第6話 勇者パーティ達の手記




 ~パーティ達の手記



〇神官 セイリアの手記


 シユンがいなくなってどれくらい経つでしょう。


 どうして貴方は居なくなってしまったの?

 アレクが言うように本当にパーティにいるのが怖くなったから?

 だとしたら、わたしのせいかもしれません。


 わたしが神官として司祭様の推奨で勇者パーティに加入したばかりに、貴方を巻き込んでしまった。

 シユンは戦うことを嫌う心優しい人だったのに……幼馴染のわたしを案じて一緒にパーティに入ってくれました。

 

 とても嬉しかったです。


 だからこそ、お互い秘めていた想いを告白しあったのですよね。


 シユン……。


 わたくしは今でも貴方が好きです。心から愛しています。


 勇者アレクは、時折わたしを妙な眼差しで見つめてきますが、わたくしは一切動じません。

 だからシユン、どうか祖国フォーリアでお待ちください。

 魔王を討ち斃した後、貴方に会いに行きます。


 もし、アレクが嘘をついて、貴方に危害を及ぼしているのなら……。



 ――わたしは絶対にアレクを許さないでしょう。






 〇魔道師 ルーファナの手記


 もうじき魔王が潜むとされるダンジョンに入るわ。

 けど、私は不安を感じずにはいられない。


 勇者アレクよ。


 表向きはいつもと変わらないけど最近様子が変だわ。


 特に『聖剣ファリサス』を手に入れたあたりからね。

 けど、あの聖剣は本物よ。

 鑑定魔法で調べたから間違いない。


 ひょっとしたら廃墟神殿で、もう一つ何か拾って所持している可能性があるわ。

 ララノアの件で察するモノがあった。


 魅了系の魔道具、あるいは呪法具の類か?


 特に抵抗力レジストの低いエルフ族だと簡単に術中に掛かってしまうでしょうね。


 私も身を案じ常に抵抗力レジストを上げる魔法を施しているわ。

 セイリアのような『鋼意志を持つ聖女』と称される意志の強い神官は問題ないみたいね。


 それにしても、シユンくん……。


 本当に自分から抜けたのか怪しいわ。


 シユンくんは純朴で常に周囲に気を配れる男の子よ。

 私は彼のことが好き。可愛い弟みたいな存在だけどね。

 

 あの真面目なシユンくんが勝手にパーティを抜けるとは思えない。


 ひょっとしら、アレクが嘘をついて無理に追放させた可能性もある。

 今の勇者なら、やりかねないわね……。


 本当なら、こんなパーティ解散するべきよ。


 でも国王や民から魔王討伐を期待され多額の資金援助もされている以上、魔法カレッジを代表する立場から、このまま引き返すわけにもいかない。


 どうしたらいいのかしら……?






〇弓使い&精霊使い ララノアの手記


 アタシはなんてことをしてしまったの。


 どうしてアレクと、あんなことを……。


 あの日、キャンプ地で彼に呼び出され二人っきりとなる。

 当時のアタシは、アレクを勇者として信頼し尊敬もしていた。


 だから気にしなかったけど、彼の瞳を見つめている内に頭がぼーっとしてしまう。

 気づけば唇を奪われ、自分から服を脱いでアレクを求めていた。

 ルーファナがテントに入ってこなければ、危なく初めてを奪われるところだった。


 アタシは泣きながら、その場から離れた。


 雰囲気に流された自分が嫌で嫌で情けない。


 本当はシユンが好きなのに……。


 ずっと片想いしていたのに……。


 エルフのアタシでもシユンは普通の女の子として接してくれた。

 辛い時も傍にいてくれて慰めてくれた。


 いつも優しいシユン……けど彼には幼馴染のセイリアがいる。

 二人が恋人同士なのはわかっていた。


 だから妹みたいな存在として傍にいられればと思っていたのに……。


 パーティのみんなに、アレクとの関係を知られたアタシに……。

 もう、その資格すらないのかなぁ?


 けどシユン……どうして居なくなっちゃったの?


 もう一度会いたいよ……。






〇至高騎士 レイドの手記


 我ら勇者パーティも、いよいよ魔王が潜伏しているダンジョンに挑むことになる。


 しかし、アレクの言っていることは本当なのだろうか?


 シユンが自らの意志で戦線離脱したことだ。


 あいつはそんな弱い男ではない。

 自分の役割をしっかりとこなしつつ、どんな時でも周りに気を配れる男だった。

 冒険者ではないオレとて、シユンの支援がなければここまで歩めなかったろう。


 ましてや男に扮している、このオレが……。


 国王の懐刀とされる我が家系は男子に恵まれなかった。

 オレは幼少から女子としてでなく男子として父に剣を学び、至高騎士クルセイダーと呼ばれる騎士団長の地位にまで登った。

 しかし、オレが女であること本当の名が「レイ」であることを知っているのは城内では父と国王陛下だけだ。


 そして勇者パーティが結成され、陛下の指示でオレも同行することになった。

 戦闘面では問題ないも、旅を続ける上で男であり続けることに難が生じて来る。


 特に入浴や厠での場面に難儀した。


 オレが女であることを、アレクにだけは知られたくなかった。

 何をされるかわからないからだ。


 だがシユンは別だった。

 オレの素性に気づきつつ、何も言わずに沢山のフォローしてくれた。

 

 互いに身分こそ違うが、オレにとってシユンは無二の親友だと思っている。

 他のメンバーも彼には感謝しているに違いない。


 アレク以外はな……。


 あの男、普段こそ物腰は柔らかいが、力なき者に対して見下す傾向があるらしい。

 シユンがよく愚痴を漏らしていたからな。

 それに女遊びも激しいと騎士の間で聞いたことがある。


 今回のララノアの件といい……勇者としてあるまじき不貞行為。

 こんな男だから、余計にオレの素性を知られるわけにはいかないのだ。


 それに案外、シユンもアレクが強引に追放させたのかもしれない。


 ここは陛下より密かに与えられた『勇者お目付け役』として真相を調べる必要がある。


 事と次第によっては陛下に報告せねばなるまい。






〇勇者 アレクの手記


 うっひょ~、いよいよだぁ♡


 数日後には魔王城があるとされるダンジョンへ潜入するんだ。

 僕達パーティが一番乗りさぁ~♪


 あのシユンを追放したことで野営しなかったことが逆に移動を速めたってもんさぁ。

 パーティ共の疲労なんてしったこっちゃないし~。


 僕は近い未来に向けて欲望でいつでもエネルギー全開だからね~ん。


 よぉぉぉし! こうなりゃ、ちゃっちゃと魔王ブッ斃してやんよぉ!


 んで、まずセイリアの初モノGETだぜ~♪

 その後、ララノアとリベンジ果たして、ルーファナを凌辱塗れに犯してやんよwww


 僕はアレク、聖剣を手にした選ばれし最強の勇者様だ。


 誰にも負ける筈はない。


 常に勝ち組、それが僕なのだ。


 ああ、今から目に浮かぶわ~。


 祖国の愚民どもが僕に称賛の声を上げ偉大な名を連呼する様を……。


 世界中の美少女達に囲まれ、玉座に座る新たな王の姿を……。


 その名を勇者アレク。


 この世界は僕の思うがままさ~♪






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928



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