第4話 事の経緯と魔王の思惑




 俺は『玉座の間』に連れて行かれた。

 石畳の床に赤絨毯が直線状に敷かれている。


 メイド服姿の美少女達が壁際に並び、俺に向けて丁寧にお辞儀する。

 よく見たら全員が魔族のようだ。


 奥行き側で数段ほど段差を上がった所に、豪華なデザインの『玉座』が設置されていた。


 全員に「陛下はそこ」と指示され、俺は渋々座ってみる。


 ――とても妙な気分だ。


 平民の俺がいきなり王様に出世したみたい……。


 しかも、魔王様だっけ?



 マリーベルを真ん中に、モエトゥルとダークロードが左右に並んで跪く。

 誰もが俺に向けて敬意を示している。


「じゃあ、話してもらっていいですか? 蘇生術ってなんですか?」


「はい、陛下を生き返させるため、私が施した術です」


 モエトゥルは顔を上げて答える。


「生き返させる……ってことは、俺は一度死んだってことかい?」


「一度ではございませんわ。かれこれ、101回目でしょうか」


「その度に、モエトゥル様が糞骸骨……コホン。陛下を蘇生させていた次第です」


 マリーベルとダークロードの説明に、俺は頭を抱える。


 ――何を言っているのか、さっぱりわからない。


 つまり、あれか? 


 俺は勇者アレクに殺された何かしらの原因で、『魔王ザフト』として蘇ったってことか?


 にしても腑に落ちない。


 みんな、どうして俺を不審がらないんだ?


 その魔王ザフトがどんな容姿か知らないけど、少なくても蘇生されたこの顔は俺のままだぞ。


 こうして対面しているだけで「お前、誰よ?」ってならないんだ?


 そういや、ダークロードって黒騎士がさっきから俺に向けて可笑しなこと言ってな。


「――ダークロードさん、糞骸骨ってどういう意味ですか?」


「い、いえ、陛下……あくまで愚痴……いえ、私の独り言です。どうか聞き流してください。それに側近の部下である者に『さん』呼びや敬語は不要です」


 けど、年上そうだし初対面だからな……。


「んじゃ、ダーさん。教えてよ?」


「ダーさん……? まぁ、陛下らしくて、いいでしょう。貴方様は数百年を生きる冥王であり、死霊王ネクロキング。本来のお姿は全身が骸骨の容貌です」


「骸骨? でも俺、今はこうして生身だよ?」


「それが今回施した蘇生術の手違いであるようです。兄様、いえ陛下の魂だけを呼び戻す筈が、本来の肉体をも蘇生させてしまったようです」


「モエちゃんだっけ? でも妹のキミなら本来の俺の姿もわかるよね?」


「いえ、私は陛下に造られた存在……出会った頃から、陛下は骸骨の姿でございました(モエちゃんって……兄様♡)」


 そうか……だから今の俺の姿を見ても、誰も違和感がないのか。


「わたくしは、今のザフト様のお姿も素敵だと思いますわ♡」


「ありがとう、マリーさん」


 このマリーベルは俺の貞操を狙っているっぽいから、いくら美少女に素敵と言われても素直に喜べない。


「ところで、101回目だっけ? 俺、なんでそんなに蘇生させられてんの? 誰かに殺されたの? 実は結構、弱い魔王なわけ?」


 俺が聞いた瞬間、三人は「いや、それは、そのぅ……」口籠る。


「た、確かに陛下は何度か歴代の勇者共に暗殺され葬られております……ですが、ほんの数える程度です」


「余程の卑劣な手段か好条件が揃わない限り、勇者とて正面きって兄様と勝てる人間はおられないでしょう」


 ダークロードとモエトゥルは言いながら、同時にと中央に跪くサキュバスクィーンを凝視する。


 マリーベルは頬を膨らまし「プ~ンですわ!」と首を横に振るう。


「へ、陛下がいけないのですわ! わたくしに内緒で貴重な魔王軍の資金で、あんなおぞましいモノ、お造になられるから……」


「え? マリーさん、おぞましいモノ? 何それ?」


「……ハーレム」


「え?」


「ハーレムですわ! 人間の若くて好みの女ばかりを集めたハーレムですわ! わたくしという者がありながら~、悔しいぃぃぃぃっ!」


 いきなりヒステリックを起こす、マリーベル。

 しかもハンカチの端っこを口に咥えて思いっきり引っ張るベタな嫉妬パフォーマンスだ。


「怒り狂ったマリーベルがハーレムごと陛下を爆発させ破壊してしまうのが毎度の定番おやくそくです。陛下の好みである人間の女共は、このダークロードが元いた村に帰したのでご安心を」


「いや、それも大事だけど、そういう問題じゃないよね? 謀反だよ、それ? だって魔王を葬ってじゃん、その子!」


「はい、陛下の仰る通りですわ! どうか、わたくしに罰を! いっそ、貴方様の手でわたくしを縛って凌辱をお与えくださいませ!」


「いや、それもうマリーさんの性癖っぽいから罰にならないよ。俺は別に……なんていうか、魔族間じゃ主に刃を向ける行為もありなのかなって……」


「勿論、通常はなしです。ただ、兄様は『死霊王ネクロキング』。ヒステリックの爆発くらいなら簡単に蘇生できます。普段なら笑って済まされていたことであり、マリーベルはこう見ても魔王軍の副司令官であり、NO.2の実力者です。同じ側近とはいえ私達では裁くことはできません。支配者である陛下が『YES』なら全員が『YES』、それが魔王軍です」


 つまり、魔王ザフトはマリーベルには寛大で甘かったってわけか?

 一体、どれだけキルされたんだろう……。


 確かに憎めないサキュバスクィーンだ。

 そもそも魔王軍の予算を使って、ハーレムを造ろうとした魔王にも問題ありだし。


 つーか、そんな色欲魔王に、俺達人間達は脅威を与えられてんの?


「話は大体わかったよ……けど、俺もどうしても前の記憶が思い出せないんだ。だから、これからもみんなから教えてもらってもいいかい?」


「「「御意」」」


 三人の腹心は俺に向けて丁寧に頭を下げて見せる。


 鑑定すれば、おそらくとんでもないレベルを秘めた最上級魔族ばかりだろう。


 そして、俺はそんな魔族達にトップに立つ、魔王ザフト様ってわけだ。


 どうして、こんなことになったのか、さっぱりわからない。


 きっと、ザフトの魂と俺の魂が偶然入れ変わって、俺の形として蘇生されたんだと思う。

 たとえ無理矢理でも、そう思い込むことでこの事態を受け入れることにした。


 それにはある思惑もあるから……。



 復讐――。



 勇者アレクに対しての復讐だ。


 俺を追放し殺した男……このままでは済ませない!


 必ず報いを与える。俺が味わった以上の苦痛を与えてやるぞ!


 俺が魔王としている限り、勇者である奴がここに来るのは必然だ。


 案外、もう近くにいるかもしれない。



 あとは……勇者パーティ達。


 彼女達と話してみたい。


 もし万一、アレクが言った通りなら復讐対象になるだろう。



 そして、セイリアも……。



 こうして魔王ザフトとして、俺は勇者パーティが来るのを待つことにした。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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