第十五章 未来の帰還
第215話 遡及前の世界
その頃、本来のクロック・ロウはというと――
「……くっ、頭痛ぇ。それに
俺は気づいた時には森の中にいた。
周囲は明るく、太陽の位置からまだ昼間だと理解する。
体の損傷や疲労はないようだが、とにかく頭痛が半端ない。
これも《
てか、尻まで痛いのはどういうことだ?
『――そうよ。クロック・ロウ、貴方は人族であって人族じゃなくなったのよ』
不意に聞き覚えの無い少女の声が聞こえた。
肉声であるが、妙な違和感を覚える。
俺は辺りを見回すも、それらしき人影はいない。
『ここよ。貴方の頭上』
そう言われ、俺は素直に空を見上げた。
真上に何かが浮遊している。
それは異形の姿をした少女だ。
体形こそ人族だが、全身の半分以上は竜のような鱗で覆われており、背中には両翼が生えて高々と掲げられている。
臀部には長い尻尾らしきモノがあり、複数に枝分かれして触手のようにうねっていた。
頭部には角が生えており、まるで竜と人族を重ね合わせたような姿をしている。
顔立ちは人族らしく、とても美しい容貌。
ウィルヴァ、あるいはユエルに似ているかもしれない。
長く鮮やかな銀色の髪を靡かせ、兄妹と同様の
「……お前は誰だ!? 噂の
『違うわ。レイルよ。レイル・ウエスト……初めましてというのは変だけど、貴方にとっては初めてになるわね』
「レイルだと? そうか、お前が見えない妹なのか……てか、なんで俺は見えている? 会話までしているぞ」
『言ったでしょ? 貴方は人族じゃなくなったと……「刻の操者」として神格を得た存在、つまり神様よ。ワタシの姿が見えるのは、竜族とそういった存在に限られるってわけ』
「神? 俺が……んなわけあるか。ところで、ここはどこだ? お前が俺に何かしたのか?」
『違うわ。《
「五年後の未来? つまりここは俺が元いた糞未来ってやつか!?」
俺は駆け出し、近くあった池に自分の姿を照らして見る。
元いた世界とは異なる恰好だが、
それに傷だらけの老け込んだ顔、何より自慢の黒髪が白髪交じりで灰色の髪と化している。
俺にとっては黒歴史の姿だ。
「ガチか……ガチで俺は元いた糞未来に戻っているのか!?」
『けど安心して、特殊スキルはそのままよ。それに貴方が強く望めば元いた世界に再び遡及できる筈よ。まずは《
やたらと上から目線で言ってくる竜娘。
顔立ちは16歳くらいだが、今の俺は21歳で年上だ。
いや、それよりもだ。
「何故だ、レイル? どうして、お前がこの時代にいる?」
『ワタシは「銀の鍵」よ。お父様より時間を飛び越える力を授けられているわ……それにウィルヴァお兄様からも指示があり、貴方が《
「お父様? 例の竜神ヴォイド=モナークか……レイル、やはりお前は敵なのか?」
『何を基準に敵視されるのかわからないわ。ワタシはただ「銀の鍵」としての使命に従っているだけよ。でもクロック・ロウ、貴方のことずっと見ていたけど嫌いじゃないわよ』
実行犯でないからなのか?
自責の念が垣間見えたウィルヴァと違い、随分とあっけらかんとしている。
それに邪念がなく無邪気な少女だ。
以前、ユエルは「レイルは無害」と言っていた意味がなんとなくだがわかる。
「……なら俺の邪魔をするなよ。下手な真似したら攻撃するぜ」
俺はビシッと指を差し言い切り歩き始めた。
にしても
『ちょっとクロック、どこへ行くつもり?』
「まずは状況整理だ。ここが糞未来っつーなら、きっと勇者のウィルヴァと仲間だったアリシア達がその辺にいる筈だ。思い出してきたぞ……これからエルダードラゴンを狩に行くところだ。俺はその囮役だった筈だぜ」
『クールね。ワタシの中で貴方はもうちょっと激情タイプだと思っていたけど……神様になったから?』
「ちげーよ。それに俺は神なんじゃない。《
『不思議な人……けど貴方一人じゃお父様に勝てないわ。古神クロノスだって、多くの神を味方に率いて、ようやく「刻の牢獄」に封じ込めたのよ。そしてクロノスも決して無事じゃなかった。戦いの際に負った傷が影響して神格を失い人族として寿命を迎えたのよ』
「その末裔が俺ってか? 知るかよ……ん?」
木々を掻き分け合間を抜けると岩場となっている。
大きな岩陰に身を潜む、女騎士の姿があった。
――アリシアだ。
五年後だけにすっかり大人の女性になっている。
黄金色の絹髪といい、より完璧となったプロポーションで相変わらず綺麗だ。
けど、やたらと目つきが悪い。
まぁいいや。
「おい、アリシア!」
俺が近づき呼び掛けると、アリシアはギョッと藍色の瞳を見開いた。
「なっ、クロウ!? 貴様、何故持ち場を離れている!? エルダードラゴンはどうした!?」
頭ごなしで怒鳴ってきやがった。
そういや未来じゃこんなキャラだったな。
段々、思い出してきたぞ。
「確か俺の囮役はディネが竜の翼を破壊して地上に降りて来てからだろ? それまではフリータイムだ。それよりウィルヴァはどこにいる? 奴と話がある」
「貴様ッ、我が主に向かってなんて暴言を! この無能者がぁ、また臀部を蹴られたいのか!?」
なっ? 臀部だと?
「あっ! さては俺の
「クロウ! 貴様、下僕の分際で、大嫌いとはなんだ!? エルダードラゴンの前に貴様を無礼討ちに処すぞ!」
アリシアは俺の暴言より「大嫌い」と言われたことにブチギレ出した。
だったら、お淑やかにしやがれってんだ。
過去じゃあんなに従順でいい子なのによぉ。
俺はチラリと、頭上に浮かぶ竜娘レイルへと視線を送る。
勿論、レイルの姿はアリシアには見えない。
「やい、レイル! アリシアがこうなったのも、お前のせいだろ!? 確か《
『クロックがこの世界に来た時点で、《
「どういう意味だ?」
『つまり今のクロックは入れ替わっているのよ。過去と未来という並行世界の間をね。今頃、未来のクロックが並行世界となった過去の時代で、てんやわんやしている筈よ』
「なんだって? なるほど……俺が過去の遡及して歴史を変えたことで、その時代が並行世界つまりパラレルワールドとして成り立ち、こうして繋がってしまったということか?」
『そっ。それを可能としたのも《
「なんだと? 何故、ウィルヴァがいないんだ!?」
『理由はワタシと同じ「銀の鍵」だからよ。「銀の鍵」とお父様ヴォイド=モナークは時間の影響を受けない存在なの。唯一無二の存在と言っていいわ。ちなみに異母兄弟である「刻の操者クロノス」はお父様を裏切り自分から破棄したから、最後は人族として寿命を尽きたのよ』
そういえばこいつらは、時間を飛び越えることができる存在だったな。
レイルはウィルヴァに命じられるまま『銀の鍵』の力で、わざわざ俺について来たってわけか。
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