第198話 古神クロノスの系譜
~ユエルside
突然わたしは、シャロ先生から「女子なのか?」と問われてしまう。
「……そのつもりですが」
「別に先生は揶揄っているわけではないでしゅよ。生物学上の女子なのでしゅか?」
「そうです」
「本当でしゅか? この場で先生が確認してもよろしいでしゅか?」
「嫌です。なんでしたらアリシアさん達に聞いてください」
やたらと食いついてくるシャロ先生に、わたしは断固として拒否する。
いくら担任の教師で女性同士でも、他の殿方がいる前で確かめられる筋合いはありません。
「ちょいシャロ先生~、いくら自分の生徒でも下ネタはマズイっしょ? そもそも教師がやることじゃないっすよぉ? そういうのセクハラっつーんす。ねぇ、カストロフ伯爵?」
「……私に問われてもですね。しかし、ユエル君は立派な聖職者でもありますので、シャロ先生も意図があるにせよ、言動には配慮するべきでしょう」
「いくら命の恩人とはいえ、ラーニアの娘さんに妙なこと訊くのやめてもらっていいですか?」
ニノス先生を始めとする、カストロフ伯爵とジェソンも否定的だ。
その殿方達の反応に、シャロ先生は柔らかそうな頬をぷく~っと膨らませる。
「違いましゅ! 神の子といえば『両性具有』の可能性が高いから訊いているのでしゅ! 特にウィルヴァ・ウェストは見た目からして怪しかったじゃないでしゅか!?」
「……ウィルヴァお兄様が? そういえば滅多に肌を見せるような方ではありませんでしたが……まさか」
よく思い返してみれば、幼い頃から入浴は必ずお一人でした。
レイルは姿が見えないので何とも言えませんが、会話からして女の子なのは間違いないでしょう。
「仮にウィルヴァがそうだとして、赤子のうちから普通に喋っていた時点から奇怪な子としか言えんな。一方のユエル君は生まれこそ同じでも、それ以外は特に何の変哲もない普通の子だと私は思う」
「はい、カストロフ伯爵……わたしも『銀の鍵』とやらのために間引かれた余り者のような存在だと自覚しています」
「そんなことはないよ、ユエルさん。キミはラーニアに似た素敵な子だ。それだけ不遇な環境で生まれたのに、よく真っすぐ現実と向き合える強い子に育ってくれたと感心すら覚える」
「ありがとうございます、ジェソンさん。わたしがこうして毅然としていられるのも守ってくれたウィルヴァお兄様……そして、クロウさんと仲間達のおかげです」
特にクロウさん……あの方には感謝しきれません。
ずっと、わたしの潔白を信じてくれた。
おかげでどんなに勇気づけられたことか。
だからこそ気づくことができた……わたしの気持ち。
わたしは……クロウさんのこと以前から……ずっと、
「――それじゃ続きを読みましゅ!」
「おいおいシャロ先生~、丸投げかよぉ? まさか両性具有のくだりって
しれっとするシャロ先生に、ニノス先生がひたすら抗議している。
わたしは「はぁ」と溜息をつき解読された内容に耳を傾けることにした。
◇ ◇ ◇
<ガイアティアの世界>
嘗て滅んだ旧世界「地球」を基礎に創生された惑星。
ガイアティアの神々は地球に存在した旧種族の末裔であり進化した至高の存在である。
地球での過ちと愚行を繰り返さぬよう「窮極の闇」からヴォイド=モナークが誕生し、世界の調和を保つため「竜」を創生させた。
竜の役目は世界の均衡を守り、時に増えすぎた知的種族を間引くための執行役として置かれたガイアティアの必要悪であり
それら竜を統べるヴォイド=モナークは時空を超える究極の存在であるため、過去の現存する地球を並行世界として繋げ干渉することが可能である。
ヴォイド=モナークによって並行世界の地球から念の強き「人間」の魂を獲得し、古竜エンシェントドラゴンとして転生させ、福音をもたらす使徒として権威を委ねられた。
◇ ◇ ◇
「人間ってなんすか?」
「旧種族であり、あたち達と同じ知的種族でしゅ。書物によると『地球』の記憶と知識をあえて残したままエンシェントドラゴンとして転生させ、手駒として利用していたようでしゅ。それらの技術や方法も、この魔導書に記されておりましゅ……当然ながら個人が実行できる内容では決してありましぇん」
ニノス先生の疑問に、シャロ先生が補足を加えた上で詳しく教えてくれる。
わたしも、これまでの記された内容から少しばかり思うところがあります。
「信じられませんが、『
――《
あくまで個人の時間を奪い操作する特殊スキル。
まさかと思いますが……。
続いてシャロ先生が解読した内容はこうだ。
◇ ◇ ◇
<神々の歴史>
ガイアティアには様々な神が存在する。
善なる神(以下、古神)から邪悪なる神(以下、邪神)。またどちらも属さない中立神だ。
神の世界にも派閥や神格のヒエラルキーがあり、それらにより古神と邪神の間で引き起こされた「神聖戦争」はガイアティアの大地を容赦なく破壊し、神々の肉体を消滅させるまで激化する。
争いは幾万年と続き、最終的には一人の古神のみを残し、全ての神々は肉体を失い精神体(以下、神霊)として大地で安らかに鎮められ。
最後に残った古神は神霊と化した神々の力を借りて、荒れ果てたガイアティアの復興を目指すことになる。
以前より分身として創生していた「知的種族」達にも、その大任を委ね共闘した。
また神霊と化した神々は直接ガイアティアの世界に関与できない。
主に知的種族の神職者を通じ、お告げとして自らの意志を伝えて神力を貸し与えた。
一方で邪神側では知的種族と敵対させる魔物を創生しながら、波長の合った知的種族達を魅了して生贄儀式で受肉を得て復活しようと目論む。
しかしそれらの野望は必ずと言ってよいほど、他の知的種族達により阻まれ逆に討滅された。
こうした脈々と続く歴史の中で、知的種族達に味方をする神もいれば、敵となり支配し滅ぼさんとする神もいる。それは竜とて同様の立ち位置である。
大局的に見れば、そこに善悪はない。
ガイアティアを循環させ調和させるシステム措置として割り切ることができたからだ。
しかし大きな問題があった。
神霊となった多くの神々は次第に自我を保つことができなくなり、神力のみが大地に残し根づいてしまう『虚無』の存在となってしまった。
それらの現象を予防し鎮めることができるのは、唯一の生き残りであり「刻の操者クロノス」と呼ばれる古神のみである。
◇ ◇ ◇
「――『刻の操者』!?」
「ユエル君、どうしたのかね?」
カストロフ伯爵の問いに、声を張り上げてしまったわたしは恐々と頷いた。
「いえ、すみません……よくクロウさんが口にしていた言葉だったので、つい」
「クロック君が? ふむ、今はまだ考察する段階ではないだろう。シャロ先生、続きをお願いします」
「はいでしゅ」
◇ ◇ ◇
<古神クロノス>
忌まわしき刻の操者クロノス。
元はヴォイド=モナークの一部にて、全ての寵愛を受けし栄光ある神の子。
だが父ヴォイド=モナークに反旗を翻し、古神側として刃を向けし裏切り者である。
神々の中で唯一生き残ったクロノスは人族の善神となり「刻の操者」と称えられ、古神と邪神を問わず全ての神霊達を安らげるため、己が子孫を残したとされる。
◇ ◇ ◇
「――どうやら『刻の操者』の末裔は神霊を保護するための
「シャロ先生、その末裔がクロック君だと言うのですか? 確か彼は孤児院で育てられたと聞いたことがあるが、同じパーティであるユエル君は何か知っているかい?」
「はい、竜に両親を奪われたとか……ということは、メルフィちゃんも?」
「実の兄妹であればそうなるだろう。実の兄妹であればな」
何故か「実の兄妹」を連呼する、カストロフ伯爵。
クロウさんとメルフィちゃん。
同じ綺麗な黒髪ですし、とても仲の良い兄妹だと思います。
ですがメルフィちゃんのクロウさんに接する態度は、わたしでも嫉妬してしまうほどの溺愛ぶりだ。
はっきり言えば行き過ぎと思わざるを得ません。
まさかメルフィちゃん……クロウさんを異性として意識しているのではないでしょうか?
そう思えば、伯爵も娘であるアリシアさんのこともあり、ロウ兄妹について調べて何か思う部分があるのかもしれません。
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