第221話 考察と古竜との遭遇
『――そのうち、パーティの子達から裏切る者が出てくるわ。だから気をつけてね』
レイルからの警告。
裏切り者って、まさかアリシア達からだと?
嘘だ、そんなバカな……あり得ない。
「どういう意味だよ? お前は何を知っているんだ!?」
『ワタシじゃ預かり知らぬ範囲よ。誰かはわからないわ……けど仲間の中で一人だけ、クロウと同じタイプが潜んでいる。それは間違いないわ、「銀の鍵」としての勘よ』
「俺と同じ? どっかの神様の末裔だってのか?」
『あるいは化身か……よくある話よ。どっかの信者に《
仮にそうだとしても、ヴォイド=モナークと関連しない神なら敵であるとは限らない。
別の目的でたまたまそうなのか、あるいはレイルの思い違いという線もあり得る。
そういや、アリシアとユエル以外は出生が曖昧な子ばかりだ。
今の時代、大抵は竜に親を食われ孤児院で育てられる子供が大半だからな。
特に俺が生まれた時代は、そんな子供が多かったと聞く。
だとしたら絞られる……セイラ、ディネルース、メルフィ。
けどアリシアも隠密部隊に拉致されたという空白期間があり、ユエルもウィルヴァが赤子から妙に庇っていた姿勢から怪しいといえば怪しい。
いや、どちらにせよだ――。
「レイルの言いたいことはわかる……けど俺は仲間を、彼女達を信じている!」
『そぉ、やっぱり変わっているわ……忠告はしておいたからね。おやすみなさい、クロウ』
レイルはそう言い背中の翼を羽ばたかせ、夜空へと消えて去った。
「あいつめ……とんでもないフラグ残しやがって。やっぱ敵なのか?」
しかしどうする?
いや、この時代で考えても仕方ない。
ここはウィルヴァやヴォイド=モナークにとって失敗した世界だ。
俺が不遇を受けたあまりやさぐれ、《
そのやり直しのため、過去の時代に遡及されたのだ。
過去の時代で、俺は《
つまり『銀の鍵』であるウィルヴァがいない時点で、本来なら存在しない筈の並行世界となる。
だからこの時代で、パーティの誰かに憑依していると思われる邪神が何か悪さするとは限らない。
悪さするなら、とっくの前に実行しているだろう。
おそらくだが、この糞未来が並行世界となったことで何かしらのタイミングを逃した可能性がある。
神格を得た俺の直感だが……そんな気がしてならない。
それにレイルの話を聞く限り、おそらく本人は無意識だと思う。
嘗ての俺がそうだったようにな。
ならば、知らぬがなんとやら。
俺はみんなを信じて平常運転するまでだ。
せっかくわだかまりが解消され、本来あるべき関係に戻ったことだしな。
それからも俺は火を愛でながら、紙に手紙を書き続ける。
翌朝、準備を整えた俺達はミルロード王国に帰還するため出発した。
普通に歩けば五日で到着する距離だ。
だが不要な戦闘を避けるため、竜から身を隠しながらの移動することになる。
結局それ以上の時間を要することになるだろう。
しかし、みんなもすっかり打ち解けたこともあり旅の苦はなかった。
本来パーティを指揮し中心となる
「このペースだと後、三日ほどかかるな……」
食料や水は、俺の
「今日こそ、私がクロウ様と寝所を共にするからな! 決して邪魔だてするなよ!」
「アリシア、あんた正妻だが知らないけど、いちいちクロウを独占すんのやめなよ! アタイらだってイチャつく権利はあるんだからね!」
イチャ着く権利って何よ、セイラさん?
「そっだよぉ! クロウはみんなのクロウなんだからね! 独り占め駄目~ッ!」
ディネよ、俺は公共施設か?
「もう皆さん、私の兄さんですよ! 義理でも妹である私を差し置いてはいけないんですからね!」
妙な理屈をこね始める、メルフィ。
きっと過去の世界でも開き直って同じこと言うんだろうな。
「公平云々で仰るのであれば、ここはくじ引きで順番を決めては如何でしょうか? 無論、わたしも参戦させて頂きます」
もうユエルまで……そこに俺の意志はないんかい。
とりあえずみんな疲労感など皆無で、寧ろ体力が有り余っていることだけはわかったぞ。
『モテモテね、色男さん。身から出た錆びだけどね』
「うっせーぞ、レイル。全て覚悟の上で受け入れてんだよ。てゆーか、過去の世界とあんま変わんねっつーの!」
しかし、みんな立派な大人の女性ばかりだ。
それだけに、俺へのアプローチの仕方がより濃厚で色気がヤバんだ。
あれからアリシアに
「フフ、よろしいですよ……まさかクロウ様から求めてらっしゃるとは、私はとても幸せです」
なんと俺が誘っていると勘違いされ、そのまま受け入れられ迫られてしまった。
その綺麗で大人の艶っぽさに、つい頭がくらくらしてその気になっちまうところだったけど必死で堪えたね。
アリシアとそういう関係になるのは、俺と入れ替わっている未来のクロック・ロウだからな。
俺にとってこの世界はリベンジするべき糞未来の延長。
あくまで仮の未来であり並行世界だ。
なので俺の役目は軌道修正役……そう思うことで超我慢したさ、ちくしょう。
そうこう進んでいると、不意に周囲の雰囲気が変わった。
木々や茂みに身を隠していたモンスター達がいきなり現れたかと思うと、何故か俺達をスルーして逃げるように去っていく。
「クロウ様、これは?」
アリシアがモンスター達の奇行ぶりに首を傾げている。
「モンスター達が逃げるってことは『竜』だ。
「エルダードラゴン以上とはまさか……」
「ああ――
俺の発言に、みんなは「え!?」と一斉に声を荒げる。
「エンシェントドラゴン!? 竜の最強格じゃないかい!?」
「マズイよ! ボク達、見つかったら問答無用で食べられちゃうよ!」
「あるいは森ごと焼き払われてしまうかです……クロック兄さん、どうしましょう」
「竜学士のウィルヴァお兄様でさえ、勇者パーティでも軍を率いらなければ相手にすらならないと仰ってました。今のうちに、どこかへ身を隠しましょう!」
ユエルの提案に、俺は冷静に頷いて見せる。
「そうだな。よしセイラ、木々を粘土状にして
「あいよって、クロウ? どうしてあんたが、アタイの《
おおっと言われてみればだ。
この時代のみんなは互いの特殊スキルを隠し合っていんだっけ。
ならここは大人っぽくダンディにキメてやるか。
「俺は惚れた女のことは何でも知っている。皆まで言わせるなよ」
親指を立てて、ばっちり言ってみた。
すると、セイラは褐色の肌でもわかるほど耳元まで真っ赤に染め始める。
「わ、わかったよクロウ……あんたのそういうところ愛してるよ、うふふふ」
「おのれぇセイラめ! いつの間にクロウ様と! クロウ様、私のことも思う存分知ってください!!!」
「そうだ! ずるいぞ、セイラ! クロウ、ボクのことも知って~!!!」
「兄さん、あれから私も成長したんです! どうか隅々まで見てください!!!」
「公平とは平等であることです。クロウさん、どうかこのわたしも……きゃっ」
『クロウ、たった一言で全員発情させちゃうなんて、ダンディ以前にヤバいわね……よっ、このエロ大魔神♪』
「やかましいわ! みんなバカなの!? 知っているってそういう意味じゃねーよ!! 特殊スキルの話だろうが!!!」
緊急時でも緊張感がないところも相変わらずだ。
俺のブチギレを他所に、セイラは「あいよん、アンタ♡」と機嫌よく周辺の木々を殴り粘土状にして屋根を作り加工させる。
簡易的な
その際もセイラ以外の女子達から、「チッ」と舌打ちが聞こえてくる。
もう全員ヤベーよ。
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