第5話 勇者とパーティ達の亀裂
~アレクside
――シユンを追放し亡き者にして数日が経った。
当初、「シユンが怖くなって自分から辞めていった」ことを説明するも、パーティの誰も信じようとしなかった。
逆に僕が奴を無理矢理に追放させたのではないかと勘繰られ、今でも疑念を持たれている。
ぶっちゃけその通りなんだけど、僕はあくまで白を切る。
証拠もなく、これぞ死人に口なしってやつだわ(笑)。
それにパーティ達だって揉めている場合じゃないはわかっているだろう。
もうじき魔王が潜むとされているダンジョンに辿り着くからだ。
各国を代表する勇者パーティの中でも僕達が一番乗りである。
それだけでも大変名誉なことなのだ。
ましてや魔王を斃したとなれば、僕は英雄どころか一国一城の主、つまり王様にだってなれるに違いない。
そうなれば富も名誉も女も、なんでも僕の自由で思うがままだ。
想像しただけで下半身が疼いてしまうじゃないか、フフフ。
男ならこれくらいの夢を見るべきだ。
だが、このパーティの連中は全員欲がないのか、どいつも慎重な意見ばかり述べてきやがる。
「――アレク。ダンジョンへ行く前に近くの村で装備を整えましょう。
「わかったよ、セイリア……」
路を歩く後方から、銀色の髪を靡かせる美少女神官が冷たい口調で言ってくる。
僕のイチオシンであり、最もワンチャン狙っている女。
しかし――。
「……ここだけの話。シユンの件、わたしは一切信じていませんよ。彼に何かしたのであれば、わたしは貴方を絶対に許しません」
「ああ、わかってるさ……僕がシユンに何かするメリットはあるのかい? この正真正銘の勇者である僕にさ」
「……そうですね……申し訳ありません。どうも貴方の言葉が信じられなくて……あのシユンが、わたしに相談なしで勝手に抜け出すとは思えないので……」
「シユンの件は仕方ないさ。だって彼は
「それでも辛いなら一言くらい、わたしに相談しても……」
俯き悲しそうな顔をする、セイリア。
潤ませる碧色の大きな瞳、すっとした鼻梁に形の良い唇。
この暗く沈んだ表情も堪らないほど可愛い。
やっぱり、シユン如きには勿体なさすぎる女だ。
是非、僕のモノにしたい!
「ねぇ、セイリア……僕の瞳を見てごらん」
「はい?」
「ほら……」
僕は言いながら、左目に埋め込んだ《
どんな女だとうと落とせる魅了の魔道具だ。
「――なんですか、アレク? 用があるなら早く言ってください」
「え? いや……セイリア、なんともないのか?」
「別に」
バ、バカな……どうして効かないんだ!?
ララノアとはいいところまで行けたのに!?
そういや、この女……。
これまで
本人曰く「神への信仰心があれば、どんなまやかしも通じません!」って豪語してたっけ。
つまり誰よりも信仰が強すぎるあまり、
神官の中でも『鋼の聖女』と呼ばれるほど堅物クソ真面目女だと聞いていたが、これほどまでとは……。
クソッ! 自分の左目と入れ替えてまで得た力だってのによぉ!
考えてみりゃ、僕への不信感があるうちは特に効果が薄いかもしれない。
魔王を斃して信用させ、それからの方が落としやすいのかもな……。
「――セイリア。ちょっと相談があるんだけど……」
「はい、ルーファナさん。今行きますね」
セイリアは僕から離れて行く。
一番、後ろで歩いているルーファナの方へと向かった。
魔道師、ルーファナ。
ブラウン系の髪をサイドテールに結んだ、眼鏡美人であり大人びた女性だ。
普段は王都に設けられている『魔法カレッジ』で教師をしているらしい。
ちなみに結構な巨乳の持ち主だ。
正直めちゃ好みで是非にお願いしたいが、この女は頭が良すぎる。
僕が得た能力にも薄々気づいているようだ。
現にララノアとも、最後までいける所で邪魔しやがっているからな。
そのララノアは僕から離れ、レイドの背に隠れるように歩いている。
背中まで伸ばした金髪のエルフ族の少女。
実年齢が100歳超えている癖に、身体つきはまだ幼い。
だが、そこがまたなんとも良かった。
《
正気を取り戻したララノアはわけもわからず泣きながら、その場を去って行った。
あれ以来、あのエルフ女は僕を避けるようになり、ああして無害な野郎に隠れるようになったんだ。
おそらく入れ知恵したのも、ルーファナだろう。
最後に
こいつは男だからどうでもいいが、紺色の長髪を後ろに束ねており割と長身で白銀の甲冑に身を包んでいる。
キリっとした寡黙で中性的な顔立ちだ。
※アレクはレイドが男装した女性であることを知りません。
祖国フォーリア王国に仕える騎士団長であり、国王の命令で僕のパーティに加わっている。
したがって、シユンのように追放も出来ないってわけだ。
まぁ、剣士としては有能だから、そんなことはしないけどね。
なぜかシユンと妙に仲が良く、これまで僕がしたシユンへの嫌がらせも耳にしているかもしれない。
普段無口な分、何を考えているかわからない男だ。
一応みんな、勇者である僕の指示には従ってくれるし表向きは問題なく働いてくれる。
だがシユンを追放したことや、ララノアとの一件で、パーティ内に亀裂が生じているもの確かだ。
特に僕への信頼が失いかけている……。
だから、セイリアにも強引なこともできない。
――とりあえず魔王を斃すこと。
連中への信頼を取り戻す一番手っ取り早い手段だろう。
それまで初モノはお預けとしておくわ、セイリア。
色々と思惑を秘めながら、僕達はダンジョン近くの村に立ち寄った。
装備を整え、今晩は宿屋で体を休ませることにする。
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