第199話 狂気なる創世記計画
~ユエルside
人族の善神にて、刻の操者クロノス。
クロック・ロウさんが、その末裔にあたるかもしれないと言う。
太古の昔に起こった『神聖戦争』の代償で神は不滅の存在ではなくなり、それはクロノスも同様であったとか。
自らが朽ち果てる前に、自分の役目を引き継がせるため知的種族と交わり子孫を残したとされている。
「――であれば、現在も多くの神霊が『虚無』の存在となっているということでしゅ! それって女神フレイアを信仰するミルロード王国や他の宗教国家における信仰バランスにも影響している筈でしゅ!」
「そう結論づくのは早いんじゃないっすか~、シャロ先生ぃ? 古神の子孫なら、どっかのシャーマン部族みたいに引き継がれ組織化されているかもしれないっす」
「ニノス先生の言う通りです……しかしウィルヴァといい、ゾディガー王といい、クロック君に異様なほど執着しているのが気になる。クロック君は特別な存在と言わんばかりに……おそらく、この魔導書にそれらの真実が記されている筈。シャロ先生、続きをお願いします」
「はいでしゅ、カストロフ伯爵――」
シャロ先生の解読を再開した。
尚先生曰く、これまでの解説的だった内容とは異なり、著者の感情がより大きく反映されているようだ。
◇ ◇ ◇
<
太古の昔、邪神達の筆頭としてガイアティアを掌握し王座に築こうとした、我が主ヴォイド=モナーク。
あの
されど我が主ヴォイド=モナークは窮極なり。
深淵たる「刻の牢獄」に封じられようと偉大なる力はガイアティアの地を侵食し、導かれし教徒より「竜神」として崇められ復活の時を虎視眈々と待ちわびている。
主ヴォイド=モナークは我らに告げる。
「――忌まわしき刻の操者から我が神力を奪い返し、ガイアティアの地からあらゆる生き物達を一掃し始原に帰すのだ」
そのための「
それこそが崇高なる我が主ヴォイド=モナークの悲願。
我ら忠実なる下僕、「
◇ ◇ ◇
「――この文言を解読する限り、『
「私と司法取引したカーラ達も『
「そもそも、『
「不本意でしゅが、ニノス先生の憶測通りでしゅ。『
「以前、わたし達がサーミガ村で遭遇した『ダガン』といい、
わたし達が並べる考察と憶測に、シャロ先生は「う~ん」と頷きながら魔導書のページを捲っている。
とある箇所で指を止め、「あっ」と声を発した。
「『
シャロ先生はその内容を読み上げる。
◇ ◇ ◇
<
崇高なる竜神ヴォイド=モナークに宿る神力であり、特殊スキルと分類される絶対なる能力。
それは「存在しない時間」を創造する超越せし力――。
天地創造の理を無視し不条理すら凌駕し、己が願望する並行世界を創世する。
また崇拝する者が望み欲する並行世界を
対して反旗する愚行なる者には絶望なる裁きが下されるだろう。
竜神ヴォイド=モナークの夢想なる並行世界に囚われ、厄災と絶望の運命を辿り、絶命あるいは死すら許されない無限ループに処されるのだ。
それ、まさしく悪夢という無窮牢獄である。
◇ ◇ ◇
つまり
しかも教徒達には
なんて途方もない力なのでしょう。
その場にいる誰もが口を噤み身震いしながら聞き入っていた。
シャロ先生は幾つかページを捲り、続きとなり得る内容を読み上げる。
◇ ◇ ◇
<
竜神ヴォイド=モナークを「刻の牢獄」へと追放し、偉大なる
クロノスは己の肉体が滅ぶ前に知的種族と交わり、その末裔に一子相伝として己の特殊スキル《
そうすることで各地に眠る神霊を鎮める神事を引き継がせ、また我が主ヴォイド=モナークから奪った
ああ、どこまでも忌まわしい刻の操者よ……。
我が主は命じる。
「継承されし『刻の操者』から我が神力を奪還せよ! さすれば全ての崇拝者に至高なる恩賞を与えよう!」
そう、これこそが「
我ら
刻の操者より《
さすれば我ら崇拝する教徒は、竜神ヴォイド=モナークの一部となり不完全な個体から全なる神体の一部として在るべき姿へと進化を果すであろう。
古神を信仰する邪教徒と愚かなる知的種族達に裁きを下し、ガイアティアのあらゆる生物を根絶する。
こうして親愛なる竜神ヴォイド=モナークが意とする黙示録に則り始原へと還すのだ。
召命が完遂した暁には、我ら
◇ ◇ ◇
「……イカれている。これが
沈黙後、カストロフ伯爵が呟く。
わたし達の想像を遥かに超える内容に悲槍感が漂い、正気の沙汰とは思えずしばらく何も考えられずにいた。
「要するに『刻の操者クロノス』に奪われた、竜神こと『
「『銀の鍵』がウィルヴァってならよぉ……古神クロノスの末裔って、やっぱクロック君なのか~? だったら今までの『次期
「おそらくそうでしょう。クロウさんに宿る《
魔導書を解読していく中で、シャロ先生とニノス先生、そしてわたしが各々の考察に基づく結論を見出していく。
同時にウィルヴァお兄様とレイルが、このような恐ろしい計画に加担していることに、わたしは悲槍感に駆られています。
今思えば『銀の鍵』である二人は、『普通』であるわたしを巻き込ませないよう、ずっと距離を置いていたのでしょう。
しかし、あのお兄様が傀儡となるほど屈服してしまうとは……。
それほどまで本当の父、『
禍々しく恐ろしい……今も尚『刻の牢獄』に封じられているとはいえ、わたしは本当の父に戦慄しています。
本来なら自分の生まれを呪い発狂してもなんら可笑しくありません。
けど、わたしの脳裏にとある男性の顔が浮かぶ。
いつもわたしを勇気づけ信頼してくれる大切な彼――。
彼が傍にいてくれるから、わたしは正気を保て自分と向き合うことができる。
この気持ち……いつからでしょうか。
ずっと前から、わたしは彼のことを心から……。
ぐっと力強く拳が握られる。
「それでもです! わたしは戦います! この世界の人々のため、親愛なるクロウさんと共に――!」
わたしは自分の運命と向き合い戦うことを決意した。
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