第二話 知らない場所でもボッチです

 何に対しても興味を持てず、自分自身の価値さえも分からない。所謂 クズ と呼ばれる存在の一人、それが俺月島裕斗つきしまひろとと言う人間だ。


 人間関係に馴染む事ができず、何時しか部屋に引き篭るようになった。ネットサーフィンで一日を過ごし、気が向いたゲームに触れてみても長続きせず引退。

 そんな日々の中、ふと目に留まったのが [ Libertyリバティ hopeホープ onlineオンライン ] という オンラインゲームだった。世間では ( リバホプ ) と略して呼ばれている。

 それは俺にとって、今まで触れたゲームの中で一番面白いと思えるものだった。ちっぽけな存在でしかない俺でも、そのゲームの中でだけは何にでも挑戦したいと思えるほどに。


 リバホプ の世界だけが、俺の存在意義だった。


 それ以来、起きている間は常に リバホプ にログインし、ひたすらレベル上げや素材集めに時間を注いだ。時には、四日間ほど徹夜する事も珍しくはなかった。

 作業の様にも感じたが、少しずつ強くなっていく高揚感や強敵を倒した時の達成感は、それまでの苦労が無駄ではない事を証明してくれる。


 その甲斐あってか、俺はゲーム内でトップの存在となっていた。総合能力を測るランキングでは、全世界二位のプレイヤーの総合能力値が四十万ほどに対し、俺の数値は百万を超え、かなりの差を開けていた。

 優越感に浸る事もあったが、どんなものであれ努力の結果が認められたようで、ただ純粋に嬉しかった。


 そんな中、SNSや掲示板などで頻繁に見掛けるようになったのが " 死神 " と言うボスモンスターだ。

 少し前のアップデートで実装された期間限定クエストのボスなのだが、俺でもまるで歯が立たなかった。


 巨大な鎌による範囲攻撃、低確率で出してくる即死スキル、しつこく重ね掛けてくる状態異常、HPの桁の多さ、HPを減らせば自動回復をし始める始末だ。いくら技術や能力値で補おうとも、運悪く即死してしまっては意味が無い。

 何より致命的なのは、このゲーム内には即死耐性のあるアイテムが何一つ無いという事だ。

 ランキングの序列や能力値を計った上で実装したのであれば、ひょっとすると俺への挑戦か何かか? だとしても確実に能力の調整をミスっている、ゲームバランスの崩壊もいいところだ。


 だが、それでも俺はヤツを倒したかった。


 期間終了まで残り十三時間、新たな装備の強化や新調をしていても間に合わない。

 それから俺は、ひたすら死神に挑み続けた。食事や水分、仮眠すらもろくに摂らず、何度も繰り返すように。


     ◆


「あれ……なんで外に居るんだ?」


 目を覚ました俺は、何処かも知らない草原で一人倒れていた。辺りに住宅などは無く、人の気配すら無い。

 俺は部屋でゲームをしてたはずなんだけど……確か死神あいつを倒し終えて、そのまま寝落ちしたんだっけ。


「だとしたら、夢……?」


 状況が上手く飲み込めないが、此処でいつまでも立ち尽くして居るわけにはいかないだろう。

 とりあえず、さっきから俺の背中を叩く何かを確認するべく振り返った。


「お、スライムか」


 そこに居たのは、ゲームなどでよく見掛けるスライムだった。俺を敵だと認識しているのか、地面を跳ねて何度もこちらに向かって体当たりしてくる。痛みはないが、見ていると可愛い。

 リバホプに居たスライムとは少し違うようだが、愛嬌ある顔をしていて馴染みやすそうだ。


 ……………。


「え、スライム!?」


 ( ゲームのやり過ぎで、危うく現実との区別が付かなくなる所だった。普通に考えておかしいだろこれ!)


 混乱する中、スライムの動きが止まった。……いや、大声を発した俺に警戒したのだろう。距離を空けたかと思えば、次は勢いよく俺に向かって飛んできた。


「まてまて! それ絶対痛いだろ! 死ぬってぇぇ!」


 たかがスライム、そう思うだろう。しかし、いざ目の前にしてみれば怖い。それにゲームの中で戦っているのは俺ではなくアバターだ。ダメージを負っても、死亡しても、こちらとしては何も影響は無い。


 けど、もしこれが夢じゃなかったら……?


 俺は咄嗟に目の前まで迫ったスライムを右手で弾く……はずだったのだが。

 俺の手が当たった瞬間、スライムはまるで風船が割れるかのように破裂した。ちょっと叩いただけなのに。

 辺りを見回し、俺以外に誰も居ないと分かれば、ひとまず危険が去った事に安堵の息を吐いた。


「何なんだよ、一体……ん?」


 ここでようやく、俺は身体の異変に気付いた。


 ( なんか、俺の声変じゃないか? そういえば、いつもより目線が低いような…… )


 改めて自分の身体を確認し、いつもの部屋着ではないと分かった。それともう一つわかったことがある。


「……な、なんか……胸デカくね?」


 見たところ少し膨らんでいる程度だが、男の胸板として見ると明らかに異常だ。


 ( まさか、さっきのスライムから毒でもくらったのか!? )


 青ざめた俺は咄嗟に自分の胸を何度か揉んでみた。


「うわっ、柔らかい……」


 手のひら全体に伝わる感触、癖になりそうな程の柔らかさ。まるでマシュマロのようだ……もみもみ。

 思えば、アレの感覚もない。男性特有の……股間についているアレの感覚が。まさかとは思うが……ひょっとして、この身体は女性のものなのでは?

 極めつけは今俺が身に付けている服だ。妙に見覚えがあると思っていたが、ゲーム内の自分のアバターに着せていたものと完全に同じものだった。


 (だから、多分、これってつまり……)


「……俺、アバターの身体になってる?」

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