第202話 聖女の変化とクロウの決意
――魔導書【
まさかそんなモノが存在していたとは……。
自害したランバーグことオールドの狂人具合にもドン引きだが、その魔導書に書かれていた内容は、禁断というよりも明らかに常軌を逸している。
そう思った。
やはりユエルを含む三つ子の父親は、『空虚なる君主』こと『ヴォイド=モナーク』という竜神だ。
そしてウィルヴァと目に見えない妹レイルが『銀の鍵』という存在で、神の子にあたるということ。
唯一ユエルだけは兄妹らの調整として間引かれるため、あえて普通の人族の子として生まれたという酷い話だ。
特に魔導書の筆者であり
教団の連中は、太古の昔に古神『刻の操者クロノス』から奪われた、《
またその《
――つまり、俺のことを示しているということ。
「それでウィルヴァは俺に執着を……『刻の操者』も、そういう意味だったのか?」
正直まだ半信半疑だが、これまでの経過を踏まえれば認めざるを得ない。
しかし、この俺が古神の末裔だったとは知らなかったわ……いや、ガチで。
何せ両親も物心ついた頃に竜に食われちまったからな。
だけど、神霊を鎮める仕事とかしてなかったような気もするぞ?
生まれた村も辺境で、特に神様が眠っている聖地でもなんでもなかったし……実は他に親戚とかシャーマン的な一族がいるのか?
「クロウ様が、あの古神クロノスの末裔だったとは……やはり貴方様は選ばれた存在だったのですね?」
「アタイも師匠から聞いたことあるよ。『神聖戦争』で唯一人族を守った神様だろ? んで今も一部の人族から祀られていると言う……凄いね」
「クロウ、カッコイイ~! てことは、妹であるメルフィもでしょ?」
「え? ええ……まぁ、そうですねディネさん……(ここで義理の妹と打ち明けるべきか悩んでしまいます。下手に話してしまったら、妹ポジとして堂々と兄さんに甘えていい権利を失ってしまう……それも嫌です!)」
「そっか……クロウくんってそうだったんだねぇ。へ~え(どうしょう、将来クロウ君を旦那様じゃなく神様として崇めなきゃいけないのかなぁ? お供えは先生の初めてでいいのかなぁ?)」
隣で聞いていた、アリシア、セイラ、ディネ、メルフィ、リーゼ先生はそれぞれの解釈で受け止めている様子だ。
俺としては、そこは大した重要じゃない。
あくまで人族のクロック・ロウ、そう思っている。
「意外な形でクロック君が挙げられ、我々も素直に驚いている……そして教団の連中は、クロック君に宿るとされる《
つまり信者達全員が各々の世界の神になるということ。
それが奴らの目的であり本懐であるようだ。
「ガチでイカれている……そんな計画に、あのウィルヴァが関わっているなんて」
実際、教団に属する黒騎士として、俺達に前に立ち塞がったってのに未だ信じられない。
「……それが、お兄様とレイルの存在意義、『銀の鍵』の宿命なのです。わたしも宿命に振る舞わされながら、ずっとお兄様に守られていました」
ユエルは両手を組み申し訳なさそうに言ってくる。
まぁ、ランバーグが間引きの子としてユエルを始末しようとしていたって言うらしいからな。
赤子のウィルヴァが必死でユエルを守って、母ラーニアの幼馴染で恋仲だった
したがって、ウィルヴァも宿命とやらに翻弄されても性根までは腐っていない。
今はそう思うようにするか……でなきゃ気持ちの整理もつきやしない。
「イカレ教団の連中が如何に暗躍しようが、クロウ様は私がお守りする! たとえ相手がウィルヴァ殿だろうと私のクロウ様を想う意志は揺るがない!」
「アリシアの言う通りだねぇ、今回ばかりはウィルは間違っているよ! アタイだって大切なクロウを守り切ってみせるさ!」
「ボクだって大好きなクロウを守ってみせるよ! 全員、1000本ずつ矢で射貫いてやるんだからぁ!」
「クロック兄さんのために、誰だろうと不要分子は全て抹消させてみせます!」
「わたしも皆さんと一緒に……いえ、わたしがクロウさんをお守りします! たとえウィヴァお兄様と戦うことになろうと、こればかりは譲れないわ!」
「ユエルさん、次は先生がクロウくんへの想いと気合を入れる番だったんだけど……(ユエルさん、なんかパワーアップしてません?)
女子達の意気込みがなんか凄い。
ユエルも含め、ある意味俺なんかよりウィルヴァと戦う姿勢と覚悟を感じるぞ。
とてもあの糞未来で「ウィル~♡」とか言っていた女子らと同一人物とは思えんのだが。
そういやウィルヴァも俺と同じ、あの未来から遡及してきたんだよな……。
今思えば神の子である『銀の鍵』とやらの能力だってのか?
じゃあ俺のはなんだってんだ?」
「そして教団の『
「だから陛下は信用に至らないってことですね、カストロフ伯爵……あの老体ぶりが、その証でもあるってわけか」
「その通りだ、クロウ君。とはいえ、まだ疑惑の段階であり具体的な証拠は挙がっていない……まぁエドアール教頭が陛下を失脚させるため動きをみせている」
「エドアール教頭が? 王族では末端なのに?」
「建前ではな。伊達に150年も長生きしてないよ……王族を含め実際の影響力はミルロード国外にも及ぶ。これまでは
「なるほど……けどそうなった際、ソフィレナ王女はどうなってしまうんですか? 彼女は何も知らないし関わってないのは明白です」
俺の率直な質問に、カストロフ伯爵は間髪入れず頷く。
「勿論だ、クロウ君。だが陛下が国王から失脚された際、娘である王女も王位を剥奪されてしまうだろう……いざとなれば私の養女として迎い入れるつもりだ。それが自然だろ、クロウ君?」
そう意味ありげに言ってきた。
ソフィレナ王女はカストロフ伯爵の実娘だ。
そうなった際はフェアテール家に引き取る考えなのだろう。
確かに無難といえば無難だ。
「父上、私は一向に構いませんが、自然とはどういう意味ですか?」
「アリシア、フェアテール家も王族と深い関わりがあることは以前から話しているよな? お前が嫁に行った際に全てを話そう。クロック君、それまで娘のことを頼むぞ」
「はい勿論です」
何気に親の承認を得てしまったような気がする。
案の定、アリシアは「クロウ様……嬉しいです」と照れ始め、他の女子達は「むーっ!」と頬を膨らませ不満げな顔をしていた。
その中に以前は関わらなかった筈のユエルも含まれる。
ポプルス村に行ってから心境の変化があったのはわかるけど、ユエルまで便乗したら暴走する女子らのフォロー役がいねーじゃん。
マジか……どうやら、これからは俺一人でみんなの制止をしなきゃいけないようだ。
それはそうと、俺の中に宿っているとされる神力――《
今はまるで実感はないが、ウィルヴァといい教団が躍起になっているところを見るとガチのようだ。
したがって奪われたら世界の終わりを意味する。
だからこそ死守する必要がある……俺がこのガイアティアを、みんなを守る!
話を終え、俺達は《
一時間以上、話していたつもりだが現実時間では1分も経っていないらしい。
やっぱレアリティ
再び教頭室に戻り、待機してくれる各先生とカーラ達、そして勇者サリィ達と合流した。
しかし、なんか雰囲気が思わしくない。
またエドアール教頭とサリィが揉めているかと思ったが何か様子が変だ。
「クロック君、皆さんお帰りなさい。流石、早いね……まぁ掛けたまえ」
「はい、エドアール教頭先生。どうしたんですか?」
「ああ、少し皆に話し合っていたのだよ。王族に仕える
なんだと?
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