ! どうかご慈悲をぉぉぉっ! やめてぇ! 残酷なことしないでぇ! お願いしますぅぅぅ!!!」


「エスメ、やってくれ――」


「はい、ザフト様」


 エスメラルダは躊躇せず蓋を閉めた。



 バタン



「ぎやあぁぁぁぁぁぁっ! いぃいでえぇぇぇぇぇぇ、あああぁぁぁぁぁ――……」


 アレクの苦痛の絶叫が広々とした部屋中に響き渡った。


 本来なら叫ばせないように、あの中に口枷も設置されているようだが、エスメラルダに依頼しあえてその機能をカットさせた。


 勇者アレクの悲鳴を聞くためになぁ。


 しかし、まるで豚の尻を蹴り飛ばしたように、いい声で喘いでくれる。

 実際、蹴ったことねーけど。



「これで最後だ――《無限格納庫ハンガー》」


 シユンとしての固有スキルを発動させる。

 フッと真っ白な扉が『鉄の処女アイアンメイデン』の前に現れた。


「アレク、激痛を与えたままお前をこの異空間に半永久的に閉じ込めてやる。幸い『鉄の処女アイアンメイデン』は物体だから収納は可能。俺の意志がない限り、二度とそこから出ることはあり得ない。一度も試したことはないが、きっと異空間内では空腹や生理現象は起こらない筈だ。それと俺が死ねば異空間は永遠に消滅するぞ」


「い、ぃぃ嫌だぁ……ど、どこまで、僕を……ひ、ひとでなしぃぃぃ……」


「ああ、今頃気づいたのか? 俺は魔王だからな。苦痛と屈辱、そして絶望を味わいながら永遠に苦しんでくれ。じゃあな」


 無限格納庫ハンガーの扉を開け、アレクが入った『鉄の処女アイアンメイデン』を収納させる。


 白い扉は閉じられ消滅した。


「――復讐完了」


 俺は自分が不気味なほど口角を吊り上げていることに気づく。


 アレクに殺されたとはいえ、自分でも引いてしまうくらい残忍な一面を見せている。


 まさか、このまま魔王として意識まで変わってしまうんじゃないのか?

 そんな不安が過ってしまう……。


 頭から懸念を振り払い、別の後処理をすることにする。



「そうだ、マリーさん!」


「――はい、陛下」


 マリーベルは、すうっと姿を見せる。

 

「そろそろ勇者パーティ達に施した術を解いてくれないか?」


「わかりましたわ」


 パチン。


 マリーベルが指を鳴らすと、セイリア達を覆っていた黒い霧が晴れていく


「おおっ! やばい、やばい……」


 俺は急いで髑髏の仮面を被り、駆け足で玉座へ向かい腰を下した。


 セーフ。


 丁度、セイリアを含む他のパーティ達が意識を取り戻す。



「わ、わたし達は何を……アレク? アレクはどうしたのです?」


「神官よ、勇者アレクは俺が処刑した」


 俺の発言に、セイリアを含むパーティ達は驚愕する。

 しかし誰一人として涙を流す者はいない。


 まぁ奴の本性と真実を知ってしまったら、大抵こんなもんだろう。


「……魔王、貴方がアレクを? 何故です?」


「理由はわかっている筈だ」


「シユンですか? でも貴方には関係ないのでは?」


「我ら魔族は仲間意識が高く同胞の絆を強く重んじる。貴様ら人間と違ってな……私欲のために仲間を裏切り殺すような奴に、この魔王と渡り合う資格はない……それが理由だ」


「どうして貴方はシユンのことを知っていたのです?」


「俺は魔王ザフト……この世界に知らぬことはない」


 セイリアは尚も不思議そうに、じっと俺を見つめている。

 思わず近づいて抱きしめたくなりそうだ。


 彼女は何かを納得したように、こくりと頷いた。


「そうですか……わたし達をどうするのです? 殺すのですか?」


「いや、今回は見逃してやる」


 マリーベルに指示し『聖剣ファリサス』をセレイナに渡した。


「これは、アレクの……」


「神官、貴様が持っておくがいい。その強き意志があれば、ひょっとしたら使いこなせるかもしれん。教義上、刃が持てぬなら別の者に委ねても良い」


「ど、どうして私達を見逃すの?」


 黙っていたルーファナが恐々と聞いてくる。


「今回の勇者アレクの不始末を公表させるためだ。このままでは名誉の死になってしまうからな……真実を語る生き証人が必要だ。生かす人数が若干多めなのはサービスだと思え」


「……ザフトと言いましたか? 貴方は魔王ですよね?」


 セイリアは俺のやり方に疑念を抱きつつある。

 少し温情を見せすぎたか、これ以上のやり取りは危ないなぁ。


「見ての通りだ――ダークロード、モエトゥル。客人をダンジョンの外まで送ってくれ。丁重にな」


 俺が声を掛けると、暗闇からダークロードとモエトゥルの二人が現れる。


「ハッ、陛下」


「わかりました、兄様」


 二人に案内され、セイリア達は『玉座の間』から出て行った。






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