第229話 ギフト・コピー《恩寵の複製》
束の間の沈黙。
ランバーグは口を開く。
「アリシア? ああカストロフの娘さんか……彼女がどうしたというのだ?」
「しらばっくれるのか? お前がカストロフ伯爵を失脚させるため、ゾディガー王の娘である赤子のアリシアを拉致させたんだろうが、テメェの私兵である『隠密部隊』を使ってな!」
「なんだって!? そんなバカな!」
ランバーグは声を荒げ激昂し始める。
今の俺を相手に、自分の罪を誤魔化すためこういう反応をするだろうか?
長年、自分の名前や姿を偽る暗躍のプロがだ。
わざとらしいと言えばそれまでが、何か妙だ。
ユエルのことといい、さっきから違和感ばかりを抱く。
「……バカなだと? 現にソフィレナ王女がカストロフ伯爵の本当の娘で入れ替わっているんだぜ!」
「まさか、そんなことが……もしや『ドレイク』の仕業か!?」
「ドレイク?
「ああそうだ。さっきクロック君は私と教団を同一視していたね? 確かに繋がりはある……だがそれは『
なんだと?
だから、シェイマを匿うよう隠れ蓑を用意させたり、カーラ達をこの国に招くよう裏方に徹していたってのか?
そして、ドレイクに命じられるまま実娘のラーニアを生贄にしたとでも?
じゃあ、ネイミア王国の「イサルコ王太子の暗殺」はどうなんだ?
ランバーグが実行犯の筈だ……。
いや、この未来の世界ではその事件は起きていない。
それもウィルヴァが過去を改変させ、ドレイクがそうするようランバーグに命じた可能性がある。
「てことは教団の連中がアリシアをさらったと言うのか? 『隠密部隊』に扮してまで……」
「きっとそうだろう……正確にはカストロフにそう匂わせるよう仕向けたのだ。私はゾディガー陛下に心から忠誠を誓っている。我が家系は代々王族に仕える影の存在だからね……陛下も私の正体を知っているし、『隠密部隊』も私が管理し担っているだけで実際は陛下のモノだ。だから私兵と言われているのも、他の貴族達を抑圧させるためのプロパガンダに過ぎない」
「あの聡明なカストロフ伯爵が踊らされていたってのか? あの教団に……まさか」
「ドレイクという竜人はそういう周到で狡猾な男だ。私も奴に弱みを握られ半ば強制的に思惑に乗せられ、隠れ信者として入団されたようなものだよ」
「どういうことだ?」
「――亡き妻が信者だったんだよ。結婚してから知ったことだ……今思えば、それもドレイクが仕組んだことだろうね」
「ミルロード王国の懐刀であるあんたを引き込むためにか?」
俺の問いにランバーグは頷いて見せる。
超狡猾で用意周到なハニートラップってやつか。
「そうだ……それでも私は妻を愛している。だから妻を守るつもりで教団の要求に従ってきた。その結果、娘も失うことになってしまったが……『
確かにランバーグ、いやオールドは妻を亡くしてから村人達と疎遠になり山で籠るようになったというユエルからの話だ。
傷心し憔悴していた時に、
そしてオールドは、まんまと乗ってしまった。
だが結果として、今度は愛娘ラーニアを失うことになる。
それでも動いてしまった歯車は止められず、今に至ってしまった。
そんなところか……。
「つい最近まで俺がいた過去の世界では、ゾディガー王も教団と一枚噛んでいる疑惑があり、ほぼ確定しているぞ。おそらく、あんたを通じてだろうがどう思う?」
「並行世界化されているだけあり、相当状況が変わっているようだね……ただ言えることは、ゾディガー王も家族を大切にされている方だ。きっと心境は私と同じだと思うよ」
「……なるほど、わかった」
俺は背を向け扉へと向かう。
「クロック君?」
「それじゃ『
「……キミは、この私を見逃すというのかね?」
「ウィルヴァがいなくなった今、あんたは教団との関係は切れている。違うか?」
「ああ、その通りだ。おそらくウィルヴァはこの世界を捨てたと思っている……『
「その通りだ。そして本来のクロックと入れ替り、今の俺がこうして軌道修正するため奮闘している。あと一つくらいで目的が達成するだろう……」
「そうなのか……」
「だからランバーグ、あんたは教団と完全に縁を切り、ゾディガー王に全てを打ち明けろ。この時代の陛下なら信用できる。これまでの過ちを償うのも良し、教団のドレイクと戦うのも良しだ」
「教団と戦う……この私が?」
ランバーグの問いに、俺は振り返り頷いた。
「そうだ。それにはカストロフ伯爵とエドアール教頭の協力も不可欠だろう。特にカストロフ伯爵と腹を割って話せば、わだかまりも解消され味方にさえなってくれる筈だ。今度はあんたら大人達が教団と立ち向かう番だぞ。くだらねぇ貴族の派閥とプライドは捨てろ」
「……わかったよ。偉大なる神、『刻の操者クロック・ロウ』の導きに従うとしょう」
「ああ、本来のクロック・ロウもきっと協力してくれる。この世界のランバーグ、あんたはそうするべきだ。俺の大切なユエルの義父、いや祖父として胸を張って生きてくれ」
俺がその気になれば《
それを餌に強引に従わせることもできただろう。
しかしそれではなんの解決にもならないと思った。
真の実行犯はドレイク側とはいえ、ランバーグも関与していたことに変わりない。
そこは償い、自分の運命と向き合い戦うべきだと思う。
俺が遡及しそうしてきたように――。
安易な力で逃げも結局残るのは空虚感だけだ。いずれ必ずそう悟る時が来る。
切磋琢磨して勝ち取ることに初めて幸せを見出せる、それが知的種族というものだ。
「そうだ。ランバーグ、あんたの特殊スキル、相手のスキルをコピーするんだろ?」
「流石よく知っているね……《
「いいのか? って罠じゃねーだろうな?」
「疑り深いね……並行世界の私は相当酷いことばかりしていたようだ。神となったキミにそんな真似をするほど愚かじゃないよ。クロック君が戻るべき世界での参考になればと思って言ってみただけださ」
「まぁ知って損はないな。んじゃ、やってくんない?」
俺の要望に、ランバーグは頷き魔法を発動させる。
掌から半透明な掲示板が浮かび、特殊スキル能力が一覧表示された。
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《特殊スキル紹介》
スキル名:
タイプ:効果系
レアリティ:SR
能力者:ランバーグ・フォン・ウエスト
【能力解説】
・特殊スキル能力者に触れることで、その者のスキルをコピーして使用することができる。
・一度コピーしたスキルは能力者が破棄しない限り、ずっと使用できる。
・奪うわけでないので、相手側も普通に自分の特殊スキルを使用することができる。
【欠点】
・一度に覚えられるのは一つの特殊スキルのみ。
・新たに違う特殊スキルをコピーする際は、その前に覚えたスキルはリセットされてしまう。
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レイルが言った通りのスキルだ。
隠密行動を得意とするランバーグならではの能力とも言える。
敵なら厄介だが、味方なら連続攻撃もできるし頼もしいタイプだな。
「……このコピー能力。俺の《
「基本、制限はないからね。だがレアリティ
そういやレイルも同じこと言ってたな。
だから俺が神格を得て、神様になる必要があったということか。
しかし神力は得たが、肉体が人族のままだから連続して使うことはできない。
その辺が今後の課題となるだろう。
「一つコピーしたら、前に習得したスキルがリセットされる縛りがあるのか。そこはネックだな」
「まぁね。けど対策はあるよ――」
ランバーグは言いながら、胸ポケットから小さいステック状の何かを取り出して見せてきた。
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