第222話 タイム・アクシス・ジェネシス《時間軸創世記》
間もなくして周辺が暗くなった。
まだ昼間だというのに異常な現象。
上空で竜が飛行しているからだ。
暗くなっている長さから、かなりの巨大な竜であることが伺える。
明らかに
俺はセイラに頼み、屋根に極小の覗き穴を作ってもらった。
その穴から上空を飛ぶ物体を覗き見る。
やはりな……
俺は心の中で呟いた。
遥か上空からでも目視できる、明らかに超巨体の竜。
深紅に染められた鋼鉄の鱗を纏い、頭部から尻尾に至る所々に鋭利な棘が幾つも生え突き出されていた。
蝙蝠のような背部の羽は巨体よりも大きく高々と広げ優雅に宙を舞っている。
また
だから余計、その大きさの比率が圧倒的であることがわかる。
しかも、あの
『魔竜ジュンターね。並行されたこの世界じゃ、生きていて当然よ』
レイルが俺だけに思念を送り教えてくる。
「そうだ、魔竜ジュンターだ! てことは
「クロウ様、あの
「まぁな、アリシア……少し本で読んだ程度さ。どちらにせよ、このメンバーだけじゃ戦えない。このまま奴らが通り過ぎるのを待とう」
俺の指示に、みんな頷き了承してくれる。
下手に欲張らず従順なところが彼女達の良いところだ。
だがしかし、
『――なんか知的種族臭せぇな。どっかに隠れてやがるな? 腹減ったし食っちまおっか、オイ!』
魔竜ジュンターは唸り声と同時に言葉を発し、そのまま地上に降りてきた。
ぶわっと風圧と大地を揺らすほどの地響きが、身を隠す俺達にまで届いてくる。
「ぐっ……あれだけ上空で飛んでいやがった癖に、俺達の存在に気づいたってのか!?」
『エンシェントドラゴンは10キロ先にいる知的種族の臭いも嗅ぎ分けるわ。特に魔竜ジュンターこと「桜部 淳太」は、嘗て過ごしていた
「……サクラベ・ジュンタ? それが転生する以前の本名か? レイル、その話は誰からの情報だ?」
『ジュンター本人よ。ワタシ、向こうの世界で彼の監視役だったからね。臆病な癖に、いちいちムカつくこと言う最低名な性格よ』
そうか、
魔竜ジュンターは長い首をくねらせ周囲を見渡しつつ、頬袋に空気を溜めて喉元を大きく膨らませている。
――竜が炎を吐くための準備行動だ。
野郎……索敵しながら辺り構わず炎を吐き、森ごと俺達を焼き殺す算段か?
あるいは炎で炙り出し、逃げ惑う俺達を食らおうとする思惑か?
「……どちらにせよ最悪な状況だ。もうバレちまっている以上、このままやり過ごすことは難しいぞ。ここは戦うしかない!」
「クロウ様、仰る通りですが、いくらなんでもエンシェントドラゴン相手では……」
アリシアが不安そうな眼差しを浮かべる。
確かに、この面子だけじゃ無謀な相手としか言えない。
しかも今のアリシア達……戦い慣れこそしているが、五年前の彼女達より力量不足が否めない。
互いに特殊スキルを隠し合っていただけに、過去のような抜群の連携力は無理だろう。
まったく勇者だったウィルヴァがなんでも一人でやっちまうからこうなるんだ。
無自覚にアリシア達の才能と可能性を摘みやがって……これだから天才タイプはムカつく。
その癖に俺だけ囮役にしやがってよぉ……ああ、これトラウマの流れだわ。
俺は頭を振るい、忌まわしき記憶を払い除ける。
「問題ない。俺に考えがある――」
言いながら、俺にしか見えないレイルに視線を向けた。
『何よ、クロウ?』
「レイル、お前に協力してもらうぞ」
『えーっ! アタシ、クロウの味方じゃないんだけどぉ!』
「敵でもないって言ったろ? それにいいのか? 俺が死んだら《
『……貴方がそれ言う? 本当、変わった神ね。わかったわ協力してあげる。それで何したらいいの?』
「よし! んじゃとりあえず――」
俺はレイルに思いついた作戦を伝えた。
魔竜ジュンターが炎を吐こうとする寸前。
不意にレイルが奴の目の前に現れる。
『ハァイ、ジュンター』
『ブッ!?』
急な出現に、魔竜ジュンターは慌てて頬袋に溜めていた炎を引っ込ませ咽返った。
『ぶほっ、ぶほっ! なんだ、テメェ! 何モン……ん? まさか「銀の鍵」か? 奴から聞いていた神格……神霊の方か?』
『そうよ、この世界じゃ初めましてね。奴って、お父様のヴォイド=モナーク?』
レイルが言った瞬間、魔竜ジュンターの様子が激変する。
『俺の前でその名を出すんじゃねぇ! 忌まわしき糞竜神がぁぁぁ!! 「銀の鍵」如きが俺を支配した気でいるんじゃねーぞ、コラァァァ!!!』
思った通りだ――。
レイルからの情報だと、大抵のエンシェントドラゴンは竜神ことヴォイド=モナークを酷く憎み毛嫌いしている。
元は太古の昔に栄えていた人間という知的種族と同等の存在であり、奴らは不遇の死を迎えたことで、『刻の牢獄』に潜むヴォイド=モナークに魂を拾われ、
しかも当時の記憶を残されたまま……そのことで、奴らは相当な不満を抱いているらしい。
以前、俺達と戦ったエルダードラゴンである
だからあれほど潔く強かったのか……。
その魔法技術は、後に
林間実習で俺達を襲わせて、またウィルヴァとシェイマの逃走を手助けさせた。
神とはいえ、他人の魂をなんだと思ってやがるんだ?
それに便乗する奴らも狂気の沙汰としか思えねぇ。
魔竜ジュンターがレイルに気を取られている隙に、俺は単身で《フォワード《早送り》》と《
自分の射程距離に近づくためだ。
有効距離約25メートル――。
だが普通に近づいたら、鼻の良いエンシェントドラゴンにすぐ勘付かれてしまう。
誤魔化し用の「匂い袋」も既に使い切っていた。
まぁ別の方法はなくはない。
至極シンプルなやり方だ。
その辺に隠れているモンスターを狩り、そいつの血肉をあえて全身に浴びて自分の臭いを一時的に掻き消した。
後は効果が続いている内に射程内まで接近するだけさ。
あと数メートルでその距離に入る。
魔竜ジュンターは、まだ俺の存在に気づいていない。
が、
『――ん? なんだ……妙だ。さっきから潜んでいた知的種族達がこっそりと移動していたのはわかっている。けど数が足りねぇ……『銀の鍵』、テメェに構っていたら、一人だけ臭いが消えているぞ! ムカつく雄の臭いだ!』
野郎、ガチで鼻がいいぜ。
もう俺が消えたことに勘付きやがった。
しかし、もう俺は射程内にいる。
あと『神力』を開放させ、俺の特殊スキルを
以前ウィルヴァからの指導と感覚で、《
――指先だ。
指先から『魂力』の進化した『神力』を一点集中させることで、超高温高密度のエネルギーの塊が集約され、爆発的な凝縮と循環を繰り返し新たなエネルギーを形成していく。
そのエネルギーの塊こそが、時空を超越し新たに創られ誕生した並行世界。
混沌する想念が渦巻き形となる質量を持ちながら実体のない
しかし強制的に誘われた並行世界が、本人が望む
特に俺が外道共に放つ弾丸は凄惨たる絶対死、あるいは死ぬことすら叶わぬ災厄なる生き地獄という無限ループの牢獄世界。
それが本来のヴォイド=モナークが宿していた《
否、
俺の特殊スキル――《
───────────────────
スキル名:
タイプ:放射+効果+具現化+創世
レアリティ:GOD
能力者:クロック・ロウ
【能力解説】
・存在しない時間を創り、並行世界を創世する神の力。
・指先に一点集中させ、その微空間に独自の
・並行世界は能力者であるクロック・ロウが創造する世界であり、それは標的者が望む栄光の楽園か、あるいは無窮の地獄世界となる(主にクロックは外道に対して容赦なく、厄災と絶望の世界へと誘わせる)。
【効力】
・神力弾の射程距離は25メートル。
・射程内であれば外すことはない、無敵貫通+防御無視の効力を持つ。
・その気になれば、クロックと『銀の鍵』のみが創世した並行世界に行き来することができる。
【弱点】
・射程距離以外だと命中精度が落ちる。
・今のクロックは1日に1度しか撃つことができない。
【その他】
・GODに進化したことで、クロック・ロウは神格を得て神と同格の存在となった。
・神となったことで人族としての限界を超えた肉体および身体能力を持つに至る。
・魂力と別なので、これまで通り《
・ただし神力技に関しては、肉体は人族のままであるため消費が激しく無限とはいかない。
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