第209話 クロウとウィルヴァの戦い《決着》

「――その鎧の弱点は物理攻撃と放射系攻撃だったよな!? サリィ先輩にベラベラ喋ったのが運の尽きだぜぇ!」


「ぐぅ!? まさかここまで――!」


 ウィルヴァは苦悶の表情を浮かべ、《ゴールド・フラッシュ黄金の光》を発動した。

 ここまでボロボロにすりゃ、《特殊能力増幅化装甲スキルブースト・アーマー》の効果も得られないとは思うが、このまま逃げられでもしたら意味がない。


 しかし、それも想定内。

 既に詰んでいるのは俺の方だ。


「逃がすわけねぇだろ――《タイム・シールド》+《短縮スキップ》!!!」


 俺は両手に持つブロードソード片手剣の刃を重ね合わせ、そこから半透明の時計盤が顕現し巨大化させ発射させた。


短縮スキップ》効果を与えたことで、巨大な時計盤は「移動する」時間を飛び越える。

音速で逃げ出そうとするウィルヴァを既に捕捉し、接触し通り抜けた時計盤は消滅した。


 ウィルヴァは時間を奪われ、5分間はその場で停止することになる。

 俺は奴に近づき、低い姿勢で両手に握る剣を構えた。


「ようやく、お前を乗り越える日が来たぜ、オラァ!」


 問答無用に繰り出した無数の斬撃。

 特殊スキル効果で、さらに威力を増強化ブーストさせ繰り出した。

 鬱陶しかった漆黒の鎧を滅多斬りし徹底的に粉砕させていく。

 

 当然ながら肉体も相応のダメージを負わせてやる。

 ただしキルしてしまうと、ユエルが悲しむだろうと思いエッジで斬るのを避けフラーの部分で殴打しまくった。

 

「――タイム・アップ。今から、お前の『時』が動き出すぜ」


 剣撃を止めた瞬間、ウィルヴァは吹き飛ばされていく。

 そのまま地べたに転がり滑っていった。


「ぐわぁ、はがぁ!」


 吐血するウィルヴァに、俺は無表情で近づき喉元に剣先を翳した。

 

「容赦せずガチでボコったからな。鎧は勿論、骨も何本か折れているだろうぜ。その吐血、内臓もいっているか? 下手に動くと命にも影響するぞ……つまりテメェの負けだ、ウィルヴァ・ウエスト!」


「そ、そのようだね、クロウ君……ついにキミに超えられてしまったようだ。ぐふっ!」


「喋るな。今、ユエルを連れてくる……大人しく投降しろ。カストロフ伯爵ならお前を悪いようにしない。『銀の鍵』とやらの使命を捨て一緒に戦ってくれるなら、俺はお前を赦し受け入れる」


 こいつは実行犯だが同時に一番の被害者でもある。

 ただ糞親の指示に抗えなかった哀れな子供、それだけだ。

 それにカーラ達も悲しませることになる。


 俺のことはいい……この時代で十分にやり直せたからな。

 それはある意味、ウィルヴァのおかげでもあるんだ。

 常に俺の好敵手ライバルとして、超えるべき目標として上にいてくれたから……。


「ぐふっ。や、優しいなクロウ君は……だから僕もキミに惹かれたんだね。けど無理だ。僕はクロノスとは違う。父、ヴォイド=モナークの傀儡なんだ……背くことは死を意味する。だから、レイル……決してキミが羨む存在じゃないんだよ」


「レイルだと?」


 何故、今そいつの名が出てくる?

 まさか近くに潜んでいるのか?


 俺は周囲を見渡すも、そう思わしき者はどこにもいない。


 遠くでは未だアリシア達が隠密部隊と戦っているようだが、イザヨイ先生の加勢もあって危なげなく善戦しているように見える。


 それにしても、目に見えない妹レイルか……姉であるユエルの話では無害だと聞いているけど、単独で何か仕掛けられたら厄介でしかないぞ。


 俺がそう懸念していると、



 ギャアァァァオォォォォ――……!!!



 どこからか悲鳴と咆哮が合わさったような声が響き木霊した。

 知的種族のモノではない。

 おそらく竜、しかも巨大で高位の存在。

 

「まさか魔竜ジュンター……サリィ先輩がやったのか?」



◇ ◇ ◇



 少しだけ時間は遡る。


 機工魔法で強化された魔竜ジュンターと再戦となった、勇者パラディンサリィと神聖官クレリックカネリア。


 全てを飲み込まんと巨大な口を開け襲い掛かってくる攻撃に、サリィはカネリアを抱きかかえながら盗賊シーフとしての身のこなしで高々と跳躍して回避する。


「うっひょーっ、やばいねぇ。でもパワーアップしたって豪語していたけど、動き自体は前と変わんないねぇ! もう見切ってるわ~!」


「サリィは戦闘センスだけは天才だからね。っと油断しないで、何か仕掛けてくるわ」


 カネリアの予想は正しかった。

 晒された頭頂部に幾つも生えている刺々しい角が銃弾のように発射されたのだ。

 そのままサリィ達に迫って来る。


「全部、躱すのは面倒ねん――《強奪ロバリー》!」


 サリィはカネリアを抱きかかえたまま、空中で片腕を翳し特殊スキルを発動する。

 相手の何かを強引に奪いまた別の物と交換する能力、それが《強奪者の強制転換ロバリー・コンバージョン》だ。


 サリィは突撃してくる角弾を一つ奪い、自分が所有する武器として変換させた。

 所有する角弾は反転し、迫ってきた他の角に接触し僅かな隙間を作る。

 その隙間をサリィはカネリアを抱えたまま、俊敏かつ器用な動きで通り抜け脱出した。


 またサリィが奪った角弾は旋回し、魔竜ジュンターの右目に深々と突き刺さった。


『グォォォォッ、テ、テメェ! またやりやがったなぁぁぁぁ!!!』


「んなデカイ図体しているから反撃を食らいやすいんだよ~んだ! バァーカ!」


『チクショウォォォ! 負けられねぇぇぇ! 俺は絶対にテメェを殺すゥゥゥ!! ブッ殺してやるゥゥゥ!!!』


 魔竜ジュンターは悶絶しながら、長い首を高々と掲げ喉元を大きく膨らませる。

 炎を吐くつもりなのは明白だ。

 しかも強化されているだけあり、膨大な熱量が込められているのが視認できた。


 地面に着地したサリィは、カネリアを下ろしている。


「もう少しだけ、カネリア姉さんの柔らかな感触と温もりを味わいたかったけど仕方ないわ……姉さん、お願いしやす!」


「わかったわ、けど戦闘中の性癖はご法度よ――《マザー・ブレス慈愛母の息吹》!」


 カネリアは両手を組んで祈りを捧げる。

 彼女の背後から何かが浮かび上がり、瞬く間に美しき女神のような風貌を持つ巨人が顕現された。

 その大きさは魔竜ジュンターと並ぶほど。

 この巨人こそ『守護女神フレイア』に模した姿であり、カナリアの特殊スキルで具現化された虚像である。

 

 カナリアは両手を広げ、パンと叩き合掌した。


「術式――《アトーメント・ブレス贖罪の息吹》!」


 すると女神フレイアの口が開かれる。

 魔竜ジュンターが炎を吐く前に、高出力の破壊エネルギー砲が放射された。


 その威力は凄まじく、強固を誇る竜の鱗をあっという間に溶かしていく。

 機工魔法でコーティングされた《反特殊能力無効領域アンチスキルフィールド》を破壊して無力化させるほどであった。


『ギャアアアアア――ッ! なんてことしやがるゥ、テメェ!!!?』


 絶叫する魔竜を他所に、カナリアは再び両手を広げ二拍手して合掌する。


「術式――《ケイニング・バニシュメント笞罪の刑罰》!」


 女神フレイアは魔竜ジュンターの首を鷲掴み、平手打ちを食らわせた。


『ブホッ! クソがぁ、いい加減に……ぐがぁ!』


 台詞を言い切る間もなく、魔竜ジュンターは圧倒的なパワーにより地面に倒され押さえ込まれた。

 使用制限があるとはいえ、とても一人の人族が成せる特殊スキルの威力ではない。

 まるで神その者を操るかの如き強烈な能力だ。


「私が創り出す親愛なる女神フレイア様は、神聖官クレリックとして信者達の信仰心を媒介し集結され実体化した姿よ! 祈りの力は無限大です! たとえエンシェントドラゴン古竜だろうと遅れを取ることはあり得ません! ましてや浅ましき邪教に身を委ねたモノなどに、清き信者達の祈りが負ける筈がないわ――サリィ、今よ!」


「おっ、おっしゃーっ! ナイス、カナリア姉さん(こ、怖ぇーっ。ぶっちゃけ最強じゃん……もう姉さんが『竜殺しドラゴンスレイヤー』で良くね?)!」


 勇者サリィは顔を引き攣らせつつ、有効となる射程距離まで近づいた。


 魔竜ジュンターは必至で起き上がり抵抗を試みるも、信者達の祈りで構成された女神フレイアの力は絶大で完全に動きを封じられてしまっている。


『クソがぁぁぁ! やらせねぇ! やらせねぇぇぇぞぉぉぉ!』


「もう、諦めなさい! チェックメイトよ――《強奪者の強制転換ロバリー・コンバージョン》!」


 勇者サリィは特殊スキルを放ちながら、「勝った! これで夢のハーレムパラダイスよぉ!」っと、密かにテンションを爆上げした。

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