第224話 ギルドで申請してみた

 俺が魔竜ジュンターを斃したことで、最難関と言われる『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得る条件を満たしていることに気づいた。


 その『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得た者は、例の一夫多妻制が認められるのは勿論だが他国にも多大な影響力を与え、あらゆる特権を得て莫大な富と名声を得られるらしい。

 したがって条件が超困難な分、勇者パラディン以上の価値があり下手な王族や貴族よりも財を成す気高き称号なのだ。


 あのサリィ先輩が超欲しがる称号だけあるわな。


 けど一つ問題がある。


「魔竜ジュンターを斃したって証はどうする? 俺は跡形もなく存在ごと、この世界から消してしまったんだが?」


 正確には俺が創った最凶災厄の地獄と化した並行世界に永久追放してやったんだけどな。

 後の顛末など知らん。

きっとろくな死に方をしないだろう。あるいはそれすら許されない壮絶ループ世界だ。


「それなら心配ないよ。あのエンシェントドラゴン、わざわざ地上に降りて木々とかへし折っていたろ? アタイの《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》なら痕跡から存在を復元できるよ!」


「クロック兄さん、私も魔法で見た映像を水晶球オーブに念写できます!」


 セイラとメルフィが言ってくれる。

二人で俺が魔竜ジュンターを斃したという証を立てくれるそうだ。


「それに魔竜ジュンターがミルロード王国に近づいていたことは、既に斥候部隊が確認されている筈です。それが突如消えたとなれば疑う余地はないと思います。無論、女神フレイアに仕える司祭プリーストとして、わたしも証言いたしましょう」


 うん、勇者パーティに所属し高位の聖職者であるユエルがそう言ってくれるなら虚偽とか妙な疑惑をかけられずに済みそうだぞ。


「なるほど……あとはギルドに申請して審査が通り受理されることを期待しょう。それじゃ、ミルロード王国に戻るぞ」


 俺の呼びかけに、パーティ達は全員頷いてくれる。

 こうして三日後、俺達は祖国であるミルロード王国に帰還した。




 俺達の凱旋に砦の兵士達は温かく出迎えてくれたが、勇者パラディンウィルヴァが不在であることに疑念を抱かれてしまう。


 一応、サブリーダーポジのアリシアから「勇者殿は竜との戦闘中に突如消息を絶たれた。我らもどうなっているのかわかない」と説明された。

 当然、鵜呑みにできる内容ではなく誰もが自分の耳を疑っている。

 しかし騎士団長の娘であり騎士として上位職である彼女の証言もあって、そのままゾディガー王に伝わって後ほど説明の場が設けられるらしい。


 丁度いい機会だ……俺も今の陛下を見定めておきたいからな。


 その間、少し時間が空いてしまった。

 早速、俺達は冒険者ギルドに向かうことにする。


 無論、『竜殺しドラゴンスレイヤー』の申請を行い、その称号を得るためだ。

 申請が受理されればギルドマスターが推薦の判断を下し、その結果が国王に行き表彰されるという流れであった。



 ギルドの受付場にて。


「――あら、その声はクロウくん。お久しぶり……って貴方誰?」


 受付嬢のレジーナ姉さんが、俺の姿をガン見しながら眉を顰めている。

 五年後だけあり、すっかり大人の色香を漂う女性となっていた。


「クロック・ロウだよ。ちょっとイメチェンしたみたいな?」


「そ、そぉ……言われてみれば面影あるわ。けどすっかり見違えたわね? 綺麗な黒髪だし、顔の傷も消えて若々しくなったわ。そういえば、クロウくんまだ21歳だもんね」


「ああ、そういや俺ってアラサーに見られていたっけ」


 この頃の俺は白髪交じりの灰色髪であり、覇気がなく老け込んで見られていたようだ。

 けど今の俺は神様ということもあって、自信に満ち溢れたナイスガイだと自負している。


「受付場殿、これ以上の増員はなしですぞ」


 アリシアは妙な念押しをしてくる。


「フェアテール様、なんの話ですか? あっ、そういえば勇者様のお姿は見られないのですが……」


 うん、またその話題か。

 ここに来るまで散々兵士や騎士達に説明しまくっていただけに面倒になってきた。

 まぁ事が事だし、しゃーないけど。


 アリシア達から何度目かの事情を説明した。

 レジーナ姉さんは驚愕し、口元を押さえ小刻みに震え始める。


「う、嘘でしょ? 勇者様が……どうして」


「まだ詳しくは説明できないんだ。その事で、あとで国王に呼ばれているしね。それまでオフレコで頼むよ」


「わかったわ、クロウくん……けど、パーティの皆さんはこんな所にいらっしゃっていいの?」


 レジーナ姉さんは、勇者パラディンが消息不明だっていうのに、焦燥することなく落ち着いた様子を見せているパーティ女子達に違和感を覚えているようだ。


 無理もない。何せ、あれだけパーティ内で寵愛されていた男だったからな。

 ましてやユエルにとって実の兄にあたるわけだし。


「彼女達は俺の付き添っているというか、色々と証明してくれるために来てくれているんだ」


「証明ってなんの?」


 首を傾げる、レジーナ姉さんに俺は本題を話した。


 束の間――。


「ええーっ!? クロウくんがエンシェントドラゴンを斃したぁぁぁぁ!!!?」


「姉さん、声デケぇよ! オフレコって言ったろ!?」


「嘘だぁ、いえ絶対に嘘ッ!」


 まったく信じてくれない、レジーナ姉さん。

 仕方ないとはいえ、少しムッとしてしまう。


「嘘ってどういう意味だよ?」


「だってクロウくんの特殊スキル、レアリティEでしょ? エンシェントドラゴンどころか、ネズミだって倒せないんじゃない!?」


 酷ぇ言いようだ……普段あんな爽やかで優しく素敵な微笑みの裏で、俺のことそう思ってたのかよ……。


 どうよ、レイル。

 これがこの世界の実態だぞ。

 俺だって十分に思い知っているからな。


「勇者さんが消息不明なって追い詰められたことで、俺の特殊スキルが進化したって言うか……まぁそんな感じだよ」


「特殊スキルの進化ぁ? お姉さん、聞いたことないんですけどぉ?」


 駄目だ、レジーナ姉さん。まるで信じちゃくれねぇ。

 確かに潜在能力として決まっている特殊スキルが進化するとかって、普通はあり得ないからな。

 けど受付嬢に申請を通さないと、審査してくれるギルドマスターも来てくれないだよなぁ。


「いい加減にしろ、受付嬢ッ! 我らが、クロウ様の偉業を証明するために訪れているのだ! とっととギルドマスターを呼んで来い!」


 しまいにはアリシアがブチギレ出した。

 他の女子達も「そーだ、そーだ!」と意義を唱えている。


 その様子に、レジーナ姉さん「え? え?」とまた首を捻っていた。


「どうしたんですか、皆様? あれだけクロウくんを蔑ろにして顎でコキ使っていたというのに……何か良くないモノでも食べられたのですか?」


「まったく失礼な女だねぇ! アタイは半獣だから多少毒を食っても体内で浄化されるよぉ!」


 え? そうなのか、セイラ。凄ぇーっ。


「ボク達のことはいいでしょ! 今はクロウが一番なの!」


「そうです! 貴女には関係ありません! クロック兄さんの手を煩わせないでください!」


 ディネとメルフィも逆ギレというか猛反発した。


 レジーナ姉さんは「え? え?」と頭が混乱しパニック状態となっている。

 竜娘レイルの特殊スキルで『因果カルマ』をイジられていたとはいえ、パーティ達の豹変ぶりは事情の知らない彼女にとって奇異としか見えていない。


「レジーナさん、どうか申請だけでもお願いします。あとギルドマスターを呼んで頂ければ、はっきりするでしょう」


 ユエルが冷静な口調で宥め、レジーナ姉さんも落ち着きを見せ始める。


「はい、わかりました。少々お待ちを――」


 一旦その場を離れると、間もなくしてギルドマスターを連れて来た。


 元SSS級冒険者の戦士だけあり、筋肉隆々の巨漢にスキンヘッドで左目に眼帯をした顔中傷だらけの厳つい、スーツ姿のオッさんだ。

 ギルドマスターは両腕を組み憮然とした態度で俺を見下している。


「ワシがギルドマスターのマッコイだ。レジーナから話は聞いたぞ、クロック・ロウ。本当にお前がエンシェントドラゴンを斃したのか?」


「ああそうだ。ミルロード王国近辺に飛行していた魔竜ジュンターっていう古竜だ。城に問い合わせればわかる筈だぜ。それにセイラも粘土人形で竜の痕跡を記録してくれていし、メルフィも水晶球オーブに自分が見た映像を念写してくれている」


 俺が言うと、セイラとメルフィは各々の証拠品を提示した。

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