第四話 常識という概念は捨てました
あれから暫く歩き回ったが、人の姿は見当たらなかった。その代わり、モンスターにばかり出会うものだから嫌になってくる。
最初こそ緊張はしたが、今では夜桜でサクサク倒して進める程には慣れてきた。そもそも、武器を使う必要も無いかもしれないのだが。
「1発殴っただけで倒しちゃうしなぁ……」
別に自分の身を危険に晒してまで強い相手と戦いたいなんて思ってない。
( けど、なんか……もう少し貼り合いがあってもいいんじゃないですかね…… )
ウィンドウを開いて調べたり、何度か戦闘を繰り返す中で、いくつか分かったことがある。
まずは俺についてだ。最初はステータスの数値にばかり気を取られて忘れていたのだが、改めてステータスから俺のプロフィールに目を通してみた。名前の欄には"ノーラ"と記されており、俺がアバターに付けた名前そのまんまだった。その隣に表示されているレベルの数値は百、リバホプの上限数値だ。
職業は"グラディエーター"と表示されている。簡単に言えば剣士職の上位版と言ったところだろう。
リバホプには一次職と二次職の二つが存在しており、例えば俺のように剣士を極めれば、二次職のグラディエーターに転職する事が可能なのだ。
他にも色々と調べてみたが、やっぱりこの身体……いや、今の俺はゲームのアバターで間違いはないだろう。簡単に説明すれば、ゲームのアカウントをまるごと持ってきた挙句、プレイヤーである俺がアバターの身体に乗り移っている、と言った感じだ。
「何度考えても信じられないっていうか……けど、もうそれしか考えられないんだよなぁ……」
ひとまず、今はそう言った解釈で納得することにした。考えすぎてそろそろ頭から煙が吹き出しそうだしな。
次はこの世界についてだ。当然まだ不明点は多いが、基本的にはよくあるRPGのゲームシステムに酷似している事が分かった。
アイテムやステータスを見る時もそうだが、敵や物に対しても、その対象についての情報がまとめられたウィンドウが表示されるようだ。敵ならステータスや弱点、落とすアイテムなど。物ならそれについての詳細や入手場所が記されている。もし森とかで食べ物に困っても、ちゃんと調べさえすれば毒キノコとか食べたりせずに済みそうだ。
「問題は……コレだな」
最後に分かったこと、それはステータスに記されている称号についてだ。
俺は以前、リバホプのランキング上位者にのみ与えられる "
恐らく死神を倒した事で得た称号だとは思うが……。せめて
一応変更もできるようなので、強者の称号に戻しておいた。途中、一覧の中に"召喚者"と言う称号も含まれていたが、別に使う用も無いのでスルーしておこう。
「ん……? あれってもしかして……」
そこで一旦考えを整理しつつ遠くを見つめた。すると、見えてきたのは建物の並ぶ街がひとつ。その光景に俺は目を輝かせた。
( あそこに行けば人に出会えるかもしれない!)
……しかし、なんせ距離が遠すぎる。例えれば遠くに見える山の頂上を今から目指すようなものだ。
「そろそろ日も沈みかけてるし、今日中に辿り着くのは無理かな」
( だとすると野宿になるのか、やだなぁ…… )
毎日ゲームに入り浸っていた自分の部屋が恋しくなってくる。まぁ、文句ばかり垂れていても仕方がない。少しでも距離を縮めておこうと俺は軽く走り出した。
瞬間、
「え───」
高速で走る新幹線の窓を眺めているかの様だ。いや、もしかするとそれ以上に早いのかもしれない。
そうだ、これは俺の身体であっても、元々の俺の身体じゃない。俺が考えているような身体能力の基準なんて当てにならないという事だ。とは言え、小走りで出せるようなスピードではないと思うのだが……。いや、ここでは現実の常識は当てにならないものだとして受け入れておこう。
「でもっ、これなら今日中に間に合……」
前方不注意とは、まさにこの事を言うのだろう。高速で通り過ぎる景色に意識を向けていたばかりに、草の中に隠れていた石に躓いてしまった。
「うわぁぁああ! 目がまわるぅぅぅ!!」
ごろんごろんと猛スピードで転がる俺。
( そう言えば昔に遊んでいたゲームの中に、こうやって高速で転がるキャラクターとか居たな。アイツもこんな気分だったのか…… )
ようやく勢いが止まり、俺は仰向けに空を眺めた。ぐるぐると回転する視界の中、ため息と共に弱音をこぼす。
「色んな意味でハードモード過ぎるだろ……」
まずはこの馬鹿げた身体能力に慣れるところから始めよう。こればかりは経験で覚えるしかないからな。
あぁ、先が思いやられるよ……。
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