第十一話 一日の終わり
「いや、普通に冒険者だけど」
俺が貴族? まさか。それともなんだ、俺の持っている硬貨はこの世界にとって案外貴重なものだったりするのだろうか。
ひとまずここは冒険者と答えておいた方が
「で、ですがっ。白金貨を持ってるなんて、貴族の人としか……」
「白金貨?」
値段の基準は分からないが、名前からして多分価値の大きなものだろうと自己解釈する。
「ちなみに、それで払うことってできる?」
「できますけど、……ごめんなさい。この金額に見合うお釣りが、うちには無くて……」
少女は表情を沈ませつつ、縮こまってしまった。何となく察してはいたが、あまりお金に恵まれてないのだろう。まぁ、こんな所に宿があるなんて普通は気付かないし、繁盛しないのも頷ける。
「じゃあ、お釣りはとっておいていいよ」
「はい、すみませ……えっ!?」
俺の持っている硬貨が本当に白金貨というものであれば、恐らく俺は死ぬまで遊んで暮らせる程の金額を持っている事となる。白金貨一枚が、リバホプ内にとっての一円単位な訳だし。それで宿に泊まれるなら、俺としては充分すぎるほどだ。
「ほ、本当にいいんですか? 白金貨なんですよ……?」
「いいよ、足りないよりは全然マシだから」
「ほぇ……」
呆然とする少女。
( ……なんかフリーズしてね?)
「……ぁ、えっと……お部屋、案内しますね……」
少女は生気を失ったかのように呟き、奥の部屋へと歩いて行った。白金貨って、そんなに貴重なものなのだろうか……?
◆
「あぁ~……、疲れたぁ……」
寝具に寝そべり、大きく伸びをする。
案内された部屋の内装はシンプルで、一人サイズのベッドが一つと、椅子や机などの生活品となる家具が置かれてあるくらいだ。俺が以前暮らしていた部屋より少し狭いが、一人で過ごす分には困りはしないだろう。
「……なんか、長い一日だったな」
俺がこの世界に来てから、ようやく一日が経つのか。未だに状況を呑み込めず、疑問は多く残っているが。とりあえず無事に(?)過ごせたと安堵の息を零した。
「俺は俺で、この身体に慣れつつあるし」
ペタペタと頬を触りつつ、胸を揉む。
この身体になって俺は理解した。なんだか、こう……男としての意欲が湧かない。こうして胸を触っても、あまり興奮を覚えない。自分の胸を触ったところで、あまり意味なんて無いのかもしれない。
男が女の身体になったところで、所詮は自分の身体だ。自分に興奮するような変態なら話は別だろうが……。
「……さて、と」
そんな無駄な考えをよそに、俺はウィンドウを開いた。非表示にしていたステータスは、俺の開いたウィンドウからは普通に表示されるようで、相変わらず桁外れな数値が表示されている。
「お、これは……」
そのステータスの中で、俺は"スキル"と"魔法"の項目があることに気が付いた。
リバホプにおいて、自分の就いた職業のレベルを上げるごとに、その職業に適したスキルや魔法を覚えることが出来ていた。俺がリバホプで選んだ剣職は、魔法を一切覚えない代わりに多くのスキルで
恐らくこれも引き継いでるだろう。俺はスキルの項目を選択し、
「……あれ?」
表示された内容に俺は首を傾げる。習得しているはずのスキルが一切無かったのだ。しかし、がら空きとなったスキル欄の中に、一つだけ表示されているものがあった。
「
見覚えのないスキルだった。少なくとも、リバホプの時には無かったはずだ。補助と書かれているため、ゲームで言うバフの様な、能力上昇のスキルだろうか。
俺はそのスキルについての
〘 このスキルを習得している者のあらゆる能力が百倍に引き上げられる。これらは常に発動状態となるが、一定のレベルに達すると同時にこのスキルは消滅する 〙
( あ~、なるほど。そういうことね。完全に理解したよ )
つまり……。
「───これのせいじゃねーか!!!」
ようやく重大な疑問が解けた。俺のステータスが桁外れな理由、間違いなくこれだ。
( なんだよステータスが百倍になるスキルって……。こんなのゲームで発動したら確実に垢BANだぞ!)
それに、一定レベルに達したら消滅と書いてあるが、既に俺のレベルは上限に達している。……いや、もしかするとこの世界のレベル上限は百以上だったりするのだろうか……?
「ど、どうかしましたか……?」
扉をノックする音とともに、少女の声が聞こえる。
「あ……いやっ。なんでもないよ」
「そうですか……? では、何かあったら呼んでくださいね」
「うん、ありがとう……」
あまりの衝撃に、つい大声を出してしまった。これ以上取り乱さないためにも、今日はこの辺りで寝た方がいいのかもしれない。
俺はウィンドウを閉じると、布団に潜った。
「はぁ……」
異常なまでのステータスに、おかしなスキル。モンスターの存在するこの世界において、あった方がいいものだとは思うが。いや、そもそもこれは現実なのだろうか。
「全部、夢だったりしてな」
そんなことを呟きつつ、俺は深い眠りへと落ちていった。
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