第二十二話 戦いの終止符
陸や空を覆っていた大量の魔物たちは撤退し、
幸いな事に街への被害も無く、戦いに参加していた冒険者や兵士を含め、死亡者は誰一人居なかった。
あれから俺は街へと向かい、セレシアたちの元に戻っていた。
「……まさか、セレシアが王女様だったなんて。どうして言ってくれなかったの?」
「それは……。ノーラさんには普通の友達として接して欲しかったので、敢えて言わなかったんです。言ってしまったら、距離を置かれると思っていたので……」
兵士たちがセレシアの事を様付けしている事に疑問を覚え、俺はその事について訪ねた。すると、少し言い難そうにしつつもセレシアは自分の身分が王女である事を話してくれた。それと同時に、女兵士から私語を慎むようにと叱られてしまったが、セレシア自身がそれを許しているからと
「まぁ……けど、セレシアが友達として接してくれる限りは、私も単なる友達関係でありたい……かな」
「ふふ。もちろんですよ、ノーラさんっ」
とはいえ、矢張り王女様だと知ると呼び捨てにする事をおこがましく感じると言うか、今更ながら緊張してしまうのも事実ではある。
「……ところで、ノーラさん」
笑顔で俺を見つめていたセレシアは、先程から俺の隣で佇んでいる人物へと視線を向けた。
「どうして此処に魔族が居るのか、説明していただきたいのですが……」
「ぁ、あ〜……」
俺もセレシアと同様に、隣に居る魔族……もとい、テレサの方に視線を向けた。
「あら、そんなに見つめられたら照れちゃうわぁ」
どう説明したものかと頭を悩ます俺に対し、テレサは笑みを浮かべながら茶化すように呟いていた。さっきまで身体を二つに斬られていたと言うのに、今ではすっかり元通り……それどころか、傷も完全に無くなっている。
テレサが指先を少し動かすだけで、辺りの兵士がすぐさま武器を構える程に警戒されている。確かに街を襲ってきた主犯であり、魔族ともなれば気持ちは分かるが。
「私もよく分からないんだけど……取り敢えず、もう敵意とかは無いらしいから大丈夫だよ」
「……ほ、本当に大丈夫……なんですか?」
「もちろんよぉ。まぁ……
兵士たちが一斉に剣や槍などをテレサに向けた。
「お前がそういう事言うと余計ややこしくなるだろうが……っ!」
「うぐ……っ!」
小声でテレサを叱りつつ脇腹に肘打ちしておく。ただでさえ警戒されているのに変に騒がせないで欲しいものだ、下手をすれば俺も敵対視されてしまうのだから勘弁してほしい。
「え、主様って……」
「いやいや、勝手にそう言ってるだけだから気にしないで。主とかになった覚えとか無いから、全くもって無いから」
疑問を抱くセレシアに早口で答える。これでもかと言うほどに首を左右に振り、必死に訴えた。
俺に対して何を思ったのか分からないが、あれからテレサは俺を主様と呼びつつ後をつけて来るようになった。そのため、俺は魔族に負けて操られてしまったなどと誤解されてしまい、こうして街に入るのも一苦労だった。
「えぇ〜? あんなに激しく私を激しく求めてくれたのに、あの時の言葉は嘘だったのぉ……?」
武器を構えていた兵士たちが俺の方に視線を向けてくる。
( コノヤロウ……こっちは必死に庇ってやってるんだぞ! )
俺は無言で刀に手を掛けると、少し焦った様子でテレサはきゅっと口を閉ざした。
「……気になる点はいくつかありますが、ひとまず今はノーラさんの言葉を信じることにします」
「そうしてくれると助かるよ……」
セレシアが信じてくれなければ、俺には今の状況を弁明しようがない。それこそ、この場でテレサを殺しでもしない限り。……けれど、その選択だけはどうしても出来なかった。
「ん〜? どうしたんですか主様。……もしかして、私に惚れちゃったのかしらぁ?」
そんな事を考えながらテレサを見ていると、ニヤニヤとしながら俺を小馬鹿にしてくる。やっぱり斬った方が良いかもしれない、この場で。
「ノーラさん」
バチバチとテレサに敵意を向けていると、不意にセレシアに呼ばれて向き直る。
「改めて。この街を……シーダガルドを救っていただいて、本当にありがとうございました」
俺に頭を下げるセレシアに続き、武器を構えていた兵士たちや、女兵士も同じように頭を下げた。
「い、いいって……。それよりも、セレシアや他のみんなに大きな怪我がなくて良かったよ」
「はい、全てはノーラさんのおかげですよ」
セレシアの言葉に、俺は首を振った。
「……ううん。全部、セレシアたちのおかげだよ。みんなが必死に戦い続けてくれたからこそ、こうして無事で居られるんだから」
実際、セレシアたちが粘ってくれていなかったら、既に魔物たちは街の中へ侵入していたはずだ。そうなれば被害は抑えられなかった。最悪、大勢の死人が出ていたはずだ。
「ノーラさん……」
「だから、ここまで被害を最小限に抑えられたのは、みんなのおかげってことで!」
「……ふふっ。では、そういう事にしておきます」
俺とセレシアは笑顔を浮かべて笑い合った。その様子に、兵士たちも和やかな雰囲気に包まれる。
「それでは、私は一度城に戻りますね。お母様……こほん。女王様に状況を報告しないといけないので」
咳払いで誤魔化しつつセレシアは言い直した。そういうドジっぽい所もまた、可愛らしく思う。
「わかった。それじゃあ私も宿に戻ろうかな……」
「そうしましょう。激しい戦いの後だもの、主様にはゆ〜っくりと身体を休めてもらわないとねぇ」
( いや、全部お前のせいだからね!?)
「あんたが泊まる宿は無いから、外で寝てね」
「えっ! そ、そんなつれない事言わないでよ主様ぁ!」
傍から見れば、大人が子供に泣きついているように見えるのだろう。それはそれでおかしな光景だが、魔族が街を歩いてる事の方がよっぽど異様だろう。
「……ノーラさん。一つ、聞いてもいいですか?」
テレサとそんなやり取りをしつつ宿へと向かっていると、背後でセレシアが俺に訪ねてくる。
「ずっと、気になっていた事なのですが。ひょっとしてノーラさんは───召喚者なのですか?」
その言葉に、俺は内心にて驚いていた。召喚者という存在を知っているということは、俺をこの世界に呼び出した事と何か関係があるのかもしれないと思ったからだ。
だが……俺は正直、その質問に答える事を渋っていた。俺の存在が召喚者だと知られれば、それこそセレシアが王女である理由を隠していたように、俺に対する周りの扱いが変わってしまうかもしれない。
けれど、友達には嘘をつきたくない。俺はセレシアの問に少し間を空けてから、小さく口を開いた。
「───うん、私は召喚者だよ」
そう言い残すと、俺とテレサはその場を後にした。
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