第2話 引き裂かれた想い




「シユン……本当にわたしと旅をしてくれるって本当ですか?」


 大聖堂にて幼馴染で恋人のセイリアが不安そうな表情で声をかけてきた。



 俺は聖光国フォーリア領土に位置する辺境の『ポルフ村』で農家の息子として生まれた。

 決して裕福じゃないけど、両親に恵まれ可愛い妹もいる。

 俺は幸せだった。


 そして、セイリア――。


 彼女も近所にあった教会の一人娘として生まれた。

 両親同士の親交もあり、俺達は幼馴染としてすぐに仲良くなった。



 14歳の頃、俺達は互いの気持ちを確かめ合う。


 月夜に照らされる小高い丘。


 俺とセイリアは初めて唇を重ねた。


「大好きだよ、セイリア……」


「わたしもです、シユン……願わくば、貴方のお嫁さんになりたい」


 頬を染め、長い睫毛に覆われた碧色の瞳を潤ませる、セイリア。

 俺は嬉しさと幸せな気持ちが溢れ、彼女を抱きしめた。


「勿論だよ……俺も早く大人になってセイリアを幸せにしてみせる」


「嬉しいです、シユン……愛しています」


 同時期、セイリアは聖職者としての才能があり王都にある大聖堂へ出家した。

 三~四年は修業しなければならないらしい。


 それまでセイリアと会うことができない……。


 俺も彼女の後を追う形で他の仕事に就きつつ、大聖堂内を整備したり必要な道具を作るボランティアの雑用員として勤めた。


 その間だけ、セイリアと会うことができるからだ。


 だけど彼女は修業中の身分。

 以前のように触れることはできないけど、会話をすることは許され、俺はそれで十分だった。




 しかし二年後、国王から『魔王討伐』の命令が下され、勇者パーティが結成される。


 なんでも魔王が何度目かの復活を果たしたという噂が広まっていた。


 果てしない程の長い歴史の中で、魔王は英雄達に斃されては定期的に復活して人類を脅かしていたらしい。

 その都度、各国から恒例行事のように勇者を選抜し、パーティを結成させて魔王討伐に向かわせていたのだ。


 必要であれば軍隊を動かすこともあるようだが、隣国への防衛もあるため大抵は魔王城に忍び込み『暗殺』を主流としていた。


 そして今回の勇者パーティに回復系ヒーラーの神官として最も優秀な成績を収めていたセイリアが選ばれる。


 表向きは気丈に振舞う彼女も初めての戦いで心細く不安があり恐怖もあったに違いない。

 俺も彼女だけ危険な目に合わせるわけにもいかず、空き枠だった『雑用係ポイントマン』に手上げした。


 幸い、俺は生まれながら特殊スキルがあり《無限格納庫ハンガー》の能力は  まさに雑用係に最適ということで晴れて勇者パーティに入ることができたってわけだ。




 大聖堂にてセイリアに問われた俺はニコッと微笑む。


「ああ勿論だよ。足手まといにならないよう頑張るよ」


「そんなこと――」


 セイリアは俺に抱き着いてきた。


「お、おい、マズイだろ! ここは……」


 神官となったばかりの彼女にとって異性との密着は禁止である場所の筈だ。


「今だけは『主』に目を瞑って頂きます。それに自分の気持ちは偽れない……」


「セイリア……」


 俺は華奢な彼女の身体を抱きしめ、その艶やかな銀色の髪を愛しく撫でた。


「嬉しいです……でも無理だけはしないで……わたしにとってシユンは全てなのですから」


「ありがとう、セイリア……愛してるよ。だからこそ、キミの傍にいたいんだ……魔王討伐が終わったら、俺達結婚しよう!」


「はい……心から愛しています、シユン」



 それから旅を続けて一年くらいが経過した。


 どんなに苦難が待ち受けようと互いの立場が違おうと、俺達の想いが変わることはなかった。



 俺はそう信じていた筈なのに――……。






~アレクside



「よっしゃー! シユンめ、やっと死んでくれたわぁ、ハハハッ!」


 僕は崖から落ちておく、シユンの姿を悠々と眺めて笑う。


 ――ガチで目障りな奴だった。


 ただの雑用の癖に、僕を差し置いて周囲の信頼を勝ち取ったカス野郎。


 おまけに、あんな超美少女のセイリアと幼馴染で相違相愛の恋人でもあるリア充野郎。


 許せなかった。ムカついていた。ずっと憎んでいた。


 僕は頑張って適正試験に合格して、一国を代表する勇者に選ばれたってのに……。


 シユンはなんの努力もせず、ただスキル持ちだからって理由でパーティに入りやがって。

 おまけにパーティ連中も、奴のひたむきさが良いのだの抜かして、いつもちやほや持ち上げやがる。


 僕はアレクだ。


 勇者だぞ。


 みんなが憧れ敬い、誰もがひれ伏す存在なんだ。


 なのに、何故シユンなんだ? セイリアはどうして、あんな男を選ぶんだ?


 ……まぁ、いい。



 ――邪魔者は消したんだ。



 パーティ連中には「魔王城が近くなって怖くなり自分から旅を断念した」「僕がリーダーとして相談を受け了承した」と言えばいい。


 あとは、この左目に埋め込んでいる義眼を使えば……。


 セイリアは必ず僕のモノになるだろう。



 超レア魔道具――《蠱惑の瞳フラストレーション・アイズ》。



 この『聖剣ファリサス』を手にした古代神殿で偶然手に入れたんだ。

 他のパーティの目を盗んでくすねたのさ。


 伝承では、どんな異性でも見つめただけで虜にして性奴隷と化す、どこぞの王が道楽のために作らせた道楽魔道具だ。


 この左目を使えば、どんな女でも簡単に魅了して落とすことができる。


 既にララノアで実験済みだからな……まぁ、最後まで行く寸前で邪魔が入ったがな。


 あのお堅いクソ真面目なセイリアも、シユンに見捨てられ逃げられたと思うえば心に隙ができる。


 より蠱惑もしやすいってもんだ。


 本当はシユン……お前の見ている前で、セイリアを奪いたかったがな。



「どちらにせよだ。これで、セイリアは僕の女だ――」






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