第十四章 超越の創世記

第201話 塔での集結と再会

 エンシェントドラゴン古竜の魔竜ジュンターと裏切り者ウィルヴァと戦闘を繰り広げてから約一週間が経過する。


 俺達は、恒例の如く教頭室に呼び出された。

 けど今回は俺のパーティだけじゃなく、二軍として支援役になったカーラ達も一緒だ。


 地下の教頭室に入ると、エドアール教頭やリーゼ先生を含む教師達が立っている。

 この光景も見慣れたが、一つ意外な人物達が用意されたソファに座りくつろいでいた。


「――サリィ先輩? それに皆さんも」


 そう現役勇者パラディンサリィと彼女のパーティ達だ。


「やっほーっ、後輩くんって……美少女、増えてんじゃん!? あたしが傷心中だってのに、そっちはハーレム満喫かい!? 糞野郎―ッ!!!」


 会った早々めちゃ怒られてしまった。

 どうやらカーラ達を見て妙な誤解を抱いてしまったらしい。

 彼女達が美少女なのは確かだが。


 やはり勇者サリィは、魔竜ジュンターを仕留め損ねて不貞腐れ気味だとか。

 あれからリーゼ先生が予想した通り、手癖の悪さから道具屋で万引きを働いた罪でずっと牢屋に投獄され、本日釈放されたばかりだそうだ。

 元盗賊シーフとはいえ、現役勇者パラディンなのにしょーもねぇ。


「先輩、彼女達は騎士団の人達っすよ。俺の護衛と支援で共に行動しているんで、そう言うのはやめてくれよ。それはそうと、どうして先輩達がここに?」


「んなの決まっているじゃない~、エドアール教頭に呼ばれたんにのよん。無理矢理にねぇ!」


「誠に不本意ですが状況が状況だ……勇者パラディンであるサリィさんの協力が必要と判断し招集したのだよ、クロック君」


 エドアール教頭は両肘を机に立てて寄りかかり、不満そうにサリィを凝視している。


「へ~え、不本意ねぇ……あたしだってこんな胸糞悪い所なんかに来たくなかったわよぉ。看守からここに来ることを条件に釈放だって言われたから仕方なくですからねーだ!」


「そもそも栄光ある勇者パラディンが、ちゃっちい窃盗なんて働くからじゃないかね? まったく我がカレッジの汚点、恥知らずもいいところだ」


「はぁ? こんな部屋に閉じこもっている教頭先生に、あたしのルーティンの何がわかるのよ!?」


 互いの話を聞いていたけど、それ以上の険悪ぶりだ。

 てかサリィ先輩、盗みをルーティンにしちゃいけないぞ。


 学年主任のスコット先生を始め、他の先生達は俯いたまま誰も止める気配はない。

 なまじ地位と権限がある二人だ。あと内容のしょーもなさに巻き込まれくない感だろうか。

 とはいえ、このままじゃ話が進まんわ。

 

「ちょい、こんな所でやめてもらえます? てか俺達に話ってなんですか?」


 俺の指摘に、エドアール教頭は「すまないね、クロック君」と頷く。

 対して勇者サリィは「フン、後輩くんに免じて控えてあげるわ」とツンデレぶりを見せていた。


「サリィ君とクロック君らを呼んだのは他でもない。ゾディガー陛下は信用に至らないと判断したからね。王城で話すより、ここで話した方が安全だろう。それまでサリィ君とは休戦する、ついさっきまでそう話していたんだけどね……」


「こうして顔を合わせると、あの忌まわしきスキル・カレッジ時代の記憶が蘇るってワケよん、後輩くん。あたしにとって、ここはトラウマしかないからねぇ」


 トラウマか……つい過敏に反応しちまうワードだ。

 だからサリィ先輩とは何かと馬が合うんだよな。


 にしてもエドアール教頭も、今さらりと気になることを言ってたぞ。


「ゾディガー陛下が信用に至らないとはどういう意味ですか?」


「これまで抱いていた曖昧だった疑惑が、核心に迫ったと言うべきかな」


「核心に迫る?」


 俺の問いに、エドアール教頭は頷き指を鳴らした。

 すると奥側の暗闇から、カストロフ伯爵が現れる。


「私から説明しよう。ついて来たまえ、クロック君のパーティであるアリシア達も知るべきだ。それとリーゼ先生もクロック君を支える立場だと聞いています……一緒に来てほしい」


 カストロフ伯爵からそう促され、俺とパーティ達だけが彼の後へとついて行った。


 普段から、やたらと広々とした教頭室だが今日は特に広く感じてしまう。

 延々と暗闇の中を歩かされ、まるで奥行きが見えない。

 にもかかわらず不思議と自分の体やアリシア達の姿はくっきりと目視することができた。


「クロウ様、ここは父上の特殊スキル《ディメンション・タワー異次元の塔》の中です」


 俺の背後でアリシアが教えてくれる。

 ここが特殊スキルの中だと?

 まるでそれっぽさを感じないのだが……。


「キミ達が斃した竜守護教団ドレイクウェルフェアの使徒だった、ジークの《オブリビオン・アイル忘却の通路》と似たような特殊空間だ。まぁ私のスキルはトラップ型じゃなく対象者を誘い、または移動用だがね……転移能力であるが瞬間移動じゃない。実際はこうして座標値まで自分の足で移動する能力なのだ」


「この空間内では時間の流れがないから、そう思われているだけだと?」


「察しがいいね、クロウ君。そういうことさ――そろそろ『塔』が見えるよ」


 カストロフ伯爵が指を差した先に、円柱状の真っ白な『巨塔』が建っている。

 全体から仄かな光を放ち、頂きが見えない遥か彼方まで伸び続いていた。


 正面側に入り口と思われる扉があり、ゆっくりと自動で開かれる。

 入口の奥から、見慣れた神官服姿の美少女が両手を広げて走ってきた。


 俺はその姿を見て感情が溢れ出してしまう


「――ユエル!」


「クロウさん、皆さん!」


 ユエルは瞳に涙をいっぱい溜めて笑顔で走ってくる。

 このまま勢いで俺に抱き着いてくれるかなって思ったけど、生粋の聖職者である彼女に限って残念ながらそれはなかった。


「ユエルよ、元気そうで何よりだ!」


「ああ、ホッとしたよ。ちょい何泣いてんだい? アタイまで伝染しちまうだろ?」


「えへへへ、ユエルぅ~!」


「これで全員揃いましたね……良かった、本当に」


「先生もホッとしたよぉ。大丈夫だったぁ?」


 女子達全員がユエルとの再会を喜んでいる。

 普段、俺絡みで言い合いばっかしているけど基本はみんな仲が良い。


「はい、ご覧の通りです。カストロフ様も護衛について頂いたので助かりました」


「ユエル、その様子だと何か吹っ切れたって感じかな?」


「はい、クロウさん。貴方と皆さんにこうして会えたことで、さらに決意が強固となりました」


「決意?」


 俺の問いに、ユエルは力強く頷いて見せる。


「――はい。自分の運命と戦う決意です」


 強い意志が込められた異色の瞳で見据えている。

 なんだかユエル、随分と雰囲気が変わったようだ

 少し前は控えめで、パーティでも隅っこの方にいる感じだったのに……。


 けど無事で良かった。

 つい嬉しくて俺も泣きそうになる。


「とりあえず『塔』の中に入って話をしよう。さっきも説明したが中では『時の流れ』が停止された空間となっている。多少長話しても問題はない」


 イコール、それだけ歳を取ってしまうってことじゃね?

 まぁ話だけなら、そう時間を食わないと思うけど。


 再会した感動の余韻を残しつつ、俺達はカストロフ伯爵に進められるまま『塔』の中に入る。

 外装が古ぼけた印象の割に内部は今時風で清潔感があった。

 まるでどこかの貴族館のような造りだ。


 カストロフ伯爵の案内で「客間」と呼ばれる部屋に通される。

 高級そうな調度品が並ぶ、とても特殊スキルで構成されとは思えなかった。


「まさか、カストロフ伯爵のスキルも俺と同じレアリティEXRエクストラですか?」


 俺はふかふかのソファに腰を下ろして周囲を見渡す。


「いやSRだ。EXRエクストラだとスキル鑑定祭器に反応しないからね。痛い思いをしたクロック君ならわかると思うが」


 言われてみればそっか……この人はずっとエリートっぽいからな。

 けど偉そうじゃないし温厚でいいダンディ騎士団長だ。


 ちなみに『塔』の地下には「牢獄」が存在し、カストロフ伯爵が今まで捕えた輩や物質、エネルギー体など封じ込めており、伯爵が許可しない限り永遠に外に出ることはない。

 万一、能力者が死亡したら共に消滅するようだ。

 やべぇ……やっぱりEXRエクストラじゃないのか?


 などと思っていると、ユエルが口火を切った。


「それでは皆さんに、わたし達が訪れたポプルス村の出来事を包み隠さずお話いたしましょう――」


 ユエルの口から彼女達三兄妹が生まれたとされる、ポプルス村で起こった事柄を包み隠さず話してくれる。


 しかし、その余りにも現実離れした内容だ。

 俺を始めとする誰もが驚愕を飛び越え絶句していた。

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