第228話 自害した男の証言
しばしの沈黙の中、ゾディガー王が口を開いた。
「大体はわかったぞ。では国王として結論を述べよう――我がミルロード王国を代表とする
国王の宣言により、その場にいる者全員が「ハッ」を頷き賛同の意を示した。
ふぅ……若干、遠回りしたがなんとか思惑通りに軌道修正したぞ。
俺達は「ハッ」と頭を下げ、ゾディガー王の判決を受け入れる。
逆にこれからは国からの縛りがなく、冒険者として自由に振舞えることができるぞ。
「陛下の英断、真に素晴らしき所存でございます。このランバーグ、義父として責任を持って失踪した我が息子ウィルヴァの捜索に努めて参ります。発見した際は然るべき処置をいたしましょう。パーティの皆もご迷惑をお掛けしたことをお詫びします」
ランバーグは国王と俺達に向けて深々と頭を下げて見せる。
白々しい奴だ。どうせウィルヴァがどうなったか知っていて言っている癖に。
こいつはゾディガー王と違い、この時代おいても確信犯であり極悪人だ。
カストロフ伯爵を失墜させるため王族の赤子であるアリシアを隠密豚に拉致させ、自分の娘ラーニアを生贄にしてウィルヴァら『銀の鍵』を誕生させている。
何よりテロ組織、
だからこそ、俺の口からあえて『
そうすることで、ウィルヴァが失踪した理由や今の俺がどういう存在なのかわからせるため。
――ランバーグはきっと、俺と接触を図ろうとする。
現に奴の口から『
そして確信した筈だ。
俺が《ジェネシス《創世記》》に覚醒したことを――。
「うむ、ランバーグよ。ウィルヴァの件は義父である貴様に任せる」
「御意。それと陛下、冒険者ギルドから推薦されている、クロック・ロウ殿の『
「そうだったな。事実であれば余に異論はない、貴様の方でよきにはからえ」
「かしこまりました。ではクロック君、表彰式の打ち合わせと書類上の手続きあるので、私と共に別室に来てほしい。二人っきりでな」
「……わかりました閣下」
上等だ。
過去の世界で自害されて逃げ得した分、こっちの世界で決着をつけてやるぜ。
謁見の間を出た俺は、アリシア達を客間で待たせる。
ランバーグの案内を受け、大臣クラスの執務室に入った。
何気にレイルもついて来ている。
やはり実の祖父とはいえ、奴には彼女の姿が見えないようだ。
執務室は奇麗に整理され特に怪しげな点はない。
まぁいくら小細工しようと、今の俺には関係ないけどな。
「クロック君、くつろぎたまえ」
「いえ立ち話で結構です、ランバーグ公爵。いや、オールドと呼んだ方がいいっすか?」
挑発する問いに、ランバーグの動きがピタリと止まる。
「……やはりキミはこの時代のクロック・ロウじゃないね? 《
「流石、実行犯。詳しいっすね? 娘を生贄に『銀の鍵』を産ませた狂人だけあるわ」
「狂人か……そう思われても仕方ない。私にも目的があってのことだ。娘のラーニアには可哀想なことをした……が、『
何がある程度は納得の上だ。
それでもやって良いことと悪いことってのがあるだろうが。
「子は親を選べない! 半分以上は強制だろうが! それでも父親か、テメェ!?」
「ウィルヴァ達を生んだ直後、ラーニアが死んだのは誤算だった……本来なら生まれるのはウィルヴァとユエルのみ、特に『銀の鍵』はウィルヴァだけの筈だったのだ」
「……誤算とはレイルのこと言っているのか? 今はあんたの目の前にいるぜ。どの道、赤子のユエルを余り者として排除しようとした、あんたにそんな事を言う資格はねぇ!」
「排除だと? 私がユエルを……バカな。生まれこそ異質とはいえ、愛娘ラーニアと瓜二つの忘れ形見である、あの子を何故殺さなきゃならんのだ? そもそも私は『銀の鍵』の子供達から、ユエルを引き離そうとしていたくらいだ。ユエルを我が娘として育てるためにね。当初はウィルヴァとレイルを教団に引き取らせる手筈だったのだよ」
なんだって?
おいおい、俺が聞いた話となんか違うぞ……。
しかしランバーグが嘘を言っているように思えない。
こいつは今、恰幅の良い中年男の変装こそしているが、瞳の色に濁った闇が見られなからだ。
嘗て虐げられた
「ラーニアの幼馴染み、ジェソンって
「……確かにウィルヴァは赤子から普通に喋っていた。ジェソンが連れ出した事も、後に引き取った際にウィルヴァから聞いている。彼によると、自分達とユエルが引き離されるのを拒み、当時侵入してきたジェソンに拉致させ施設に預けるよう頼んだそうだ」
「嘘じゃねぇだろうな?」
「キミにそんな嘘をついて私の何になるのかね? 私が望む並行世界でも与えてくれるのか? そんな雰囲気には見えんがね」
「まぁな……それじゃ、どうしてウィルヴァはユエルと離れるのを拒む?」
「おそらくだが赤子から引き離してしまうと、ユエルはウィルヴァとレイルを知らずに育ってしまう。ウィルヴァにとってそれが嫌だったようだ。だから彼女が物心つくまで傍に置いておく必要があった。現に彼らが4才となった時、私に自分ごと引き取らせるように指示してきたのは、ウィルヴァ本人だからね」
「なんだって? どうしてそんな真似を……ユエルと引き離すことで何か不都合があるのか?」
「そこは『銀の鍵』である彼らにしかわからない……レイルが傍にいるのなら、彼女はなんと言っているのかね?」
「ちょっと待て。どうなんだ、レイル?」
『ウィルヴァお兄様の心境はわからないわ。ただユエルお姉様に「
「レイルの相談相手くらいしか価値がないそうだ」
「なるほど……ウィルヴァらしいと言えばそれまでだが、おそらくレイルを育成させるのにユエルの存在は不可欠なのだろう。『銀の鍵』目的以外で唯一普通の話し相手ができるのはユエルだけだからね……周到な彼のことだ。きっとそこまで計算に入れていたに違いない」
「わざわざジェソンに嘘をついてまで? 父親のあんたに思いを寄せていた娘と引き離されてしまった心理を利用したというのか?」
「ジェソンがなんと言っていたかは知らないし興味もないよ。確かに彼自身は
「そりゃまぁな……言われてみれば、ウィルヴァの奴は『
「それが『銀の鍵』の存在意義だ。ウィルヴァは優秀な故に全うする責任がある」
「被害者である俺からすればイカレているとしか言いようがねぇ。俺の先祖、『刻の操者クロノス』の判断は間違っちゃいないと確信している。たとえ、お前ら
「キミの立場ならそう思うだろうね……それで、クロック君は私をどうするつもりだ? そのために私と二人きりになりたかったのだろ?」
「ランバーグ、いやオールドか? あんたの考えを聞きたかった。ガチのクズならこの場で戦い始末しようと思っていたが……少々印象が変わってきている」
「キミがいた時代の私はなんと言っている?」
「毒飲んで自害したから知らねぇよ。だから余計に生きている、この時代のあんたに興味を持ったんだ。アリシアの件もある……今でも糞みてぇな暗躍しているのなら、ゾディガー王に全てブチまけて失脚させるぜ。それとも、やっぱ俺と戦うか?」
俺の問いに、ランバーグは口を噤んだ。
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