第211話 思わぬ復活と奇襲
「……う、うん。サリィ、勝ったのね?」
カネリアは目を覚ました。
周囲の状況を確認しながら、おぼつかない足取りで向かって来る。
地表には幾つも亀裂が入り陥没していた。
その地中から出て来たと思われるソイルドラゴンは魔竜ジュンターの巨体で下敷きになり絶命しており、さらに勇者サリィが魔竜の背中で佇み勝利の雄叫びを上げている。
ぱっと見は勇者らしくもあるが、どこかカオスな空間であった。
「おっ、カネリア姉さん! 大丈夫ぅ~!」
サリィは魔竜の背中から飛び跳ね地面へと着地する。
だがダメージもあり、足元がふらつきその場で膝をついてしまう。
「ええ、打撲と擦り傷程度よ。サリィの方が重症なのだから無理しないで……今、回復させるわ」
カネリアはサリィに近づくと回復魔法で傷を癒し始める。
「……あんがと、姉さん。おかげでエンシェントドラゴンを斃すことができたよん。リーゼにも感謝だねぇ」
「クロック君達にもよ。彼らが後押しして、この状況を作ってくれたんだからね」
「うん、後輩くんか……初めてかな。百合のあたしが男に興味を持ったのは」
「本当?」
「え? いや……後輩としてだよ。
何故か必死で弁明する勇者サリィ。
おどけた口振りだが、こういう反応を示すのは珍しいとカネリアは思った。
がその時、
ググググ……
不意に異変が起こった。
キルした筈の魔竜ジュンターが動き出したのだ。
「なっ! こいつ、まだ生きてんの!? てか心臓を奪ったのに、どうして生きているわけ!?」
「サリィ、離れて! 今の状態じゃ戦えないわ! リーゼ、どういうこと!?」
カネリアは動揺するサリィを引っ張りながら思念を送る。
『……いえ、カネリアさん。魔竜ジュンターは既に死んでいます。どうやら肉体に施された機工魔法の部分が動いているようです。現場から近くの山頂に遠隔で操作している人族がいますぅ』
「つまり今の魔竜ジュンターは機械仕掛けのアンデットってわけ? ちょい、せっかく斃したのに何余計なことしてんのよぉ! ノーカン扱いになっちゃうじゃないのよぉ!」
サリィは魔竜ジュンターの復活より、『
「そんなこと言っている場合じゃないわ! リーゼ、至急マナルーザ達に連絡して頂戴ッ! 回復が間に合わないわ!」
『もうやってますよぉ! トーコさんで1分、他の皆さんも5分あれば到着します!』
果たして、それまで持ち堪えることができるか。
サリィとカネリアは危惧し身構えた時だ。
魔竜ジュンターは起き上がり両翼を高々と掲げる。
ブワッ
両翼を羽ばたかせたかと思うと飛翔し夜陰へと消えた。
その時に発生した風圧が、サリィとカネリアは吹き飛ばそうと襲うもなんとか耐え凌いだ。
にしても、
「どこへ消えたってのよぉ! あたしの夢のハーレムパラダイスゥゥゥ!!!」
「いえ、サリィ……気に掛けるとこ、そこじゃないでしょ?」
魔竜ジュンターは勇者サリィ達を放置し、どこかへと飛び去って行った。
◇ ◇ ◇
熾烈なる激戦を繰り広げる中。
その戦場を見渡せる小高い山頂に、一人の男は潜んでいた。
白き法衣服を纏う神官風の男だ。
清楚な身形の割に、顔には深々と刃で斬られたような切り傷の後が目立ち、体格も戦士を彷彿させるほど隆々とした体躯。
この男は
「――魔竜ジュンターめ。最強格エンシェントドラゴンの癖にヘタレな奴だ。所詮は人間という旧世界から転生した遺物。竜神様に全てを捧げんとする、我らとは覚悟がことなる輩よ」
ギャランは手に魔道具らしき長方形の鉄板を持っていた。
板には幾何学模様の魔法陣が描かれており、指先でなぞる度に妖しい光が発している。
直後、上空から何かが近づいてくる。
両翼を広げ飛翔してくる、魔竜ジュンターだ。
魔竜はギャランが立つ山頂へと静かに降り立つ。
そのまま首を垂れるように畏まり頭を地面に着けた。
ギャランは口端を吊り上げ、魔竜へと近づいて行く。
「魂などなくても肉体があれば計画は成立する――後はこの私が引き継ぎ、崇高なる使命を全うしようぞ!」
そう豪語し鉄板に描かれた魔法陣をなぞると、魔竜ジュンターの頭頂部に亀裂が入り真っ二つに開かれた。
頭部の中には鉄板で覆われ加工されている。
丁度、人族が乗り込めるスペースとなっており座席まで設置されていた。
ギャランは躊躇することなく座席に腰を下ろし、目の前の機材に抱えていた魔道具をはめ込む。
プシュッと奇怪な音が鳴り裂かれた頭部が閉じられる。
魔竜ジュンターの左眼が赤く発光し、長い首が軽々と持ち上げられた。
再び巨大な両翼を高々と掲げる。
『――さぁ、クロック・ロウ! 貴様の中に宿られし「神力」を見せてみろ! 全ては「
気鋭するギャランの声と共に、操縦モードの魔竜ジュンターは飛び上がった。
◇ ◇ ◇
俺とウィルヴァの決着がついた頃。
アリシア達と隠密部隊との戦いも終わりを迎えようとしていた。
「――《
イザヨイ先生がカッと双眸を見開き、みんなに指示を送る。
普段は線で描いたような細い目つきだが、自称「パッチリお目め」というのはガチのようだ。
しかし、その瞳孔は血に染まったような紅色を宿した異質な光輝を放っていた。
その光を浴びた10名の隠密部隊の各装甲部位から、一箇所だけ赤々と輝く点印が浮かび上がる。
これこそがイザヨイ先生の特殊スキル、《
能力は「相手の弱点を強制的に与える」スキルだとか。
開眼して見据えた敵の部位を強制的に弱点として『標的』を植え付け、そこを攻撃することで100%の確率でクリティカルヒットを与える効果を持つ。
したがって、その部位に触れただけでも致命傷的な大ダメージを負わせることも可能であった。
特殊スキル系統は放射系+効果系という、SRのレアリティを持つ。
おまけに攻撃自体は剣や弓矢など物理攻撃や魔法攻撃で良いため、触れることで発動する効果系スキル攻撃を無効化してしまう《
そしてパーティ全員が、イザヨイ先生の指示に沿って総攻撃を仕掛けた。
ディネが《
メルフィも遠距離から《
肝心のアリシアとセイラは《
その上で動きを止めた信仰騎士達に表示された『標的』に向けて各々の武器を叩き込む戦いを見せている。
またユエルも《
最後にイザヨイ先生が『
こうして強制的に植え付けた弱点を狙うことで、あっという間に信仰騎士達を斃していった。
「……イザヨイ先生、やっぱ凄ぇな。順応して戦うアリシア達も流石だけど――ん?」
そう感心し見入っていると、不意に上空から異様な殺気を感じた。
巨大な何かが物凄い勢いで迫ってくる
「あれはエンシェントドラゴン……魔竜ジュンターだ!」
バ、バカな……奴はサリィ先輩が斃したんじゃないのか!?
『クロウ君、気をつけてぇ! 今の魔竜ジュンターは既に亡骸であり、
リーゼ先生が思念で報告してくる。
有人操縦だと!?
つまり既にサリィ先輩に斃された肉体を乗っ取り内部から操っているのか。
まさかそんな技術まで持っているなんて……。
俺は改めて、
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