第205話 再び対峙する好敵手

「クロウ達に指一本たりとも触れさせん――《リインフォースト援軍》!!!」


 女部族戦士アマゾネスフリストは特殊スキルを発動する。

 全身を纏う『魂力』が放出し、瞬時に50体の分身を増殖させた。

 そのまま襲ってくる、エルダードラゴンに向けて果敢に突進して行く。


 各々が攻撃力抜群のハルバード槍斧を掲げ、互いに連携しながら数の暴力でエルダードラゴン達に強烈な斬撃を与えている。

 フリストの特殊スキル《リインフォースト援軍》の分身は本体と堂々の攻撃力を誇り、またロータの《ストーム・ストーム《嵐×嵐》》効果も継続されているため、それ以上の戦闘力だ。

 仮に本体が斃されても分身の1体させ生きていればキルされることはないというチートぶりを誇る。


 またカーラが《ブラスター荒れ狂う者》で援護することで最強格のドラゴン達を完全に足止めしていた。


「……クロウ達、今のうちに行って――《ナイトメア悪夢》!」


 暗殺者アサシンであり悪魔族デーモンのスヴァーヴが特殊スキルを放った。

 周囲に濃霧が発生し、視界いっぱいに広がっていく。


 フリストとカーラの攻撃を掻い潜り、怒涛の如く攻めて来るエルダードラゴン達は即効で眠りに誘われその場で倒れ伏せた。

 そのまま壮絶な悪夢を見せられ精神崩壊に陥らせる能力。それが《ナイトメア悪夢》だ。


 俺達は《ストーム・ストーム嵐×嵐》を体に纏っているため、霧の影響は受けていない。

 視界も10メートル範囲までは見えている。


「――後輩くん! ここから二手に分かれるよぉ! あたしらは魔竜ジュンターを仕留めるから、そっちはウィルヴァのビチ糞野郎を頼むよん! この霧でもリーゼの脳内マップに沿えば問題ないからねぇ!」


 勇者サリィは叫び、自分のパーティ達を引き連れて俺達から離れて行く。

 どうしてもエンシェントドラゴンを仕留め『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号が欲しいようだ。


 てか、ウィルヴァのビチ糞野郎って酷くね?

 まぁいい、俺も最初からそうするつもりだ。


「よし、みんな! 俺達もウィルヴァがいる位置に向かうぞ!」


『――その必要はないよ、クロウ君』


 若干、籠ってこそいるが聞き覚えのある声が聞こえた。


「ウィルヴァ!?」


 俺がその名を叫び振り向いた先に、そいつはいた。

 例の漆黒の鎧を全身に纏った黒騎士の姿だ。


 しかもスヴァーヴが施した、《ナイトメア悪夢》の濃霧が奴のいる一帯だけ掻き消されている。


「……《ゴールド・フラッシュ黄金の閃光》か? 音速の風圧で霧を跳ね除けたというわけだな?」


『その通りさ。《ナイトメア悪夢》は風系に弱いのが弱点だからね』


 漆黒の鉄仮面越しでウィルヴァは説明してくる。

 にしても脳内マップに反応してなかったぞ、こいつ。


 リーゼ先生の《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》を持ってしても、反応できないほどの速度で移動できるというのか……ちくしょう。


「まさかテメェからのこのこ現れるとは……逆に好都合じゃねーか、この野郎」


「ウィルヴァお兄様ッ!」


 俺が身を乗り出そうとした瞬間、ユエルが前に出て兄の名を叫ぶ。


『ユエルか……すまないね、こんな事になって』


「わたし、ポプルス村に行ってきました! そこで全てを知ったわ!」


『ポプルス村? ああ、ということは母ラーニアが過ごしていた、オールドの家に行ってきたんだね? ということは、アレを見つけたということかい?』


「はい、魔導書【空虚竜刻ヴォイド教典】です! その書物に本当の父とお兄様とレイルのことも書かれていたわ! そして、おぞましき『創世記ジェネシス計画』の全貌もです!」


『おぞましきか……やはり、ユエルは普通の子だね。引き込まなくて良かったよ……そして、ユエルを信じて受け入れてくれたクロウ君を始め、パーティの皆さんには感謝しているよ』


「ユエルは至ってまともな子だ! テメェらがイカれているだけじゃねーか!?」


「クロックの言う通りだ、ウィルヴァ! 今からでも投降しろ! そうすれば先生もお前を斬らなくて済む!」


『イザヨイ先生……貴女まで、このような場所に? そうか、エドアール教頭の指示ですね。予め準備してきて正解だったよ』


 ウィルヴァはそう言いながら手にしているバスタードソード両手剣を掲げた。

 すると、奴の後方から似たような漆黒の鎧を装着した10名ほどの騎士達が現れる。


 一切、物音と気配を感じなかった……重装備の癖に、まるで暗殺者アサシンの連中。いったい何者だ?


『彼らは最後の隠密部隊だよ。僕とシェイマを逃がすのに一役買ってくれた人達さ、覚えているだろ?』


「ろくに顔を見せねぇ奴らなんて、いちいち覚えてねーよ。そいつらが身に纏っている鎧もウィルヴァ、お前と同じタイプなのか?」


『その通りだ。全員の鎧には《反特殊能力無効領域アンチスキルフィールド》が外装に施されている。効果系の特殊スキルは全て無効化されると思っていいよ。けど、あくまで試作の量産型だから、《特殊能力増幅化装甲スキルブースト・アーマー》機能まではないけどね』


 どちらにせよ、効果系スキルの俺じゃもろ不利じゃねーか。

 同じタイプのアリシアとセイラも戦い方を考えなければ危ないな……。


 イザヨイ先生はどうだろう?

 この人の特殊スキルはようわからんが、対竜撃科の中で近接戦闘特化型のAクラス教師である以上、相応の能力だと思う。


「もうやめてください、ウィルヴァお兄様! お兄様とて、本当はこんなこと望んでいない筈です! レイルだってそう、本当の父、いえヴォイド=モナークにそう指示されているだけだわ! 抗うことはできないのでしょうか!?」


『無理だよ、ユエル……キミにはわからない。『銀の鍵』として生を受けた時点で、僕は父ヴォイド=モナークのものだ。レイルよりもその影響と束縛は遥かに強い……子はね、親を選べないんだよ』


 ウィルヴァはどこか弱々しく諦めたような口振りだ。

 俺は嘗て、完璧すぎるこいつのことを「神に選ばれたような奴」と思って僻みやっかんでいた。

 だが実際、ガチで「神の子」だ。

 けど笑えねぇ……今のウィルヴァを見ていたら羨ましいとも思えねぇ。


 結局、神に都合よく翻弄される傀儡じゃないかよ。

 確かに子は親を選べない。

 しかし、今のウィルヴァは意に反しようが抗おうとせず、どこか投げ槍で諦めているように見えてしまう。


「ユエル、もういい……下がって、みんなの後方支援に徹してくれ」


「クロウさん?」


「ウィルヴァの目は、この俺が覚まさせてやる! 完膚なきまでボコボコに叩きのめしてやるから覚悟しろ!」


 俺は両腰から二刀のブロードソード片手剣を抜き臨戦態勢をとる。


『やっぱりキミはクロック・ロウだ……決して無能や劣等生なんかじゃない。僕が唯一認めた男、最強かつ好敵手ライバルだ!』


 ウィルヴァもバスタードソード両手剣を翳し身構えた。

 最強の好敵手ライバルか……こいつにそう言われる日がくるとはな。

今のウィルヴァに言われても嬉しくないけどな。


 すると、奴の後方で待機していた隠密部隊も一斉に剣を抜き始める。

 その光景に、俺ではく何故かウィルヴァが「チッ」と舌を鳴らす音が聞こえた。


『キミ達……決して僕とクロウ君の邪魔をするな。すれば僕がキミ達を全員殺すことになる……その代わり、アリシアさん達の足止めを任せよう。特にイザヨイ先生には気をつけるように』


 ウィルヴァの指示に、10名の隠密部隊から「ハッ!」と威勢の良い返答が聞かれる。

 まさかこいつの口から「殺す」っていう言葉が発せらるとは……すっかり変わっちまったな。


「というわけだ、みんな……俺はウィルヴァと戦う。だから隠密部隊の連中を頼む。くれぐれも《反特殊能力無効領域アンチスキルフィールド》に気をつけてくれ、特にアリシアとセイラはな。ヤバくなったら俺を見捨てて撤退してもいい。自分の命を最優先してくれ」


「何を仰います、クロウ様! 貴方を見捨てる選択肢など私にはありません! あの下衆共なんぞ、我が剣の錆にしてくれましょう! どうかご安心を!」


「アリシアばっかりいいカッコさせないよ! アタイだって触れるまでもなく十分に戦えるさ!」


「ボクがいるから大丈夫だよ! だから安心してねぇ、クロウ!」


「私も問題ありません! クロック兄さんに仇名す者は全てこの世から抹消させてみせましょう!」


「クロウさんを信じています! どうかウィルヴァお兄様の暴挙を阻止してください!」


「私の目の前で大切な生徒を誰一人として失わせんよ。だから心置きなく戦え、クロック・ロウ!」


 アリシア、セイラ、ディネ、メルフィ、ユエル、そしてイザヨイ先生が俺の背中を押してくれる。

 みんなの想いが俺に戦う勇気と闘志を与えてくれた。


「わかった! おっしゃーっ、ウィルヴァ!! 行くぞぉぉぉぉ!!!」

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