第220話 竜娘からの警告
これから寝ようぜって時に、女子達から大人の関係を求められてしまった俺。
勇者ウィルヴァの時は俺の一方的なやっかみによる疑惑で終わっていたが、今は結婚を前提としているだけにみんなガチだ。
ぶっちゃけ俺も男だし21歳の大人でもある。
据え膳食わぬは男の恥ということわざもあるだろう。
しかし……。
「――すまん、みんな。俺は外で火の番をする」
「「「「「えっ!?」」」」」
えっ、じゃねーし。
「はっきり言うと、俺はみんなが大好きだ……女性としても魅力的だし正直受け入れたい。だが俺は
「「「「「えーっ」」」」」
えーっ、じゃねーよ。
「だからそのぅ、勇者さんが不在ってのに、今日の今日ってのもあれだ……不謹慎じゃね?もう少し状況を整理してからにしようぜ。俺も火の番しながらやりたいこともあるし……さ」
「……わかりました。残念ではありますが、クロウ様がそう仰るのであれば。そういえば勇者殿はどこに消えたのだ? あれからずっと姿を見せぬではないか?」
「クロウに夢中ですっかり忘れてたね……ウィルが無責任に逃げ出すとは思えないんだけどね。何してんだよ、まったく」
「まさか竜に食べられちゃった? いや、それはないか……あれだけ強いんだしね。ボクしーらない」
「私はクロック兄さんがいてくだされば特に問題はありません……ユエルさんには申し訳ないですが、ミルロード王国に戻ったらパーティを抜けて兄さん二人でひっそりと暮らしたいと思います」
「……まぁ、ウィルヴァお兄様のことに関しましては後々何かわかるかもしれません。もう遅いので、クロウさんのお言葉に甘えて休みましょう」
現実に戻った女子達が勇者ウィルヴァに対し不満を口にする中、唯一事情を知るユエルが場を仕切る形でテントにて休むよう呼び掛けている。
女子達みんなが切なそうに俺を見つめ、渋々とテントに入って行った。
「ふぅ……やれやれだ」
こりゃ入れ替わったら苦労すんぞ、未来のクロック・ロウよ。
今のうちに体力つけておけよ。
っと、冗談はここまでとして。
俺は荷物から、紙とペンと取り出した。
『何するつもりなの、チャラ男の絶倫さん』
レイルが声を掛けてくる。
何気に酷ぇ言い草だ。流石にムカついてきたぞ。
「やかましい! そもそもお前らが元凶だろうが! しれっとしやがって、そこを忘れるんじゃねーぞ、コラァ!」
『仕方ないじゃない。ウィルヴァお兄様にそう命じられていたし、それが「銀の鍵」の使命なんだもん。けど貴方達って見ていて飽きないわ。まさか、この時代のユエルお姉様まで乗っかちゃうんだもん。大したプレイボーイね』
「ちげーって言ってるだろうが! 俺は全員に対して本気だ! 未来や過去だろうと関係ない! そういう意味じゃ全てを超越した神様なんですぅ――って、リーゼ先生のこと忘れてたな、おい」
そういや、リーゼ先生。
結婚に失敗して借金背負わされ、娼婦館で働かされているんだよな。
可哀想に……彼女もなんとかしてやんないとな。
俺は焚火明かりを頼りに、ひたすら紙にペンを走らせる。
『何を書いているの?』
「……ユエルに説明していたの聞いていただろ? 俺が過去に戻った際の保険だ。この時代のクロック・ロウがどんな状態で戻ってくるかわからないからな」
『自分の事とはいえ入念なのね。古神クロノスもきっとそういう性格だったんでしょう……だけど、ワタシ達にとってお父様ヴォイド=モナークを裏切った極悪の反逆者よ』
「そういやお前らと俺の祖先、いわば眷属みたいなポジか? けど俺はクロノスの気持ちがわかる……身勝手でイカれているのはどう考えても、お前ら側だからな。何よ、ガイアティアの生物を皆殺しにして信者達に並行世界をくれてやるって、バッカじゃねぇの?」
『バカ言わないで! そもそも知的種族達が嘗て
「トラウマ舐めんなよ。既に散々思い知っているっての……けど、おかげで俺は成長することができた。トラウマだった糞未来と向き合い全てを赦し、こうしてアリシア達と本来あるべき関係に修正することができた。あのままの俺だったら、こんな心境にはならなかっただろうぜ。奇妙な感じだがそういう意味じゃ、お前とウィルヴァに一皮剥けさせてくれたことを感謝しているぜ」
『な、何よプン!』
レイルはそっぽを向く。
見た目こそ美少女と竜を混合した異形だが、言動や仕草といい年頃の少女って感じだ。
そういえば、姉のユエルとはよく他愛のない恋バナをしていたと聞く。
「……レイル、お前個人は『銀の鍵』の使命とやらを抗い捨てることはできないのか?」
『何よ、突然……できるわけないじゃない。それがワタシの存在意義よ。でなければ、ユエルお姉様のように普通に生まれていたわ』
「だがウィルヴァのことは苦手なんだろ?」
『苦手というか……嫉妬しているだけよ。ウィルヴァお兄様はワタシ達にないものを全て持って生まれたわ。能力は勿論その美しさも全て。だから羨ましいの』
「ウィルヴァは俺に倒された際、うわ言でお前の名を呼び『自分はヴォイド=モナークの傀儡、背くことは死を意味する。だから決して羨む存在じゃない』と言ってたぞ」
『けどそれって、それだけお父様に寵愛を受けて生まれたってことじゃない。ワタシなんて同じく生を受けたのに、この身形よ……同じ「銀の鍵」でも明らかに不公平だわ』
「まぁ、俺も奴に嫉妬していたから気持ちはわかる……だから俺はウィルヴァ超えようと必死だった。ずっと神に愛されているイケ好かない糞勇者だと思っていたけどよぉ、ガチの神の子って知っていたら、そんな挑戦なんてバカらしくてしなかったけどな」
『何言っているの? クロック、貴方はちゃんとウィルヴァお兄様を超えて神様になったじゃない? だから《
「なるほど、そういうことか……それが神格への進化条件だったのか? けど、まだあいつに勝ったという実感があまりねーや」
『面白い人、いや神様ね……クロック、貴方ならワタシ達を定めから解放してくれるかもね』
「努力するつもりだ。そうそう、俺のことはクロウって呼んでくれ」
『クロウ……?』
「ああ気に入った奴にはそう呼ばせるようにしている」
『気に入った? ワタシを?』
「そうだ。レイル、お前は悪い奴じゃない。ユエルも無害だと言っていたが、こうして話していてよくわかったよ」
『そっ、ありがと……けど味方にはなれないわよ。最終目的はわかっているでしょ?』
「ああ、俺の《
『……善処するわ、クロウ。けどワタシは既に業を背負っているのよ』
「どういう意味だ?」
『ワタシが生まれたことで、お母様のラーニアが死んだのよ』
「ユエルからそれとなく聞いたことがある……ウィルヴァがそう言ってたってな。あれはどういう意味だ?」
『ワタシはこんな存在であり身形だからよ。当然、母体に影響を及ぼすわ……それにウィルヴァお兄様は「銀の鍵」として善を宿す一方で、ワタシは負を宿している。だから生まれるのに、お母様の「魂力」を必要としたのよ。それこそが「
ユエルがポプルス村で入手した情報通りってことか。
自分の娘を生贄にするなんて、実父のランバーグことオールドはガチでイカれている。
「けど子は親を選べないもんだろ? 俺だってそうだ……そこは仕方ないんじゃないか? だったら悔やむより、自分の好きなように生きればいい。母親ができなかった分まで精一杯によぉ……けど人道から外れたら駄目だからな」
『……クロウって凄いね。本当、神様みたい』
「そうじゃないのか? まぁ実感なんてねーけど」
『ありがとう考えておく。ワタシはもう寝るわ……クロウは神様だからその必要はないけどね』
え? そーなの?
そういやあんま眠くねぇや。
なんか体力も有り余っているし、いずれ絶倫説が浮上しそうだ。
『お話に付き合ってくれたお礼に、一ついいこと教えてあげるね』
「なんだ?」
『――そのうち、パーティの子達から裏切る者が出てくるわ。だから気をつけてね』
「え?」
さらりと警告してくる衝撃的な内容に、俺は唖然となった。
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