第216話 カルマ・コンバ―ジョン《因果改変》
俺は再び、あの忌まわしき糞未来へと戻ってきてしまった。
早々に当時のアリシアと再会を果たすも変わらない凶暴女ぶりで、まだ蹴られた
「おい、クロウ! 何をブツブツ言っている! 貴様、聞いているのか、ああ!?」
いきなりアリシアが、俺の襟首を掴みかかってきた。
何故か涙目になっている。
そんなに俺から「大嫌いだった」と言われたのがショックだったのか?
けど相変わらずのバカ力め。
次第に息苦しくなってきた。
「チッ、ムカつくな……おい、レイル! お前のスキルが解除されたってのに、アリシアは戻ってないぞ! また何かしてんじゃねぇだろうな!?」
『ウィルヴァお兄様の指示なしで余計なことしないわ……それに《
「なら、今すぐそれをやれ」
『無理よ。今のクロックは神様だもん。対象となるのは知的種族の
何がもんだ、この竜娘め!
神様とやらになったってクソも良いことねぇじゃねーか!?
「クロウ、答えろォッ!」
「ああ、面倒くせぇ――《
俺はアリシアの手に触れて《
そして10秒間ほど、彼女の動きがピタッと停止される。
今のうちに掴んでいた手を解いた。
「残り5秒。本当なら今までの借りを返してやると思って、この女をボコ殴りしてもいいんだけどな……」
以前なら、これ見よがしに復讐してやっただろう。
現にそう思って、遡及世界ではこいつの頭に牛乳をぶっかけてやったこともある。
けど今は違う。
俺はアリシアのことが好きだ。
大好きだ。
愛していると言っても過言じゃない。
幼い頃、彼女と結婚する約束を交わしたことは今でも忘れていない。
初恋の女であり、大切な女性だ。
不意に俺は、停止しているアリシアを抱きしめる。
「――タイムアップだ」
「ハッ!? ク、クロウ!? 貴様、私に何を……血迷ったのか!?」
そういう割にはあまり抵抗してこない、アリシア。
わかっている。
アリシアは今でも俺のことを待ってくれているんだ。
「血迷ったか……そうかもしれない。当時の俺なら死んでもこんな真似なんてしないだろうさ。ましてや散々俺を蔑ろにしてきた糞女騎士に惚れちまうなんてよぉ」
「な、なんだと……今、なんと?」
「ずっと言えなかったことを今初めて言うぞ――好きだ、アリシア。お前のこと愛している。幼い頃、孤児院での遠足で……お前に『お嫁さんにしてくれる』って告白してくれた時から、ずっと異性として意識していたんだ」
「……覚えていてくれたのか?」
アリシアの声質が変わる。
刺々しさが消え、過去の彼女を彷彿させる優しい口調だ。
俺は素直に頷いた。
「ああ、けどその子がアリシアだと知ったのはつい最近のことだ。それまで俺は自分に自信が持てず、苦手意識ばかり持っちまっていた。本当にすまない」
「いや、いいんだ。私も名や身分も変えていたのだから、気づかないのは当然だ……私はただ貴様……いや
きっとそれが、レイルの特殊スキル《
魅了とは異なり、さりげなく他人の「縁起」そのものを変換させちまうんだからな。
そう思うと相当ヤバく陰湿で末恐ろしいスキルだ。
「もういいんだ……アリシアには今の俺を見て欲しい。それでお前に相応しい男なのか見極めてほしいんだ」
「クロウ?」
その時だ。
ドドドドドドドド――ッ!
雷鳴の如く轟音が鳴り響く。
「――始まったか」
俺は抱擁を解き、アリシアから離れた。
今のは間違いなく、ディネの特殊スキル《
作戦通りエルダードラゴンの両翼を破壊したのだろう。
そしてエルダードラゴンは地上に落下した。
ドスンという衝撃と地響きが大地を激しく揺らしている。
「よし、後は俺が仕留める! アリシア、ここを動くなよ。他のみんなにもそう指示してくれ!」
「クロウ!」
俺は呼び止めるのを無視して駆け出した。
「レイル、ついて来てるか?」
『来てるわ。どうしたの、ロマンチストさん?』
ずっと見ていやがったからか、恥ずかしい言い方しやがって……嫌味のつもりか?
まぁいい。
「念のために確認するが、俺の技能スキルと特殊スキルは健在なんだろ?」
『ええ勿論よ。さっき使用した通り、そのままよ』
「……《
『そうよ。その為に、クロックはこの世界に舞い戻ったてきたのよ。きっと深層心理の中で貴方がどうしても決着をつけたいと思った世界であり、並行世界として創生された時代なんでしょうね』
「なるほど、そういうことか……身に覚えがあるだけに理解したぜ!」
駆けつけた俺は、地面に落下したばかりのエルダードラゴンと対峙した。
ウオォォォォォッ!
奴はこちらを見るや咆哮を上げる。
どうやら俺が翼を破壊して引きずり下ろしたと思い込んでいるようだ。
すると二本の後ろ足だけで立ち上がり、いきなり突撃してきた。
大口を開け食ってやらんと襲ってくる。
俺は腰元に携えていた剣を抜く。
当時装備していたのは変哲のない、ただのロングソードだ。
「そういやこの頃、俺は二刀剣術を習得してなかったんだ。武器はこの剣と胸元にある短剣くらいか……よく生き残れたもんだぜ。まぁいい」
俺は予備の短剣を抜き、左右の刃を重ね合わせ身構えた。
「――《
重ねた刃から眩い光輝を発した半透明の時計盤が顕現した。
それをさらに拡張し、より巨大化させていく。
俺は二刀の剣を振るい、時計盤を発射させた。
すぐ間近まで迫って来た、エルダードラゴンの巨体を通過し時計盤はフッと消える。
同時に時間を奪い、竜の動きを完全に封じた。
「トドメだ――《
再び重ねた刃から、今度は深紅色に染められた『時計盤』が出現させた。
先程と同じ要領でエルダードラゴンに放つ。
今度のそれは時計盤型の高速に回転する
するとエルダードラゴンの肉体は萎むように痩せ衰え消滅し、白骨化した骨組みだけが残された。
「おし! いつの間にか『魂力』が戻っているし、なんだか絶好調だな!」
俺はガッツポーズをして叫んだ。
気づけば頭痛も治まり体調も良くなっている。
ただし
『クロックは神格を得た神様だから、そう簡単に「魂力」を失わないわ。けど《
頭上で傍観しているレイルが教えてくる。
「なんだと? つまり『魂力』系の特殊スキルは使い放題ってわけか? なるほど、そういう利点もあるんだな。どちらにせよ、この程度の相手に《
てか俺、神様になった実感が少しもないんだけど……。
レイルが言う『神格』とやらの定義がようわからん。
「――クロウ!」
アリシアが駆けつけて来る。
「よぉ、見てくれたか?」
「ああ……今のスキルはなんだ? いつの間にあのような力を……」
「今のが俺に備わっていたガチのスキルってやつだ。どうだ、もう無能者なんかじゃないだろ?」
「う、うむ……今まで本当にすまなかった。いえ、ごめんなさい……」
アリシアは複雑な表情を浮かべ涙を流した。
俯き、俺に向けて深々と頭を下げて見せる。
こいつ、すっかり素直になったな。
いや、これが本当のアリシア・フェアテールだ。
潔く純粋で思いやりのある女騎士。
俺はそんなアリシアを再び抱擁した。
「ク、クロウ?」
「もういいって言ったろ……これからは俺を信じてほしい。もう二度とアリシアに心配かけさしたりしないからな」
「……うん」
アリシアも俺の背中に両手を回し、ぎゅっと強く抱きしめてくれる。
それは糞未来で、俺達の因果が本来のあるべき関係へと戻った瞬間だ。
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スキル名:
タイプ:効果系
レアリティ:SR
能力者:レイル・ウエスト
【能力解説】
・対象者を指定し、その取り巻く周囲の『因果関係(原因と結果)』の中間である『縁起』を変換させるスキル。
『縁』とは『原因』を構成する間接的な『条件』を意味する。
『起』とは『原因』を構成する直接的な『動き』を意味する。
・これらは人同士の『縁』にも繋がることであり、例えば友情関係や恋愛対象者も『好⇔嫌』『愛情⇔憎しみ』などに互いの関係性を変換することができる。
【効力】
・対象者と深い『縁』のある者、また『縁』が発生した者の『縁起』を上記のように変換させる。
・魅了や精神支配とは違い、自然体であり違和感なく関係性「良好な関係を険悪(その逆もあり)」を操作できる。
・能力者が手を下すことなく、対象者の人間関係を『絶望』と『幸福』にすることができる。
【弱点】
・能力効果が持続されるのは24時間以内であり、その度に再び能力を発動し直さなければならない。
・『縁起』を変換された人物は自然体であるものの、能力者の意図とする程度や行動以上の行為や行動を起こすこともある。
(時には加減が抑えられず過剰な行為の末に、その対象者を殺してしまう場合もある)
・変換された人物の中で本来の感情も残っており、時折ちぐはぐな行動を起こす者もいる。
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