第13話 勇者アレクVS魔王ザフト戦
玉座の間には俺とアレク、そして五感を奪われ呆然と立ち尽くしているパーティ達だけとなる。
ついに、この時が来た――。
今、俺の気分は嘗てないほど高揚している。
ある意味、愛するセイリアと再会を果たしたよりも嬉々たる衝動に駆られていた。
目の前に蹲り、小刻みに身体を震わせる勇者アレク。
嘗ての祖国フォーリアでは、その容姿から「黄金の勇者」と、もてはやされていた男。
そんな奴が随分と滑稽な姿を晒しているじゃないか。
何とも無様……そう思った瞬間、俺の心はより暗黒の闇に占領されていく――。
「さぁて……これでやっと本音で喋ることができるな、アレク」
「……テメェ、やっぱりシユンなのか!?」
アレクは顔を上げ、俺を睨みつけた。
よく見たら、歯も何本か折れて抜け落ちているようだ。
マリーさん、ガチで容赦なさすぎ(笑)
アレクは、ふらつきながら立ち上がる。
その姿を見て、俺は自然と唇が吊り上がった。
「意識と見た目はな……だが、この身体は正真正銘の魔王ザフトだ。お前に殺されたおかげで、どういうわけが蘇生中の魔王に転生してしまったらしい」
「魔王に転生だと、嘘だ!?」
「嘘じゃない。現にルーファナの鑑定魔法でも俺がシユンだと見抜けなかったろ? つまりそういう事だ」
「信じられない! お前が……お前みたいな奴が魔王などと!?」
「だったら、その身で試してみればいいだろ? その腰にぶら下げている『聖剣ファリサス』はお飾りか?」
「舐めんなよ! シユン如きが!」
アレクは剣を抜いた。
相変わらず、眩い程に鮮やかな光輝を発した聖剣である。
ドス黒い奴には勿体ない代物だな。
完全に所有者を間違えている。
「勇者スキル発動――《
同時に、アレクの全身が闘気に溢れていく。
一定時間、必ずクリティカルヒットを発生させる強力なレアスキルだ。
そうでなきゃ面白くない。
「流石は勇者様だ――《
俺の目前に身長と同じ大きさの『白い扉』が出現する。
瞬間、アレクは噴き出した。
「プッ、ハハハハハッ! 何それ!? おまっ、非戦闘用の雑用スキルじゃねーか!? 何が魔王ザフトだ!? やっぱりテメェは雑用係のシユンだ! びびって損したわ!」
どこまでも俺を嘲笑う、糞勇者め……。
だが、まるでムカつかない。
寧ろ楽しくて心が躍ってしまうじゃないか。
――貴様のこれから末路を想像すればするほどな……。
「いいから、とっととかかってこいよ。クズ勇者」
「うっせぇ! カスの癖にイキってんじゃねぇぞ、コラァ! 喰らいやがれぇ!」
アレクは猛スピートで駆け出し、俺に向けて斬撃を仕掛けてくる。
だが、
――ガシッ!
俺は片手で剣を受け止め、剣身をがっしりと握り締める。
「バ、バカな!?」
「――スキル《
ちなみに《
まぁ、Lv.999の俺に、Lv.100あるかないかのクリティカルヒットなんて、まともに受けたとしても知れているがな。
「クソッ! なんて力だぁ! とっとと剣を離しやがれぇ!」
アレクが必死に悶えている。
ん? そうか。
俺が掴んでいる聖剣を離してほしいのか?
「ほらよ」
俺が手を離した瞬間、アレクは勢いよく後ろ倒れ転がってコケる。
「ちくしょう! シユンがぁ!」
「もうお遊びはいいな。そろそろ決着を着けよう――《
俺は左手を翳し、漆黒の渦を出現させる。
「な、なんだそりゃ!?」
「知りたかったら、もう一度かかってこい」
「シユンがぁ……シユンがぁぁぁぁっ!!!」
アレクは俺に向けて剣を振るい何度も斬りつけてきた。
ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ――……!!!
《
しかし、俺は無傷である。
「なんで、攻撃が通じないんだよぉ!?」
「これが答えだ――」
俺は右腕を翳すと掌から新たな漆黒の渦巻きが出現する。
ついさっき受けた攻撃をそのままアレクへと跳ね返した。
「ギィヤアァァァァァァッ!」
アレクの全身が無惨に斬り刻まれる。
あっという間にボロ雑巾状態となり、そのまま床に倒れた。
「これが、魔王ザフトの固有スキル《
「ああ……ひぃ、ひぃぃぃつ!」
最早、アレクは起き上がることができない。
芋虫の如く床を這って逃げようとする。
「逃げんなよ」
俺は背中を思いっきり踏みつけた。
「ひぎぃ! ゆ、許してください、シユン様ぁ! 僕が愚かでした! どうか命だけは勘弁してくださぁぁぁい!」
先ほどまでの虚勢はどこへやら、必死で許しを請う勇者アレク。
よく見たらズボンを濡らして失禁しているじゃないか。
「ダッセーな。今更命乞いか? 勇者らしく散った方が英雄として祭り上げられるんじゃないか? 何せ、魔王とタイマンして潔く敗れるんだからな」
「嫌だぁ! 死にたくない! 勇者なんかどうでもいい! 英雄なんてならなくてもいい! だからどうか命だけはお助けくださいぃぃぃっ、魔王様ぁぁぁぁっ!」
「……どうしようかなぁ。じゃあ、まずその左目を貰おうか」
俺はアレクの左目に指を入れ、埋め込まれた義眼こと『
まるで穴に嵌ったビー玉をほじくるように、意外とあっさり取り出せた。
「ひぐぅっ!」
奴の顔が苦痛に歪み呻いている。
「痛いか? だが俺が斬られた背中と腹部はもっと痛かったぞ」
「は、はい……すみませんでした!」
俺はアレクを無視し、握っている魔道具を見入った。
これが『
奴から離れた瞬間、鉛色の物体に変化している。
何か禍々しい魔力を感じるが、魔王の俺にとっては寧ろ心地いい。
事実上、アレクの奴は左目を失うも自業自得だな。
どんな仕組みで魔道具と融合させたか知らないが、簡単に女と交わるだけを目的に自分の片目を犠牲にするなんて、バカを通り越して呆れてしまう。
俺はスキル《
奥行が見えない異空間へと繋がっており、その中に『
バタンと扉がしまり、収納が完了した。
片足で踏みつけている勇者に視界を置く。
「アレク。本来ならこのまま殺そうと思ったが、お前の無様な姿を見ていたら興醒めしてしまったよ。今頂いた魔道具と、その『聖剣ファリサス』を頂戴することで命は奪わないでおくぞ」
「ほ、本当ですか!? シユン様ぁ! ありがとうございます!」
「――ただし」
生きられる希望が見えたからか、パッと表情が明るくするアレク。
対して、俺は不敵にニヤリと微笑んだ。
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