第五話 不穏な影と女子力
街へと向かって行く少女(?)の
「ふ~ん……。誰も居ない所へ適当に飛ばしておけば、あとは勝手に
くるくると自分の髪の毛を弄りながら呟く。パチンと指を鳴らすと、背後に黒い
「
口元を
「まぁ……精々足掻きなさい、
渦が消えて無くなると同時に、その場には誰も居なかったかのように静寂があたりを包み込んだ。
◆
街へ入るための門を前にして、俺はその場に立ち尽くしていた。
なるべく前方や足元に注意しつつ走っていると、三十分ほどで到着してしまった。
( まぁ、それでも何度か転んだんだけどね )
とりあえず、なんとか日没までに辿り着いたまでは良かったのだが、俺は先程から街の中へ入れずに居る。
「あれって、
門の前に佇む兵士の男を前に、どのような言い訳をすれば入れてもらえるのだろうと考えている
名 前:イヴァン
年 齢:31歳
職 業:兵士
レベル:26
総合能力値:540
備 考:首都シーダガルドに属する兵士。
表示されたウィンドウの内容を見る限り、大した強さは無さそうだ。
そういえば、さっき何度か遭遇したモンスターたちの能力値はどれも100以下だった。そう考えると、改めて自分の能力値が異常なのだと実感する。
「……やっぱり、俺の能力値がおかしいんだな」
嬉しいような悲しいような、複雑な感情を抱きつつ、兵士の男へと視線を戻した。
( さて、どう説明すればいいものか… )
変に怪しまれると追い返させるかもしれないし、最悪の場合街に入れなくなるなんて事もありうる。
そもそも俺は
( 考えてもみろ、ずっと部屋に引き籠ってゲームばっかしてた俺だぞ? 他人とペラペラ会話できるほどのコミュ力なんて微塵もないっての!)
「人が居て安心したけど、話ができなきゃ意味無いしなぁ……」
何度か深呼吸を繰り返した後、俺は意を決して兵士の男の方へと向かって行った。
「おや、見ない顔だな。此処に来るのは初めてかい?」
先に口を開いたのは兵士の男だった。意外にも優しげな口調に、少し安堵する。
「……あ、えっと、そう……ですね。初めて……」
緊張による
「それじゃあ、身分証を見せてもらえるかな」
「え、身分証?」
ダラダラと冷や汗を流す俺。街に入るのに身分証が居るのか? ゲームだと普通に出入りしてたのに。
「……まさか、持ってないのかい?」
男は
( これはまずい、考えろ……怪しまれず、穏便に済ませられる言い訳を!)
「じ、実は……魔物に襲われた時に盗まれてしまって、それで……」
「なるほど、それは災難だったな。確かに荷物は持って無いようだし……仕方ない。大目に見るとしよう」
「いいんですか……!?」
「ああ、ただし今回だけだからな?」
なんて優しい人なんだ。嬉しさのあまり、俺は彼の手を握ってブンブンと上下に揺らした。
「ありがとうございます……! この御恩は一生忘れず、胸に刻み込んでおきますから!」
「わ……分かったから、取り敢えず落ち着いてくれ」
男は頬を赤くしながら、あからさまに視線を逸らしている。照れなくてもいいのに、むしろその優しさは誇ってもいいほどだ。
「……あ、そうそう。これに触れてもらえるかい?」
男は懐から球体状の結晶を取り出し、俺に差し出してきた。大きさは手のひらより少し小さいくらいだ。
「これは……?」
「鑑定石だ。これに触れると、触れた者の能力値や情報が分かるんだよ。疑ってる訳じゃないが、一応義務だからな」
なるほど、ウィンドウで見ていたようなものだろうか? 俺は促されるままに鑑定石に手を伸ばす。
( ……おい待て。これってまさか、俺のぶっ壊れ能力値とかバレるんじゃないか? と言うか絶対にバレるぞこれ!? )
気付いた時にはもう遅かった。彼の目の前には俺が見ていたものと同じようなウィンドウが表示される。
「……ん? な、なんだこれは……?」
男が不思議そうに首を傾げながら呟いた。
( 終わった、もう弁明の余地もない。全力で走れば逃げ切れるだろうか? ……いや、仮にこの場を逃れたとしても指名手配のように追われ続けるのでは…… )
最悪の場合を想定しつつ、恐る恐る表示されたウィンドウへと視線を向ける。
「……あれ?」
男と同様に首を傾げた。俺の開いたウィンドウの情報と、鑑定石で開かれた情報が異なってるからだ。
名前は変わらずノーラと表示されているのだが、その他の内容がほとんど文字化けの様になっている。称号の欄には何も書かれていない状態で、名前以外の内容が上手く反映されていない状態となっていた。
「ふむ……壊れているのかもしれないな」
男は鑑定石を懐に
「あの、通ってもいいんですか……?」
「ああ、粗悪品を持っていたのは此方の不手際だからな。気にせず通ってくれ」
本当に優しい人だ。本来なら俺を怪しんでもおかしくは無いはずなのに、彼には頭が上がらないな。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。……ぁ、身分証の再発行って、何処に行けば出来るんでしたっけ……?」
「作った時と同じだよ。ギルドに行って紛失したと言えば、同じものを作ってくれるはずだ」
( ギルドか……ますますファンタジーだな )
「分かりました。なんか……色々と迷惑かけちゃってすみません、本当に助かりました」
俺は深々と頭を下げる。もし衛兵をしていたのが彼のような性格ではなかったら、軽くあしらわれたのち、俺は今も外を彷徨い続けていたのだろう。
「ははっ、気にするな。規則を守るのも大事だが、困っている人の手助けをするのも兵士の役目だからな」
そう言って男は笑顔を浮かべる。俺にとっては眩しすぎるほどの笑顔だよ、まるで仏様だ。
門を
「気を落とさずに頑張れよ、
後ろで手を振ってくれる彼に小さく手を振り返しつつ、背を向けて歩き出した。
「……女だってこと、完全に忘れてた」
すっかり定着しかけていた。だからさっき、手を握った時に頬を赤らめていたのか。ウブな人だな、俺にいやらしい目線とかは向けてなかったし。優しい上に紳士とは、あんなの女だったら絶対惚れるだろうな。
「いや……俺は男だ! 誰がなんと言おうと男だからな!」
( 女の身体であることは認めても、女になることは絶対に認めないし、
「……なんでアバター女にしたんだろう」
今更ながら過去の過ちに若干の後悔を覚えつつ、俺はひとまずギルドへと向かうのだった。
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