第217話 糞未来リベンジ

 

 俺とアリシアが本来あるべき関係に戻った頃。


 待機していたセイラ、ディネルース、メルフィ、ユエルの四人が駆けつけて来る。

 当然だがエルフ族のディネ以外は、みんな立派な大人の女性として成長していた。


「今のは誰の攻撃だったんだい!? 一瞬でエルダードラゴンを白骨化させちまうなんて物凄い威力だけど、ウィルのスキルじゃないよねって――あっ、クロウ! あんた、アリシアに何してんのさぁ!」


 俺達の抱擁している場面を見て、セイラが真っ先に突っかかってきた。


 やれやれ、また面倒くさいことになってきたぞ。

 俺は溜息を吐きながら、アリシアから離れる。


「違う、セイラ! これは双方の合意の上だ……クロウ、様と私のな」


 小声で「様」をつけてくるアリシア。

 やっぱり同一人物だけあり、この時代においても彼女は主従関係が変わればそういうキャラになってしまうらしい。


「様ぁ? おい、アリシアあんた正気かい!? 作戦前に囮役を嫌がるそいつに『我が主の指示だぞ、無能者が!』とか叫んで、思いっきり尻に蹴りを入れていただろ!?」


 やっぱりそうだったか、この暴力女め……もう赦したけど。

 けどイラっとするから、後でイチャつきながらこれ見よがしに尻を揉んでやるからな。


「いや、それは……酷くやりすぎたと思っている。今回だけでなく、これまでも……私はどうかしていたのだ。それでもクロウ様はそんな私を赦してくださった。だから……私は……」


「ちょっとアリシア、どうしちゃったの!? 相手はクロウだよ!」


「まさか、その男に魅了魔法を施されたのでは!?」


 ディネとメルフィが罵倒混じりで非難して問い質している。

 てか、二人とも酷ぇ言いようだ。

 特にメルフィなんか俺を「その男」って……兄さんと呼んでくれないとやっぱ寂しいぞ。


「み、皆さん。何もそこまで言う必要は……クロウさんが魔法を使えるわけがないじゃないですか?」


 やっぱりユエルは俺を庇ってくれる。超小声だけど。

 彼女だけスキルの影響を受けてないだけに、この時代でも変わらない女神ぶりだ。

 でも過去の時代と違って、パーティの親交がないだけに消極的かつ控えめに見えてしまう。


 俺は再び深く溜息を吐き捨てた。


「あぁ~うぜぇ。俺とアリシアがどういう関係になろうと、今のお前らに関係あるのか? なんだ、羨ましいのか? 同じようにしてほしいのか?」


「「「はぁ!?」」」


 ユエル以外の三人が表情を歪め攻撃的に威嚇してきた。

 なまじ本気モードだから怖ぇ……。


 この三人もレイルが施した《カルマ・コンバ―ジョン因果変換》の能力で「縁起」が変えられてしまい、常に俺を見下して敵意を抱いている。

 そして本来の人格と感情が歪んでしまっているんだ。

 ……いや、この子らは最初から気性が荒い方か。


 そんな中、アリシアが凝視してくる三人との間に割って入ってきた。


「やめろ、三人共! クロウ様に手出しするようなら、この私が赦さんぞ!」


「アリシア……その様子だとガチのようだね? けどあんた、スキル・カレッジの卒業式でウィルに永久の忠誠誓うって畏まって、そいつとアタイらに見せつけていたじゃないのさ!」


 セイラから最もな正論。

 俺もトラウマとして覚えている……あれもウィルヴァがレイルに命じた自作自演だからな。

 まったく最低のNTRだぜ。


 そういう意味では犠牲者でもある、アリシア。

 彼女は指摘を受けて戸惑っていた。


「え? そ、それは……あの時はどうかしていたのだ。自分でもよくわからない……何故、あそこまでしてしまったのか」


「それだけじゃないよね!? これまでだって、クロウをあれだけ下僕扱いしてコキ使って暴力まで振るっていた癖に、いきなり恋人になりましたって信じられないんだけどぉ! なんか見ていてイライラするんだけどぉ!」


「そうです! 兄妹の縁を切った男とはいえ、元妹としても不快です! あまりにも虫が良すぎるではありませんか!?」


 ディネとメルフィまで厳しい口調で非難と指摘をしている。

 にしても、なんだか三人とも別の理由でブチギレ始めたぞ。


 まぁ、アリシアの俺に対する変貌ぶりと擁護する態度に違和感を持つのは当然だ。

 そしてアリシアも自身の心境の変化に戸惑い何も言い返せないでいる。


「……み、皆さん、どうか落ち着いてください。それより、ウィルヴァお兄様はどこにおられるのでしょう? 先程からまるで姿が見られないのですが……」


 ユエルは控えめな口調でみんなに制止を呼び掛けながら、勇者である兄の消息を気にしている。


「そういえば勇者殿はおられないな?」


「あんたらのせいで、すっかりウィルのこと忘れてたよ……」


「精霊達も知らないってさ~」


「先程まで近くで待機してましたよね? どこに行かれたのでしょう?」


 勇者が姿を見せないことに、女子達が不安を見せ始める。

 てか、みんな気づくの遅ぇよ。

 まさかこの世界を見捨て過去の世界に行って暗躍しているとは言えない。


 俺はチラリと呑気そうに宙に浮いている、異形の竜娘に視線を向けた。


「おい、レイル。お前はこの時代のユエルとコンタクトが取れるのか?」


『できるわ。だって血縁だもの。けど、ワタシの姿を見ることや触れることはできないわよ』


「そうか、ならユエルに事情を説明してやってくれ。余計な事が言えないなら、どうして居なくなっただけでいい……他の女子達には、俺がそれっぽい理由で説明する」


『わかったわ、それだけなら従うわ――ユエルお姉様』


 レイルはユエルを呼び、一時ほど俺達から遠ざけて行く。

 無垢な性格だけに、ウィルヴァと「本当の父」の意に反さない限りは比較的に協力姿勢のようだ。


 それはそうと、残りの女子達をどうするか――。


 アリシアはもう俺に従順だから適当な説明でも納得してくれるとして、他の三人は依然としてあんな調子だ。

 俺がまともに説明しても理解しようとさえしないだろう。


 この森はミルロード王国から相当離れた場所に位置する。

 勇者不在のままミルロード王国に戻るのに数日はかかるだろう。

 その間、竜やモンスターに遭遇することだってあり得る。


 ――つまり今の俺達は敵地の真っ只中にいるということだ。


 俺も『神格』とやらを得たおかげで以前よりパワーアップこそしているが、身体が人族である以上限界がある。

 したがって過去時代のようにパーティのチームワークで乗り切るしか、全員が生き残る術はないだろう。


 荒療治になるが仕方ない――。


「おい、お前らよく聞け! 勇者ウィルヴァはいなくなったんだ! ワケは知らん! いや知っていたとしても、どうせアリシア以外の脳筋類のお前らじゃ理解ができんだろ!?」


「「「はぁぁぁん!?」」」


 俺の暴言に案の定、セイラ、ディネ、メルフィの三人娘がブチギレてきた。


「どうして、アリシアは除外されるのさぁ! ボクより余程の脳筋キャラじゃん!」


「ディネよ、今のアリシアは俺の言うことを聞き入れてくれる。だから除外した。お前とメルフィも指示に従うなら除外してやってもいいぞ」


「偉そうに! つい、さっきまでおどおどしていた、兄さん・ ・ ・が何の戯言を並べているんですか!?」


「おっ、メルフィ? 今、俺を兄さんと呼んでくれたのか? だが今のお前は妹の資格はない。以前してやったように、頭ナデナデなんてしてやんねーからな」


「なっ……!?」


 メルフィは口を押えながら、涙目になり動揺している。

 《カルマ・コンバ―ジョン因果変換》が解除されたことで、少しずつだが以前の「兄さん大好き妹」に戻りつつあるのか。


「クロウ、あんた……随分いい度胸しているねぇ?」


 セイラはドスを利かせた口調で威勢よく拳をボキボキ鳴らしている。

 完全に攻撃モードだ。

 やっぱ元祖脳筋キャラである彼女なら、真っ先にそう出るだろうと読んでいた。


 俺はニヤッと口端を吊り上げる。


「ならどうする? 俺を黙らせたいのなら腕づくで来るしかねぇぜ」


「言われなくてもそうしてやるよ! アタイが勝ったら、アリシアが可笑しくなったことを含め、あんたの知っていることを全て吐かせてやるよ! そしてクロウ、あんたは一生アタイの下僕だからねぇぇぇ!!!」


「おっ、いいよそれで。その代わりセイラ、俺が勝ったらアリシアに続いて、お前は第二の嫁だからな」


「はぁ!?」


 俺の要求に、セイラは大口を開けて驚愕する。


「……クロウ様。もしや増員ありなのですか?」


 アリシアはどこか不服そうだ。

 無理もないか。

 この時代の俺は次期勇者パラディンでもなんでもない。

 あくまで底辺のクロック・ロウであり、ただの雑用係ポイントマンだ。


 けどなんとかなる。


 いやしてみせる――その為の未来リベンジだ。

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