第223話 竜殺しの資格

 人差し指に蓄積した拳大の『神力』を魔竜ジュンターに向けて翳した。


「――レイル、もういい! その場から離れろ!」


『ぐっ、人族の男か!? んなところに隠れてやがったのか、コラァァァ!!!』


 魔竜ジュンターは俺に向けて強烈な咆哮を放つ。

 生憎、俺は神様とやらになったおかげで、そういった精神崩壊マインドロスト的な効果は一切受けない。


「――行けぇ! 《タイム・アクシス・ジェネシス時間軸創世記》ッ!!!」


 指先から『神力弾』が発射された。


 周囲の空間を歪ませながら異質の弾道を描き、真っすぐに飛翔する漆黒の球体。

 高速に回転しながら、魔竜ジュンターを捉え迫って行く

 標的が超デカい分、絶対に外すことはない。


『バイバイ、淳太く~ん。ごきげんよう』


『オイ、どこへ行く『銀の鍵』!? あれは、なんだ――うぎゃあぁぁぁぁぁ!!!』


 悲鳴を上げる魔竜ジュンター。


 俺が放った『神力弾』がその巨体を穿った瞬間、超大爆発ビックバンのように竜の全身が木っ端微塵に弾け飛んだ。


 だが肉片や血液は飛び散ることなく、吸い込まれるように漆黒の『神力弾』に吸収され――そして消滅した。


 僅か刹那で、そこに存在していた筈のエンシェントドラゴン古竜こと魔竜ジュンターが消滅したのだ。


「……我ながら凄ぇ能力だぜ。そしてわかるぞ、魔竜ジュンターは俺が創った並行世界で生きている……が、決して奴にとっての楽園パラダイスなんかじゃない……死んだ方がマシと思える無窮の生き地獄だ」


 事実上、二度目の追放ということになるだろう。

 どちらもエグイ末路しか迎えてないけど……。


 にしても相当な『神力』が消費されてしまう。

 レイルじゃないが何度も撃てる能力じゃないようだ。

 しかも『魂力』とは異なり魔道具もないから、自然回復させるしか術はない。


 一日に一度、今はそれが限界のようだ。


『たった二度の使用で、お父様の《ジェネシス・ビヨンド創世記の超越》を使いこなすなんて大したセンスね。流石、「刻の操者」だわ』


 何事もなかったかのように、レイルが近づいてくる。


「――俺の《タイム・アクシス・ジェネシス時間軸創世記》だ。言っておくが、お前の親父をブッ飛ばすまで奪わせないからな」


『奪うのはワタシの役目じゃないわ。ウィルヴァお兄様よ』


「……なんだど? その口振り、何か知っているな? 教えろ、どうやって能力を奪う算段なんだ?」


『お兄様は聡明よ。ワタシにだって詳細は教えてくれないわ。けど祖父のオールドが……』


「オールド? ランバーグの本名だったな。何故、自害した奴の名が出てくる?」


『死ぬ前に、ウィルヴァお兄様に何かを託していたわ……ちなみにオールドの特殊スキルは相手の特殊スキルを一つだけ複製コピーして使用する能力よ』


「なんだと!? まさか……俺の《ジェネシス創世記》をコピーするつもりか?」


 そういやエドアール教頭は退学処分となった生徒の特殊スキルを奪って、別の者に移植する能力だと聞いたことがある。


 こうして改めて考察すると、ランバーグとエドアール教頭の特殊スキルが合わされば「複製」と「奪う」条件が成立するんじゃないのか?


 しかしエドアール教頭は味方だ。

 見栄っ張りで勇者パラディンのサリィ先輩と仲は悪いが、吸血鬼ヴァンパイアとなってまで長年ミルロード王国とスキル・カレッジを支えていただけに聡明で正義感溢れる人柄だと思う。


 少なくてもランバーグのような暗躍者と重なり合うような先生じゃない。


『それはそうと、クロウ。エルダードラゴンの方は野放しよ』


 レイルは話題を変えてくる。

 しれっとしていることから自分に不都合とかではない。


 この子の場合、特に意図はなく自分の気分で話題を振ってくる傾向があるようだ。

 見た目に反し邪念がなく純粋無垢で、ただのお喋り好きな少女キャラだってことは接していてわかったけどな。


「あ、ああ……残り三体か。魔竜ジュンターをこの世界から消したことで、奴の呪縛から解放されたばかりの放心状態だ。アリシア達には一体でいいから足止めさせるように伝えてある」


 俺はその場から離れ、再び《フォワード《早送り》》と《スキップ短縮》を駆使し高速移動する。


 すると待機していたエルダードラゴン達の姿が視界には入った。


 その一体がディネルースの《ハンドレット・アロー百式の矢》で両翼を破壊され、アリシアの《マグネティック・リッター磁極騎士》の磁力効果で動きを封じられている。


 もう一体はセイラの《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土》の術式|ブレイブ・ドールズ《勇敢な人形達》に纏わりつかれ、ユエルの《イクアリティ・フェイト公正なる運命》の術式|グレー・オブ・アッシュ《白黒の灰で瀕死状態となっていた。


 最後の一体もメルフィの《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》で放たれた禁忌魔法の《究極の拘束鎖魔法アルティメット・チェーンロック》で高速され、彼女の竜牙兵スパルトイスパルにより各部位が抉られ無残な姿となっている。


「……ちょっと指示しただけで、三体のエルダードラゴンを完全に封じちまうなんて、やっぱみんな凄ぇな」


 統率を失った敵とはいえ、ぶっちゃけ末恐ろしいんですけど……ちゃんと導けば過去の彼女らを彷彿させる戦闘力だ。


 ウィルヴァめ、なまじ自分が完璧にこなせる分、他人に委ねるのが下手なタイプかもしれん。



「よくやったぞ、みんな! 流石は俺の嫁達だ! 後は俺がトドメを刺す――《タイム・ソーサー時間斬刃》!!!」


 俺は刃を重ね合い、時計盤の刃を出現させ巨大化させて放った。

 《ジェネシス創世記》を放った後も、『魂力』系の特殊スキルを使用する分には問題ない。神格を得たことで無限魂力という補正でもついたのだろうか?


 そこは、やはり神様になったかもしれない。

 まだ実感ねーけど。


 そして放たれた《タイム・ソーサー時間斬刃》は瞬く間に三体のエルダードラゴンを一斉に貫通する。

 三体のエルダードラゴンは首と胴を斬り裂かれ、時間を奪い白骨化させ確実に葬った。


 こうして戦闘を終え、アリシア達が駆けつけてくる。


「クロウ様、流石です! まさか単身でエンシェントドラゴン古竜に打ち勝つとは! しかもエルダードラゴン成竜までも!」


「いやアリシア達も十分に凄かったぞ。初の連携攻撃で、エルダードラゴン三体を同時に封じ追い込んでいたんだからな。大したもんだ」


「いえ、貴方様を信じて戦うことができたからです……それに」


 アリシアは俯き真っ白な頬をピンク色に染めている。


「それに?」


「私達を嫁と呼んで頂き、光栄と言うか嬉しかったです」


「ん? うん、まぁな……つい口が滑っちまった。勇者パラディンでもないのにな」


「そんなことないよ。アタイらがここまで戦えたのは明らかにクロウ、あんたのおかげなんだからさ」


「セイラ……」


「うん、そうだね。正直ちょっと前まで、みんなのこと胡散臭いって思ってたけど……今は違うよ。クロウを大切に思う気持ちは本気なんだなって……だから信頼して団結できるって言うか……アハハハ、上手くいえないや。ごめんね~」


「そんなことないよ、ディネ。気持ち伝わる……ありがとう」


「クロック兄さん、たとえ勇者パラディンでなくても、私の気持ちは一切変わりありあません。兄さんを心から愛するたった一人の妹としてずっと傍にいます」


「メルフィ……ああ、ずっと一緒だ」


「それにクロウさん。お言葉ですが、そのぅ……もう条件はクリアされているのではないでしょうか?」


「ユエル、どういう意味だ?」


 すると、ユエルは恥ずかしそうにもじもじと身体をくねらせる。

 彼女がこういう仕草を見せるのは初めてだ。なんか新鮮で可愛らしい。


「――『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号です。ほら、エンシェントドラゴンを斃した者はその資格が得られるではありませんか?」


「ああ、言われてみればだ……」


 竜殺しドラゴンスレイヤー

 それは国で選抜される勇者パラディンと違い、実績のみで得られる称号だ。

 確か各国の冒険者ギルドが管理していると聞いたことがある。


 したがって生まれや教育、社会性など然程問題視されることはない。まぁ、あまりにも素行が悪いと剥奪されるけどな。

 またその分、称号を得るのに最も難解でシビアな条件が必要とされた。


 それがユエルも言っていた、「エンシェントドラゴン」を斃すこと――。


 たった今、俺はその条件を満たしたことになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る