第230話 竜殺しの称号
それは長方形の形をした金属であり、掌に隠しきれるほど小さくマッチ棒くらいのサイズだ。
先端に凸部分となっている。
「なんだ、それ?」
「私が開発した魔道具、《
なんでも凸部分を首筋に当てることで魔法陣が発生し、コピーされた特殊スキルを入れ替えることができるそうだ。
「なんだと!? んじゃコピーしたスキルごと自由に持ち運べるってことか!?」
「ああ、ただし使用できるのは能力者である私に限られるけどね」
おい、ちょっと待て!?
仮にそのステックに俺の《
しかし、この世界ではランバーグしか使えない魔道具だ。
それに神格を得なければ
いや、待て!
ウィルヴァやレイルならどうだ?
この二人は『銀の鍵』という神の子であり天使。
つまり俺と同じ神格を得ている。
あるいは『刻の牢獄』とやらに封じられた、ヴォイド=モナークが直接使用するかだ。
そして、まだ気になることが一つある。
「確かエドアール教頭も似たような特殊スキルがあると聞くぜ。主に退学となった生徒の特殊スキルを奪い、無能力者に寄付しているからな」
「ああ知っているよ、《
「ガチか……なんとなく全貌が見えて来たぞ。見せてくれてサンキュだ。凄ぇ参考になったぜ! んじゃランバーグ公爵、ちゃんと更生してやり直してくれよ!」
「……不思議な男、いや神だ。『刻の操者クロック・ロウ』、貴方に栄光があらんことを――」
ランバーグは両手を合わせ、俺に向けて神への祈りを捧げて見せる。
少し照れくさくなった俺は軽く会釈だけし、そのまま執務室を出た。
それから何か吹っ切れたかのように力強い足取りで廊下を歩いて行く。
『クロック、どうしたの? 少し様子が変だわ』
「レイル、お前言ってたよな? 過去のランバーグが自害する前にウィルヴァに何かを託していたって」
『そうね。それが、あの魔道具 《
「ほぼ間違いない。ただし
『奪った特殊スキルを他人に譲渡できる。確かにそうだけど、でもエドアール教頭は「計画」に関係ないわよ。そちらの味方でしょ?』
「まぁな。だがウィルヴァとドレイクのことだ。おそらく何かしらの策があるに違いない……例えばエドアール教頭を洗脳あるいは拉致するとか。だがあの
あるいは他の方法があるのか。
まぁ考えたらキリがねぇけどな。
『へ~え、クロウって色々と考えられて頭いいね』
「んな呑気に言っている場合じゃねぇぞ。レイル、お前だって利用されているぜ。ランバーグにとってお前はイレギュラーの存在だった。筋書きじゃ『銀の鍵』はウィルヴァ一人だけだったらしいからな……じゃあ何故、お前達は二つに分かれたかだ」
『……何が言いたいの、クロウ?』
「俺の憶測だが、ウィルヴァは俺から《
『ワ、ワタシも? まさか……ワタシにお父様の力が使える筈なんてないじゃない?』
「いや条件が満たせれば可能だ。何しろ同じ俺と同じ神格なんだろ?」
『けど位は、クロウの方が高いわ……ワタシとウィルヴァお兄様は神の子であり「天使の位」だからね』
「なら《
『お父様が閉じ込められている「刻の牢獄」には誰も近づけないわ……「銀の鍵」であるワタシ達でも無理よ』
「なんだと? ならどうやって教団は竜神様を復活させる? ウィルヴァはどうやって父親とコンタクトを取っているんだ?」
『関係性で言えば、ワタシとユエルお姉様のような感じかな……お父様の声をお兄様が聞いて報告とか意見とかしているみたい。お兄様から接触はできないみたいよ』
ウィルヴァの奴、随分とヴォイド=モナークに信頼されているんだな。
まぁ俺も竜神の立場ならウィルヴァ推しだけど。
てことは、レイルの存在意義はウィルヴァがヘマした際の保険か、別の利用価値があるからかだ。
「……どちらにせよ、ろくな結果にならなそうだな。お前達、『銀の鍵』はただの傀儡で済むとは限らないぜ」
『何よ……クロウに何がわかるのよ』
レイルは頬を膨らませそっぽを向く。
体こそ異形だが、顔立ちはユエル似なのでどこか可愛らしく思える。
それにこの竜娘は、なまじ知的種族から認知されない存在だからか寂しがり屋のところがあるのかもしれない。
案外、誰かに存在価値を認めてもらいたくて、ウィルヴァの言う事を聞いているのかもな。
「俺も今まで虐げられた経験を基に、わかる努力をした上で言っているんだぜ。今からでも遅くはない、よく考えておけよ。こっち側に来るなら俺が受け入れてやる」
『……考えるだけならいいわ。ほんと、クロウは不思議な神ね』
レイルは純粋無垢な性格だけあり、俺の言葉を聞き入れ頷いてくれる。
もう彼女が障害となることはなさそうだ。
こっちにはユエルもいるし、ウィルヴァから独立すれば味方になってくれるかもしれない。
あとはウィルヴァを
どの道、この並行世界にいたままじゃ何もできやしない。
やることやって、とっとと過去の世界に戻るべきだろう。
それから奴らと戦うための準備だ。
間もなくして客間で待機しているアリシア達と合流した。
「よぉ、みんな! 明日にでも『
「やりましたね、クロウ様! おめでとうございます! このアリシア、心から嬉しく誇りに思っております!」
「良かったよ、クロウ! ウィルの件で国王に難癖つけられた時はブン殴ってやろうかと思ったけどねぇ、堪えて正解だったよ!」
セイラよ、んな真似したら称号どころじゃなく俺ら全員が首ちょんぱだぞ。
「やったね、クロウ! ボクも嬉しいよ! ひゃっほーっ!」
「これでクロック兄さんが本当に凄い英雄だと証明されたと言うことです! 私も自分のことのように嬉しいです……ずっと一緒ですよ」
「ありがとう、ディネ。メルフィも勿論だ。俺達はずっと一緒さ」
「おめでとうございます、クロウさん……良かった。本当に良かったです」
「ユエル……キミが証言してくれたことが何より大きいと思う。傍にいてくれてありがとう。これからも頼むよ。みんなもな」
俺の言葉掛けに、みんなは「はい」と優しく微笑んでくれる。
そして自分の事のように喜び、感動のあまり涙を流してくれた。
愛しい
心からそう思う。
あともう一押しだ。
俺のリベンジが終わるだろう。
翌日。
ミルロード王国を象徴し女神フレイヤを祀る大聖堂にて、『
パーティの女子達と大衆が見守る中、正装した俺はゾディガー王から栄誉を称えられる。
「――以下の功績により、我、ゾディガー・フォン・ミルロードの名において、クロック・ロウの偉業を称え名誉ある『
俺は跪き「かしこまりました」と深々と頭を下げ、証となる勲章を受け取る。
こうして周囲から大喝采が湧き上がる中、式は無事に幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます