第10話 魔王様からのお持て成し
とか考えていたら、その機会は意外と早く訪れる。
「侵入者だと?」
「はっ、陛下。おそらく、フォーリア王国を代表する勇者パーティかと? 聖神武具『聖剣ファリサス』を操り、ダンジョンに潜入した模様です」
「密偵の鑑定では、どれもLv100も満たない寄せ集め達。ダンジョンに潜む魔物達で行き詰って終わりでしょう」
玉座の間にて、ダークロードとモエトゥルから報告を受ける。
俺はすぐにアレク達だとわかった。
「そうか……意外と早かったな。大方、後先考えずに進んでいるんだろう。のこのことな……ククク」
思わず魔王らしく喉を鳴らして微笑んでしまう。
わざわざ向こう側から復讐されに来てくれているのだからな。
にしても、英傑揃いの勇者パーティ達が侵入したのに、側近達はやたらと落ち着いている。
この者達からすれば、ただの鼠か害虫程度しか思ってないんだろうな。
俺達が住む魔王城は『奈落』と呼ばれるダンジョンから、さらに最下層部にある『深淵の地下都市』に位置し、それらを総称として『魔王都』と呼ばれている。
ダンジョンは複雑な迷宮となっており、数多くの強力な魔物達で蠢いていた。
熟練されたSSSランクの冒険者達とて攻略は容易ではない。
勇者パーティとて同様だろう。
「道半ばで斃されても困るか……」
俺は玉座に背を預けながら頬杖をつく。
――そして考える。
復讐はやはり自分の手で下したい。
それにパーティ達から直接話も聞きたいしな……。
俺はチラッと、ダークロードとモエトゥルに視線を置く。
「ダーさんとモエちゃんって、俺の言うこと大抵聞いてくれるんだよね?」
「はっ、一応は……(また人間の美少女をかっさらって来いと命令してくるんじゃないだろうな、このエロ骸骨が)」
「はい、陛下(兄様のために私は存在しているのですから)」
「それじゃ頼みがあるんだけど――」
~アレクside
ダンジョンに潜入し、三日目。
相当な数の魔物を斃したと思う。
おかげで結構レベルは上がったものの疲労困憊には違いなかった。
怪我や損傷はセイリアが治癒してくれ、疲労は装備している
いつどこで魔物が現れるかわからないから気を休む暇もなかった。
食料も底をつきかけている。
「アレク、ここは一旦引き返しませんか?」
「セイリア、何言ってんだ? まだ半分くらいしか進んでないじゃないか? ここで引き返したら、これまでの苦労が水の泡だろ?」
「私もセイリアの意見に賛成よ。これ以上、無理に先へ進んだら全滅するわ」
「アタシもそう思う……魔王城には、さらに強力な魔族がいるんでしょ?」
「せめて
「なんだよ、レイド! まるで僕が悪いような言い方はやめてくれ! シユンの件は彼が自ら出て行ったって何度も言っているだろ!?」
「レイドはそんなこと一言もいってないわ……落ち着きなさい、アレク」
「クソォ!」
ルーファナに指摘され、僕は舌打ちをする。
どいつもこいつも臆病風に吹かれやがって!
手柄が欲しくないのか!?
魔王を斃せば英雄になれるんだぞ!?
多少、無茶しても勇敢に戦うべきだろ!?
「アレク、わたしはここで死ぬわけにはいきません。祖国に戻り確認したいことがあります。みんなの意見も一致していることですし、ここは撤退することも勇気ではないでしょうか?」
セイリアの奴……戻ってシユンが生きているかどうか確認するつもりか?
クソったれ共が……。
――んなこと、させねーよ!
ああ、もういいわ。
ここは「もう少し進んでから」とか、適当な御託を並べて強力な魔物にこいつらを襲わせてやる。
セイリア以外の連中には死んでもらい、二人っきりの場所で強引に初モノを奪う。
この女には、その後に死んでもらえばいいだけのことだ。
あとは僕だけ生還し、国王に頼んでより強力なパーティを編成してもらいリベンジすればいいだけのこと。
なぁに、それだけのことさ――。
「ちょっと、あれ何ッ!?」
ララノアが尖った両耳をピンと張らせ、前方に向けて指を差す。
――奥側に大きな鉄の扉がある。
「……さっきまで、あんな扉ありましたか?」
「不自然ね。罠じゃないの?」
セイリアとルーファナの問いに、僕は生唾を飲み込む。
「こういう時に索敵能力がある、シユンが入れば助かるんだがな……」
レイドはしれっと一人で扉へと近づく。
「おい、レイド!?」
「アレク、もしオレの身に何かあればみんなを撤退させてくれ。約束だぞ」
奴は言いながら取手を握り、力強く扉を開ける。
その潔い勇敢な姿に、女達は息を呑んで見守っていた。
ちくしょう……あの野郎、カッコつけやがって!
本来、女達の羨望の眼差しは全て僕のモノなのにいぃ!
※アレクはレイドが実は女の子であることを知りません。
開けられた扉の先に、全身に甲冑をまとったイケメン風の黒騎士と、白髪おさげの魔法使い美少女が立っている。
「我が名はダークロード。魔王ザフト様に仕える黒騎士だ」
「同じくモエトゥル。
魔王ザフトだと!? こいつら側近の中ボスか!?
なんでダンジョンのど真ん中で遭遇するんだよぉ!?
普通、魔王城で待機しているもんだろーが!?
「オレはレイド。勇者パーティの
「知っている。入れ」
「何?」
「どうした? 我が主に会いに来たんだろ?」
「……そうだが。アレク?」
レイドは困惑しながら、僕に振ってくる。
いきなりこっちに振ってくんなよ、この脳筋がぁ! 肝心な時に決断力のねぇ野郎だ!
「ほ、本当に魔王に合わせてくれるのか?」
「そうだ、勇者よ。どういうわけか、魔王様が貴殿らに会いたがっている」
僕達に会いたがっているだと?
どういうことだ?
そうか……きっと僕の実力を危険視して今のうちに潰しておこうって魂胆だな!?
「みすみす敵の罠にハマるつもりはない! そうだろ、みんな!」
僕の主張にパーティ全員が頷く。
こういう時だけ意見合わせやがって現金な連中だぜ。
「罠かどうかは知らん。俺達はただ陛下に貴殿らを丁重に持て成して連れてこいと命じられているだけだ」
「魔王様の命令がない限り、私達は決して手を出すことはございませんので、ご安心を」
丁重に持て成すだと? 魔王が?
……なるほど、そういうことか。
僕達を魔王軍にスカウトするつもりだな。
ほら、「仲間になったら世界の半分をお前にくれてやろう」的なアレだよ。
――悪くなくね?
だって世界の半分だよ。
勇者じゃ命懸けて手柄立てたって、せいぜいしょぼい領土が与えられる程度じゃないか。
魔王側に下った方が遥かに割に合う。
少なくても人類の頂点に立てるじゃん♪
それこそ、僕の思うがままだ!
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