第9話 ピアレスドレイン《無双吸収》




 俺が魔王ザフトとして転生してから数日が経過した。



「――《無双吸収ピアレスドレイン》?」


「はい、それがザフト様の固有スキルでございますわ」


 地下の闘技場にて、側近達により戦闘の手ほどきを受けている。


 勇者アレクに復讐すると言っても、実際に自分の強さがわからないからだ。


 なんか俺、死霊王ネクロキングって職種らしいけど弱そうだからな。

 現に、マリーベルに何度も爆死されているらしいし……。


 それで実際どこまで戦えるのか知っておくために模擬戦闘を頼んだってわけだ。


 側近のみなさんも、俺の記憶が戻るよう親身になって協力してくれる。

 つーか本物の魂は昇天してみたいだから、決して戻ることはないんだけどね。



「マリーさん、どんな能力なの?」


「相手の何か一つを吸収し自分の糧とする能力ですの」


 何か一つ? 随分と漠然とした能力だな。


「実際に何が吸収できるの?」


「力なら大抵ですわ。相手の攻撃からスキルに至るまで……特に吸収したスキルはご自分でも使用できますし、部下に与えることができます」


 へ~え、なんか凄いじゃないか。


「逆に吸収できないのは?」


「物体や生命などです。ちなみに吸収した攻撃は任意で相手に撃ち返すこともできますわ。ザフト様の攻撃としてです」


 つまり相手の攻撃を自分の好きなタイミングで跳ね返すことができるのか……。


 凄くね? やるじゃん、ザフト。


 ただのエロ骸骨じゃなかったのか? あっ、今は俺なのか……。


 ――欠点は、物体や生命など取り込むことができない。

 俺ことシユンが持つ《無限格納庫ハンガー》のスキル能力によく似た弱点だ。

 こうして入れ替わってしまったことと関係あるのだろうか?



「では、ザフト様。まずは模擬戦を開始したしましょう――ラビテース」


 マリーベルが手をパンと叩くと、一人のダークエルフの少女が現れた。


 灰色の長い髪を後ろに縛ったポニーテル。褐色の肌、小柄の体系の少女。

エルフ族だけあって美しい顔立ち。

 どこか勇者パーティのララノアと重なるが、この子の方が胸はある。


 彼女は、ラビテース。


 こう見ても魔王軍の四天王の一人にして、ダークエルフの族長なのだ。

 幼く見えるが実年齢は結構イッてるらしい。


「ザフト様、ボクがいっちょ相手してあげる」


 どうやらボクっ娘らしいな。

 にしても魔王相手にタメ口か……別にいいけど。


「んじゃ、ラビ。頼むよ」


「オッケー♪」


 ラビテースは軽く返事をして両手で印を結び精霊語で呪文を唱える。


 地下闘技場に突風が吹いた。

 ラビテースの背後から激しい渦を巻き、巨人の姿に形勢されていく。


「風の王ジン――召喚魔法だよ」


「四大精霊と呼ばれる上位精霊ですわね。まぁ、ラビテースったら容赦ありませんわ~」


 ドヤ顔のラビテースに、穏やかな口調で感想を漏らすマリーベル。

 

 高レベルの精霊使いエレメンタラーでさえ、まともに召喚できない上位精霊をあっさり呼び出せるなんて、とんでもないダークエルフ娘だ。


「ラ、ラビちゃん? こ、これ模擬戦闘だよね? ひょっとして俺を殺す気じゃないよね?」


「勿論だよ。ザフト様なら問題ないでしょ? でも油断したら死亡記録102回目更新になるから気を付けてねえ」


「ザフト様~、ファイトですわ~♡」


 二人共、呑気に言いやがってぇ!

 こんな相手、ドラゴンでも勝てねぇだろ!?


 しかし……なんだ?


 上位精霊が相手だってのに、ちっとも怖くないぞ。


「《ウィンドスラッシュ》!」


 ラビテースは風の王ジンに指示し攻撃を仕掛けてくる。

 無数の疾風の刃が俺を襲う。


 俺は左腕を前に突き出した――。


「《無双吸収ピアレスドレイン》!」


 スキルを発動させる。

 掌から漆黒色の霧のような渦巻きが発生され、瞬時に疾風の刃を全て吸い込む。


「ザフト様、そのまま任意で相手に撃ち返すことができます」


 マリーベルの助言で、俺は右腕を前に出す。

 さっき吸収した攻撃を放とうと狙いを定めた。


「ラビ、逃げてくれよ――《ウィンドスラッシュ》!」


 渦の中から疾風の刃が放出され、風の王ジンへと向けられる。

 俺の攻撃として変換された疾風の刃が、ジンの全身を斬り裂いて消滅させた。


 瞬間、ラビテースは「うわっ、ヤバッ!」と叫び、その場から姿を消した。


「流石、お見事ですわ♡」


「ひぃ~っ、危な~い。だから問題ないっていったしょ~?」


 ラビテースはいつの間にか、マリーベルの隣に立ち冷や汗をかいていた。

 少しワザとらしい演技に見える。多分この子も本気を出してないだろう。


 しかし……。


「《無双吸収ピアレスドレイン》か……凄いスキルだな」


「ザフト様、自分のスキルなのにまるで他人事だね? 記憶がないんだっけ?」


「……まぁね。あのぅマリーさん、以前吸収して獲得したスキルって、どう把握すればいいんだい?」


「念じれば、状態表示板ステータスとして浮き出ますわ。それで確認することができるでしょう」


 なるほど、やってみるか。


 俺は念じると頭上に漆黒の渦が発生し、そこから半透明の板が幾つも飛び出してきた。


 目の前でカードのように並べられる透明の物体群。


 これが状態表示板ステータスだな?

 全ての板にスキル名が表示されている。


 にしても数が多い、100個くらいはあるんじゃないか?


「スキルを使用する場合、状態表示板ステータスに触れて念じれば使用することができます。但し1日1回のみの効果です。再び同じスキルを使用するのに丸1日待たなければなりませんわ」


「つまり同じスキルの連続使用はできないってことだな?」


「その通りですわ。あと一度部下に授けたスキルは返却するまで、ザフト様は使用することはできません」


 ふむ、大体わかったぞ。

 

 でも、こんなに沢山あると全てを把握するのに時間が掛かるな……。

 おまけに戦闘中だと悠長に眺めている暇もないだろうし……。


 すぐ役立ちそうなスキルを10個くらいチョイスして、いつでも引き出せるよう別の方法でストックできないだろうか?


 この方法で試してみるか。


「――《無限格納庫ハンガー》!」


 俺はさらに目の前に『白い扉』が出現した。

 扉を開けると特殊空間へと繋がっている。


 目にして良さそうなスキルを選び、その中へと入れた。

 閉めると扉は消滅する。


「ザフト様、今のは?」


「俺のもう一つのスキルさ」


 思った通り、シユンのスキルも健在だ。

 おまけに魔王のスキルと相性もいいぞ。



 ククク……。



 この力なら容易く勇者に復讐ができるだろう。



 ――待ってるぞ、アレク!






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