第204話 勇者部隊の特攻

 上空から地上に降り立つ、淡い光を宿した『巨大な扉』。


 その扉が開かれたと同時に、軍馬に跨る竜守護教団ドレイクウェルフェアの信仰騎士達がミルロード王国に向けて襲撃を仕掛けてきた。

 敵の数は500騎ほど確認されている。


「世界規模のテロ教団とはいえ、よくあそこまで兵を集めたものだ。しかし国攻めにしては数が少なすぎる」


 砦から全騎士と兵を統率する団長のカストロフが予想した通り、敵はそれだけではなかった。

 前回と同様にモンスター達が伏兵として紛れ込んでおり、複数の竜の姿も見られている。

 その数は500体ほど、しかも前回と異なり陸竜ことアースドラゴンと飛竜のスカイドラゴンの姿もあった。


「騎士団長ッ! さらに上空にはワイバーン亜竜に跨る竜騎士もどきが50騎ほど確認されております! しかも地中からソイルドラゴン土竜もいるのではないかと!」


 カストロフの息子、アウネストが報告してくる。

 陸・空・地中からの総攻撃であった。


 さらに、遥か遠くには巨大な竜の姿があると言う。

 おそらくエンシェントドラゴン古竜、魔竜ジュンターである。

 周辺には複数のエルダードラゴン成竜が護衛役として飛び回っているらしい。


「例の扉はどうなっている?」


「ハッ、エンシェントドラゴンらしき姿が確認されたと同時に消滅したとの報告です!」


「なるほど。ということは、敵はあれで全部ということか……」


 それでも一千騎以上の規模だ。

 しかも戦闘力はそれ以上だろう。

 国の侵略どころか、塵も残さず滅ぼすことも可能である。


「他国と異なり、ミルロード王国に関してはちょっかいじゃなく本気なのだろう……ゾディガー陛下が本当に連中と関与しているのなら立派な反逆罪、いや『創世記ジェネシス計画』とやらのため、国を見捨てるお覚悟なのか……」


 カストロフ伯爵は古くから国王に仕え親交が深いだけにどこか寂しそうに呟いている。

 だがすぐ感情を切り替え、鋭い眼光で戦況を見定めた。


「防衛を中心とした徹底抗戦だ! できるだけ時間を稼げ! 敵の本丸を落とせば操られている魔物や竜は無効化される。残る信仰騎士など、我ら鍛え上げられた聖騎士団にとっては烏合の衆だ!」


「わかりました騎士団長ッ!」


 伝令役のアウネストは駆け足でその場を離れた。

 

 カストロフは呼吸を整える。

 双眸を閉じ思念に集中した。


(――リーゼ先生、標的の位置は特定できましたか?)


『もちのロンロンです、カストロフ伯爵ッ! 《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》で特定済みです! 脳内のマップ転送いたします!』


(流石、お早い……して、ウィルヴァ・ウエストは?)


『ええ、確認できてますよぉ! 彼、魔竜ジュンターの傍にいるみたいです!』


 思念チャンネルを合わせたリーゼからイメージ化された地形マップが、カストロフの頭の中に浮かんできた。

 

(距離にして約10キロか……丁度、近辺にマーキングしてある場所が幾つかある。とはいえ案の上、多くのエルダードラゴンに囲まれているぞ。ここにクロウ君達を転送させるのは自殺行為にも思えるが……)


『大丈夫です、伯爵ッ! 私の夫……まだ違った、クロウくんや皆さんは幾つも困難に打ち勝ってきました! サリィちゃんもいるし必ず勝ちます!』


(そうですね。では――《ディメンション・タワー異次元の塔》!)


 カストロフは手刀で空を斬り裂き異次元空間が出現する。

 自分を吸い込ませ、その場から姿を消した。



◇ ◇ ◇



 俺達、勇者パラディン部隊が待機している場所に、カストロフ伯爵が現れた。

 丁度、アリシア達が普段通りに俺の取り合いをしていた時だ。


 不意に現れた父親を前に、アリシアは「父上! こ、これは……クロウ様の正妻をかけた聖戦です!」と包み隠さずぶっちゃけていた。

 カストロフ伯爵は「んなのどうでもいい」と言わんばかりに、無言で首を横に振るって見せる。

 てか、たとえ義理でも娘の暴走を止めてくれよと思った。


「戦いは始まったぞ。皆よ、準備は整っているか?」


「はい! 俺達は万全です、カストロフ伯爵!」


「うむ。では目的地まで転送しよう。念のため岩陰に身を隠せる場所にする。後は各自の検討を祈る――」


 カストロフ伯爵は騎士の礼を行い、自ら作り出した異次元の穴に俺達を誘った。

 5分ほど『塔』の空間通路を歩いて渡り、目的地に到着する。

 敵にとっては瞬時に現れた感覚だろう。


 俺達勇者パラディン部隊が地上に出ると異次元空間は閉じられた。

 カストロフ伯爵は砦に戻って騎士と兵士らの指揮を行わなければならない。

 俺達は手頃な岩壁に身を隠し周囲を見渡した。

 

 ここはまさしく敵の真っ只中だ。


 あちらこちらにエルダードラゴンが飛び交っている。

 さらに離れた位置に、より巨大な竜が佇んでいる姿が薄っすらと目視できた。


 だが人族の気配はない。

 夜目が効く俺でもウィルヴァの姿を捉えられないが、脳内マップではしっかりと表示されている。


「ロータの特殊スキルのおかげで、少なくてもエルダードラゴンには俺達の存在はバレていない筈だ」


 付与魔術師エンチャンターである彼女の《ストーム・ストーム嵐×嵐》は対象者に風を纏わせ、身体強化及びあらゆる効果を大幅に向上させる能力だ。

 それは魔法や魔道具アイテムも有効であり、竜の嗅覚を誤魔化す『匂い袋』も反映されている。


「クロウ、ここは打ち合わせ通りアタシら二軍メンバーで注意を引き付けるよ。勇者さん達も便乗していいからね」


「ありがとう、カーラちゃん。美少女だけにいい子ね……全員、気に入ったわ。貴女達、騎士団辞めてウチに来ない? 一生面倒見てあげるから~ん」


「いや、アタシらそっちの系じゃないから遠慮しておくよ」


 生粋の百合である勇者サリィは見事にフラれてしまった。


「イザヨイ先生は俺達について来てくれるんっすよね?」


「ああ、そのつもりだ。いざという時は、私がウィルヴァを斬ろう……それが元教え子として教師のケジメだと思っている」


 イザヨイ先生は腰元の鞘に納められた刀剣の鯉口を鳴らす。

 戦闘服も極東ならではの「和装」という装備であり、全体に的にふっくらとした感じだが身軽そうだ。

 

 そんなイザヨイ先生はじっと俺の方を見据えてくる。

 すっとした綺麗な顔立ちで細長い双眸だからか、何か睨まれているように感じた。


「先生、何か?」


「いや、私もつくづく見る目のない教師だと思ってな……クロックがここまで勇者パラディンとして適していたとは気づけなかった。今からでもAクラスに来てもらいたいくらいだ」


「え? まぁ……エドアール教頭との約束もあるのでいずれは……はい」


 リアクションに困ってしまう。

 今更こだわりもないから、俺的にはどのクラスでもいいんだけどね。


『ブブブーッ! イザヨイ先生ッ! クロウくんを口説いてはいけませーん! クロウくんは先生の婚約者であり、大切な生徒なのでーす! 残念ッ!』


 リーゼ先生がわざわざ思念で全否定してきた。

 そういや彼女、何故かイザヨイ先生を目の仇にしている節がある。


「リーゼ先生、恋愛と教育を混合させてもらっては困ります。てか不謹慎ですよ」


『だったらクロウくんに色目使わないでくださ~い! そんな細い目でぇぇぇ!』


「私がこうしているのは特殊スキル故だと説明したじゃありませんか? 本来はお目めパッチリです。まったく面倒くさい人だ」


『はぁぁぁぁ!?』


「……よ、よぉし! みんな~行動開始だぁぁぁ!!!」


 変な空気が流れる前に、俺達は岩壁から飛び出した。


 途端、すぐに竜に見つかってしまう。

 匂いは誤魔化せても姿を消しているわけじゃないので、たとえ夜陰だろうと竜の眼はすぐに知的種族を捉えてくる。


 エルダードラゴンは上空から大口を開け、炎を吐き出そうと身構えた。


「させるか――《ブラスター荒れ狂う者》!!!」


 カーラは両手に持つハンドガン魔拳銃を上空に構えトリガーを絞る。

 彼女の特殊スキル《ブラスター荒れ狂う者》強化系であり、一発の銃弾でも大砲並みの威力まで上昇させることができた。

 しかも、ロータの特殊スキル効果もあり本来以上の射程距離と破壊力、そして貫通性を持つ。



 ドオオォォォン! ドオオォォォン! ドオオォォォン……――!!!



 連射される銃弾。


 悉くエルダードラゴン達の肉体と両翼を貫通し、地上へと引きずり落としていく。

 それでも辛うじてだが絶命には至っておらず、俺達の姿を見るや死力を振り絞って襲い掛かろうと突撃してきた。


 知的種族を食い殺せ!

 まさにそう言わんばかりに――。


 相変わらず執念だけは半端ない竜共だ。

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