第200話 聖女ユエルの決意
~ユエルside
「よく言った、ユエル君。キミはまさしく聖女だな」
わたしの決意にカストロフ伯爵が褒めたたえてくれる。
つい気持ちが溢れ言葉に出してしまい、わたしは急に恥ずかしくなり口元を押さえた。
「す、すみません……つい」
「いや結構。一時でもキミを疑っていた自分を恥じているよ。娘がいつもキミに嫉妬するだけのことはある」
「アリシアさんが、わたしに?」
カストロフ伯爵は、わたしを真っすぐ見つめ首肯する。
「ああ、ほぼクロック君絡みだ……アリシアにとって彼は全てだからね。その理由も父親である私は知っているが……まぁ
仰る通り、アリシアさんのクロウさんへの想い凄まじいモノです。
いえ彼女だけではありません。
メルフィちゃんも妹とは思えないほど、クロウさんを慕ってますし、ディネさんとセイラも本気なのが伝わっています。
消極的なわたしでは、そんな彼女達を前につい尻込みしてしまいますが……。
けどこれからは――。
「う~ん、あとは際立った内容はないみたいでしゅ。世に出してはいけない激ヤバ系の呪文集や魔法の手引書などが羅列されてましゅ……改めてこの【
シャロ先生はパラパラとページを捲りながら呟いている。
メルフィちゃんの特殊スキル《
なんでも3年前、クロウさんがメルフィちゃんの特殊スキルが万能であることを証明するため、王立図書館に潜入し彼女に模写させ大騒ぎになったとか。
それから役員でもあるシャル先生がメルフィちゃんを監視することになったそうです。
飛び級してスキル・カレッジに進学しただけあり末恐ろしい才能だ。
間もなくして捲っていたページは最後の方に達すると、シャロ先生は「あっ」と声を上げた。
「
◇ ◇ ◇
<
我は
竜神ヴォイド=モナークより創生された竜と人族の間に生まれし異端なる者。
されど偉大なる父の教旨を伝え広める使徒としての役目を持つ。
生誕の過程こそ違えど古竜(エンシェントドラゴン)と同一の存在であり、否より進化を遂げた誇り高き種族である。
しかし
残るは我一人となった。
――我の名はドレイク・クエレブレ。
崇高なる「
その時こそ、浅ましき世界の終焉となるのだ。
著者:ドレイク・クエレブレ
◇ ◇ ◇
「……どうやら、この魔導書を書いたのは教皇ドレイク本人のようでしゅ」
「それで呪術代わりに、あのムカつく特殊スキルの
「まったくだ! こっちは死にかけたんだぞ、クソがァ!」
酷い目にあったニノス先生とジェソンが憤っている。
実際、カストロフ伯爵がいなければ全滅もあり得たでしょう。
「しかし最後の方に記された『崇高なる「
「そうですね、ユエルさん。おそらく奪還した
要するにドレイクにとってわざわざ書く必要がない、担当外の方法だということでしょうか? あるいは書くのに抵抗がある内容かもしれない。
何しろ本当の父、『
シャロ先生の説明にわたしは頷いていると、カストロフ伯爵が「まぁしかしだ」と切り出してきた。
「この魔導書のおかげで、これまで靄がかかっていた部分が一気に晴れたのは確かだ。先生達が協力してくれたおかげで大きな収穫を得られました。ユエル君もありがとう」
「いえ、カストロフ様。わたしも真実に向き合うことができました。こちらこそ感謝です」
「うむ、これから私はエドアール教頭に今回得た情報を伝え今後の対策を練ることにするよ。これまで後手ばかりに回っていた分、今度はこちらが反撃する番だ!」
カストロフ伯爵の意気込みに、わたし達全員が頷き同調した。
あれだけ禍々しく戦々恐々の実態がありながら臆することなく果敢に立ち向かおうとしている。
騎士団長でありながら、この方も
こうして【
二度と誰の目にも触れさせてはいけない書物でしょう。
それから待機していた騎士団と合流する。
ここまで付き合ってくれた
「ジェソン、わかっていると思うが今回のことはオフレコで頼む。ミルロード王国、いや世界中を震撼させる内容だけに、迂闊に広めるべき事柄じゃない」
「わかってますよ、カストロフ様。それよりヘマしてご迷惑をお掛けしてすみませんでした。それとユエルさん……どうか、お元気で」
「はい、ジェソンさんも……わたしを救って頂きありがとうございました」
わたしが微笑むと、ジェソンさんは照れ臭そうに笑い手を振って離れて行く。
SSS級の冒険者だけに風のように颯爽と姿を消した。
ジェソンさんの中で所々、わたしと母のラーニアを同一視していたように思えます。
嘗て母と幼馴染であり恋仲だった男性……その想いは今も続いていると、彼に庇って頂いた際に悟りました。
ジェソンもまた運命を狂わされた犠牲者の一人……。
「……もうこれ以上、犠牲者を出さないためにも、わたしがウィルヴァお兄様達を止めるしかありません。本当の父、『|空虚なる君主:ヴォイド=モナーク』の野望は必ず阻止してみせます!」
わたしは再び誓いを立てる。
普通の子として生まれたとはいえ、わたしも身内の一人に変わりありません。
したがって身内の不始末は肉親のわたしが背負う必要があります。
無論、相手は竜神と神の子とされる『銀の鍵』。
わたしでは到底歯が立つ相手ではない。
正直、考えるだけで全身が震えてくる……。
ですが、クロウさんにパーティの皆さん。
あの方達と共であれば何も怖くない。
わたしも挫けず最後まで戦える。そう思えるのです。
ならば――。
「カストロフ様、魔導書の件……わたしから、クロウさんとパーティの皆さんにお話ししてもよろしいでしょうか?」
「本来なら駄目だと言いたいが、特にクロック君は関与している可能性が高い。教えておいた方が彼も用心し身構えられるだろう……だがアリシア達はどうだろうな? 我々はシャロ先生を介したからこそ正気を保てたが、通常なら魅入られるか下手したら発狂することだってあったかもしれん」
「ユエルさん、伯爵の言う事にも一理あるでしゅ。現にSSS級冒険者のジェソンさんも魔導書を解読している間、無口だったじゃないでしゅか? あれでも先生が禁句ワードを避けて概括した上で朗読していたからこそ、あれで済んだのでしゅよ」
シャロ先生もパーティに話すのは止めた方がいいと忠告してくる。
けど、わたしは首を横に振るう。
「大丈夫です。アリシアさん、セイラ、デュネさん、メルフィちゃんも、わたしより気持ちの強い子ばかりです。必ずクロウさんを中心に纏まって、より結束が深まることでしょう」
これまでも多くの困難を乗り越えてきた仲間達です。
ウィルヴァお兄様、そして本当の父に立ち向かうには皆さんの力が必須の筈です。
わたしの強い思いに、カストロフ様は頷いて見せる。
「わかった、認めよう。ただしクロック君達は今、
カストロフ様にそう言われ、わたしは数日間ほどポプルス村に滞在することになった。
それまで村人達の病気や怪我を治療することに専念する。
しかし村人の老人達から、わたしは最後まで母ラーニアだと勘違いしていた。
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