第3話 魔王ザフトと側近達




 薄い暗闇の中、俺は目を覚ます。



「……生きている?」



 信じられない。


 あの高さから落ちて生き延びたなんて……。



 ハハハ。



 俺って結構悪運が強かったらしい。


 しかし妙だな。


 どこも痛くない。


 アレクに背中と腹部を斬られたのに……。


 それに、あの高さで落ちたのにノーダメージなんてあり得るだろうか?


 体も妙にふわふわする。とても心地よい感触。

 やっぱり死んでしまったのか? だとしたら、ここは天国か地獄なのか?



「――まぁ、お目覚めになられたのですね?」


 どこからか女性の声が響いた。


 俺は起き上がり周囲を確認する。

 やたら広々とした、どこかの一室のようだ。


 しかもベットで寝ていたのか。

 随分と広く豪華な作りで、まるで王様が寝そうなベッドだな。


 ふと仄かな灯りが付き、少し見晴らしが良くなる。


 少女が一人、傍で立っていた。


 青紫色の艶やかな長い髪、とても美しい顔立ちをしている。

 素晴らしく豊かな胸とくびれた腰元を描く完璧な黄金比率を誇るスタイル。

 それらを証明するかのような露出ある衣装を身にまとっている。


 だが――


 なにか違和感のある子だ。

 頭部左右に角のようなモノが生えている。それに腰のほうに蝙蝠のような羽根が見える。


 ――この娘、人間じゃないぞ!?


「誰だ、お前は!? 何者なんだ!?」


「……ザフト様。まだ怒ってらっしゃるのですね? どうか、このマリーベルに罰をお与えください」


 マリーベルっと名乗った娘は申し訳なさそうに頭を下げてみせる。


 ザフト様? 俺はベットから足を下ろし立ち上がる。

 凄く体が軽い。やはり斬られた箇所はなんともないようだ。


 手足もちゃんと見慣れた自分のモノだ。触った顔の感触も自分自身だと認識できる。

 変わった所といえば、身に着けている衣服が真っ黒で随分と綺麗な身形だ。


「キミは……一体誰と間違っているんだ? 俺はシユンっていうんだ」


「シユン? まさか……貴方様は魔王ザフト――我らが魔王軍の支配者であり、わたくしの最愛の主でございます」


 何? 今なんって言った?


「魔王ザフト? 俺が? じゃ、マリーベル……キミはやはり魔族なのか!?」


「はい。わたくしはサキュバスクィーンであり、この魔王軍の副司令官でございますわ。そして運営を統括する貴方様の側近であり、いつか正妃を切望する者……お忘れですか?」


「……ごめん。話がわからない」


「お可哀想に――」


 不意にマリーベルは俺に抱き着き、俺の頭部を抑える。その豊満な胸に顔を押し込ませてきた。


 信じられないくらい柔らかく温かな感触、優しいげな女性の香りに、免疫のない俺は赤面してしまう。

 セイリアとだって、まだフレンチキスくらいしかしたことがない。


「なっ、何をするんだ!? おい!?」


「蘇生されたばかりで、記憶が混乱されているのですね、ザフト様」


「だからザフトじゃねぇーって! いい加減、離してくれ!」


 俺はマリーベルから離れると、そのままベッドへ避難する。


「なるほど……ザフト様。ついに、わたくしと身を結ぶ決意をされたのですね?」


「はぁ!? 意味わかんねーし! それ以上近づくなよ! それ以上近づいたらアレだ! お前に凄いことするからな!」


「はい、覚悟しております。どうかお好きに……」


 マリーベルは優しく微笑み、瞳を潤ませる。


 美少女だけに思わず、きゅんとする仕草……いや、そうじゃねぇだろ!?


 このままじゃ、色々な意味で自分の身が危ない!



「――マリーベル。それ以上、あに様に無礼を働くようであれば、貴方とてただではすみませんよ」


 バンと扉が開けられ、黒いローブをまとった少女が入って来た。


 背が低く白髪のおさげ髪で、大人しそうで可愛らしい顔立ちの美少女。

 紅い目の大きな瞳だがジト目っぽい。それに肌の色もやたら蒼白だ。

 少女は落ち着いた口調だが殺気が込められている。


「モエトゥル様……失礼いたしましたわ」


 マリーベルは、さっと下がっていく。

 とりあえず、俺の貞操は守られたようだ。


「た、助かった……」


「兄様、無事に蘇生術は成功いたしましたが、少し手違いもあったようですね。記憶がないのは、きっとそのせいでしょう」


「蘇生術? 兄様? キミは誰なんだ?」


「モエトゥル。死霊魔道師ネクロマンサーであり、貴方の妹です。私のことまで、お忘れですか?」


 忘れるどころか知らないし、そもそも俺の妹はただの平民だからな。


 にしても、死霊魔道師ネクロマンサーだと?

 あの死霊魔術を操る高位の闇魔法使いじゃないか!?


 じゃ、この子も人間じゃない!? どうりで顔色が悪いと思ったら……。


 待てよ?

 モエトゥルって子が妹なら、今の俺は一体なんなんだ?


 俺は奥側に立て掛けてある全身鏡まで駆け足で移動し、自分の姿を確認する。



「――やっぱ、俺じゃん」


 正真正銘の自分の姿に安心した。


 やはり着用していた服だけは違うがな。

 真っ黒だが所々に金色の華やかな刺繍が施され、何か王族衣装にも見える。


「モエトゥル様、糞骸骨……いえ、陛下がお目覚めになられたとか?」


 落ち着いた口調で、今度は男が入ってくる。


 すらりと背の高く若い男。俺より、いくつか年上のように見える。

 頭部以外、漆黒の甲冑に身を包む騎士風の装い。重装備にも関わらず軽快な足取りで歩いて来た。

 素顔は長い黒髪をオールバックにし、何本か前に垂らしている。すっとした端整な顔立ち、クール系のイケメンっぽい。


 若干両耳が尖っており顔色も悪いので、やはり彼も魔族なのだろう。

 力強い眼光で俺の方をじっと見据えている。


「……あのぅ、貴方は?」


「ザフト陛下、またご冗談ですか? それとも側近の親衛隊隊長とはいえ、男の部下は興味ございませんか?」


「いえ、ダークロード。今回の兄様は本当に記憶がないのは確かです。私とマリーベルも思い出せないようですからね」


「なるほど……確かに普段と容姿が異なる。憎たらしい糞骸骨じゃない……いえ、失礼」


 ダークロードと呼ばれた黒騎士は軽く咳払いをする。


「ええ、確かに。しかし、その漲る魔力といい、おちゃらけた雰囲気といい……わたくし達の主、魔王ザフト様に相違ありませんわ」


 マリーベルは恍惚な笑みを浮かべながら、俺をチラ見してくる。

 隙あれば、また襲われそうだ。


 けど、誰もが俺を「魔王ザフト」と呼んでいる。


 しかも、みんな側近っていうだけあって、凄く膨大な魔力を感じる魔族ばかりだぞ。

 けど不思議に怖くない。


 なんていうか……妙な親近感さえ沸いてしまう。


 とりあえず、まずは置かれた状況の確認と情報収集だ。


「あのぅ……詳しく教えてもらえないでしょうか?」


「どうやら、今回の兄様は相当重症のようです……それでは場所を変えてご説明いたしましょう」


 モエトゥルは落ち着いた口調でいい、ある場所へ誘導された。






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