第7話 蠱惑の魔道具




~アレクside



 シユンを葬る前に訪れた古代神殿にて。


 そこは魔物が棲みつきダンジョンと化していた。


 だが神殿の中には、古代魔法で封印された神聖武器が隠されていると噂を聞き、僕達は攻略に挑むことにした。


 全ては魔王を打ち倒すための絶対的な武器を入手するのが目的だった。


 魔王は不死の身体を持ち、歴史上何度も蘇っている化け物だ。


 おまけに相当危険なスキルを持ち合わせていると聞く。


 いくらレベルを上げようと、ノーマル装備では到底勝つことはできない。

 勇者の常套手段である魔王城に忍び込んで暗殺を目論んでもだ。


 不可能を可能にするには強力な武器が必要だ。


 それこそ旧神が造ったとされる神聖武器が……。



「勇者スキル発動――くらえ! 《会心の一撃クリティカルMAX》!」


 僕は神殿に棲みついていたボス格であるミノタウロスに向けて剣を振るう。


 このスキルは勇者の称号を得た時に『スキル降臨の儀式』覚醒した能力だ。

一定時間、必ずクリティカルヒットを発生させる強力なスキルでもある。



 グギャァァァァァァァ――ッ!!!



 ミノタウロスは断末魔の悲鳴を上げ斃された。



 見たか、これが勇者の力だ!


 パーティの女子達よ、この強くカッコイイ僕に羨望と愛欲の眼差しを向けておくれ!



「――シユン、大丈夫ですか!?」


 え?


 振り向くと、セイリアが倒れるシユンを起こして回復魔法を施している。


「ああ俺は大丈夫だ……ごめん、セイリアにみんな……足手まといになっちまって」


「そんなこと……わたしを庇ってくれたばかりに、雑用係ポイントマンの貴方がこのような怪我を……」


「いや、本当は神殿の外で待機してなきゃいけない役割なのに勝手に出てきただけだから……」


 二人がイチャイチャやり取りしている中、それぞれの戦いを終えた他のパーティ達が近づいて行く。


「シユンの気持ちもわからなくもない……だがお前に何かあった方が、セイリアだって悲しむと思うぞ」


「レイド……」


「そっだよ、シユン。キミに何かあったらアタシ達だって悲しいんだからね」


「ララノア……ありがとう」


「少しは私達のことも信頼してよね、シユンくん」


「ルーファナ姉さん……ごめん」


 な、何これ?


 誰も俺の活躍見てねぇのかよぉぉぉ!


 おーい、んな雑用係ほっぽいて、みんなで俺を褒め称えてくれよぉ!!!


 どいつもこいつも何故だ!?

 なんで、そんな雑用のカスみたいな男ばかりよいしょするんだ!?


 僕は勇者アレクだぞ!


 みんなが憧れ、大抵の女共なら喜んで股を開く偉大な存在なんだ!


 なのに何だ、この疎外感は!?


 シユンの方が僕より勝っているというのか……?


 んなわけあるか!


 認めない!

 絶対に認めねぇぞぉっ!!

 こんなの認めてたまるかぁぁぁぁぁっ!!!



 ――ちくしょう。


 今に見てろよ……シユン。


 近い内にテメェから全てを奪ってやる……この僕がなぁ!



 気を取り直して、僕達は先を進む。


 整えられた石で積み重なった聖壇があり、そこに黄金色に輝き鍔と柄頭に見たこともない宝玉が埋め込まれた剣が祭られているかのように突き刺さっている。

 聖壇の下に専用の鮮やかな装飾が施された鞘も置いてある。


「みんな見ろ、神聖武具だ!」


 僕は興奮して一番に駆け寄る。


「……聖剣ファリサス。あらゆる魔を切り裂く本物の武器だわ」


 ルーファナは勝手に鑑定魔法で調べて言った。

 ふん、この圧倒的な存在感……偽物であってたまるか。


 僕は腕を伸ばして柄を握りしめる。

 そのまま聖剣を引き抜いた。


 重さはほとんど感じられず、まるで自分の腕と一体化したように手に馴染む。


「これが聖剣ファリサス……僕専用の聖剣だ!」


 僕はドヤ顔で手にした聖剣をパーティ共に見せつける。

 全員がその美しさと聖刃の輝きに感嘆の溜息を漏らした。


 そうだ単細胞共、それでいい……。


 もっと僕を褒め称えるべきなんだ。


 女達は僕を求め欲情し、男達は媚びへつらえばいい。


 それこそがお前達の本来あるべき姿なんだ。



 どうだ、シユン!


 これが誇り塗れのゴミカスみたいな雑用係のテメェと、黄金の勇者と謳われたこの僕アレク様との違いだ!!


 思い知ったか、ああっ!!!?


「あっ、ごめん。立ち眩みが……」


「シユン、大丈夫ですか!? 遠慮せず、わたしに掴まってください!」


「ありがとう、セイリア……お言葉に甘えさせていただくよ」


 おい! おまっ……僕を無視して公然の場でイチャついてんの!?


 挙句の果てに、他のパーティ達も僕から視界を外し、「シユン、大丈夫!?」と駆け寄っている。


 腹たつわ~!

 聖剣より雑用係の心配する勇者パーティってどうよ!?


 俺はイラっとしながら、聖壇の下に置かれている鞘に剣を収めた。


 その時だ。


「ん――? 何だこれは?」


 鞘の影に隠れるようにあった丸い物体に注目する。


 鉛の塊のようであるそれは、何がグロテスクな形をしている。


 まるで人の目玉のようだ。


 しかも聖剣とは違い、禍々しい気に溢れている。


 僕はこっそり鑑定魔法でそれを調べる。

 勇者になる前に身に着けた魔法だ。


 本当は商人になって、がっぽり儲けて世界中に愛人を作る予定だったからな。

 気まぐれで受けた勇者資格試験に受かって、ノリでなったって感じってやつぅ?


 まぁ、才能だろうねぇ。


 それはそうと、目玉の鑑定結果をみる――。



 ……《蠱惑の瞳フラストレーション・アイズ》?



 聞いたことがあるぞ。


 確か目的の異性を魅了し虜にする魔道具だ。


 どうして、そんな代物が聖剣と一緒に置かれているんだ?

 さも、わざとらしく隠されたみたいに……。

 あえて聖剣を所有する者だけに見つかるように設置された意図を感じるぞ。


 ――まぁ、いい。


 これはいいアイテムを手にいれたぞ。


 幸い、他のパーティ共は糞カスのシユンに夢中だ。


 誰も僕を見ていない……これはチャンスだ。

 今だけは感謝するぜ、雑用係さんよぉ。


 僕はサッと目玉の魔道具を拾いポケットにしまい込む。





 その後、僕達は神殿から離れて野営する。


 誰もいないところを見計らい、自分の左目に魔道具を埋め込んだ。


「うぐぅ!」


 一瞬だが激痛が走る。


 左目は消滅し、《蠱惑の瞳フラストレーション・アイズ》は僕のモノとなった。


 視界は以前通り変わらない、寧ろ暗闇でもはっきり見えるようになっている。

 鏡で確認するも特に違和感もない。


「こりゃいい……早速、手頃な女で試してみるか」






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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