第195話 封印された呪術屋敷
~ユエルside
「ありがとう、お兄さん……いえジェソンさん。母が心から愛した人だけはある」
ジェソンの決意に、ウィルヴァお兄様は感謝し敬意の言葉を述べる。
それはお兄様が母の胎内にいた頃、彼女の記憶から得た情報だったようです。
「心から愛した……ラーニアが俺を? だったらどうして他の男なんかと!」
「母は生娘ですよ。僕達『銀の鍵』を生むための母体として利用されたのです」
「利用されただと? あの気狂いの親父か!?」
「それもある。けど祖父よりも根が深く大きな存在……ですが貴方は知らない方がいい。知れば、きっと命を失うことになる」
「……オールドは王族の次に力があると言ってたよな? おい、まさか黒幕はゾディガー王か!?」
「確かにゾディガー王も一枚噛んでいます。ですが彼は祖父ほど狂人ではない……ある意味、純粋無垢な可哀想な人族です。それよりも、早く僕達を連れ出してください! もうじき祖父が戻って来ます!」
ウィルヴァお兄様に急かされ、ジェソンはわたしとお兄様を抱きかかえ屋敷を出た。
入れ替わる形で祖父のオールドが戻ってきたが時既に遅く、ジェソンは得意の
それからジェソンは盗賊ギルドの伝手を頼りに、とある隣国の孤児院にわたしとお兄様を預けた。
当時のウィルヴァお兄様の指示で、ミルロード王国から離れていない国にしてほしいと要望もあったそうだ。
なんでも、もう一人の妹(レイル)も成長した後で駆けつけて来るからだと話していたらしい。
「それから4年後、ランバーグことオールドは孤児院で暮らす二人を見つけ引き取ったのか……確かミルロード王国内だと聞いていたが、奴得意の情報操作があったようだ」
「カストロフ伯爵ぅ、どうしてそこまで情報を操作する必要があるのでしゅ?」
一見、わたしより幼く見えますが実年齢は40歳を超えている教師です。
「ええ、おそらく国内の方が偶然を装えるからか……あるいは、ウィルヴァに呼び出されたのかのどちらかでしょう」
「わずか4歳であのランバーグの親父と対等、いや押さえつける力があったとでも言うんっすか?」
「はい、ニノス先生。でなければ、ユエル君を守れませんからね。この度の裏切り騒動で、彼の隠された不気味な負の面ばかりが目立っていますが、ジェソンの話を聞く限り妹であるユエル君を思う気持ちだけは本物のようです」
カストロフ伯爵の憶測に、自然とわたしも同調し頷いていた。
「わたし、ずっとウィルヴァお兄様に守られていたんですね……」
心から感謝しながらも、何とも言えない寂寥感を覚えてしまう。
それほど優しく聡明なお兄様が、どうしてわたしとクロウさんを裏切るような真似をしたのでしょう?
それが本当の父の、『銀の鍵』としての使命だと言うのでしょうか?
わからない……。
真実が明らかになればなるほど、ウィルヴァお兄様が何をされようとしているのかわからなくなってしまう。
「以上で俺の話は終わりです」
「ありがとうジェソン。まだ信じられない部分も多いが、キミの証言でかなりウィルヴァとランバーグに近づけたと思う。そして、やはりゾディガー陛下も何かしらの形で関与していることが判明した。後は――」
カストロフ伯爵は後ろを振り向く。
そこには嘗て母と祖父、そしてわたし達が暮らしていた屋敷が禍々しいオーラを纏い築かれている。
「この屋敷に何かが隠されているかもしれない……そういうことですね?」
「そうだ、ユエル君。ランバーグが自害した館には一切の証拠がなかった。あの状況でウィルヴァが持ち出したとは考えにくい。姿が見えないレイルも、この世界に干渉できないのであれば可能性は低いだろう」
「確かにこの屋敷がランバーの親父の隠れ蓑であれば、何かしらの手掛かりか痕跡はあるっすね~。全体に張り巡らせた結界がその証拠って感じっす」
「元々闇魔法や呪術に長けていた人だと聞いてましゅ。であれば
ニノス先生とシャロ先生も各々の見解を述べている。
カストロフ伯爵は頷き、ジェソンの方に視線を向けた。
「とりあえず私達は屋敷に入ることにするが、ジェソン。キミはどうする? 謝礼金は後でギルドの方に振り込んでおくが?」
「カストロフ様、俺も最後までついて行きます! いざって時はラーニアの忘れ形見であるユエルさんを守りたい!」
「……わかった同行を認めよう。ではニノス先生、開錠の方をお願いします」
カストロフ伯爵の指示で、ニノス先生は「あいよ~」と返事する。
見事な手際であっさりと魔法が施された錠前を解除した。
重々しい扉を開け、わたし達は屋敷の中へと入って行く。
伯爵の指示で護衛の騎士達はその場で待機させた。
全ての窓が板で閉ざされ、ほぼ日差しが入らないこともあり薄暗い室内だ。
シャロ先生は手にしていた魔杖を翳し呪文語を唱えると、パッと屋敷内が明るくなる。
一見して玄関から廊下に掛けて怪しい部分はないようだが。
「気をつけてくださいでしゅ。あちこちに
シャロ先生が大きな瞳を動かし教えてきた。
なんでも家具など下手に触れてしまうと、呪術系の魔法が発動されてしまうらしい。
義父、いえ祖父の仕業でしょう。
「嘗て俺が屋敷に潜入し、ユエルさん達を連れ出したからでしょう。ここは俺に任せてください――」
ジェソンは言うと、その場でしゃがみ込み床に手を振れた。
ほんの一瞬だけ彼の体から光輝が発せられ、腕を伝って床一面に浸透する。
「よし! これで20分間は魔法や物理
「ジェソンさん、今のは?」
「ああ、ユエルさん。俺の特殊スキルだよ。触れた一帯のあらゆる
なるほど、それは凄い……。
おそらくSRのレアリティでしょうか。
流石はSSS級の冒険者ですね。
「けど弱点もある。スキル効果の上書きはできないんだ……そこだけは気をつた方がいい」
ジェソンの説明に、カストロフ伯爵が首肯する。
「なるほど……ニノス先生、念のために聞きますがランバーグの特殊スキルはわかりますか?」
「ええ知っているっす――《スキル・コピー《特殊能力複写》》。まんま相手の特殊スキルを一つだけコピーし自分のスキルとして使用できる能力っす」
あのランバーグにそのような特殊スキルを宿していたとは、一緒に暮らしていたわたしも知りませんでした。
義父の顔を知る元部下であったニノス先生ならではでしょうか。
そこまで知っていて『隠密部隊』を退役できたものです。
「一つのコピーということは一度しか使えない特殊スキルですか?」
「いえ、コピーしてストックできるのは一つだけって意味っす。新たに誰かの特殊スキルをコピーした際、それ以前のスキルを破棄しなきゃ無理っす。あとコピーする条件もシビアで容易じゃないと聞いてるっす」
「ということは、ランバーグが特殊スキルで
カストロフ伯爵の賢明な指示に、わたし達は頷き探索が始まった。
とはいえ改築を繰り返していただけあり、やたらと部屋数が多い。
20分間で全て回ることは難しそうだ。
「オレに任せてくれっす。ランバーグの親父の心理パターンは把握しているっす。どこに貴重品を隠しているか大体わかるっす」
「ニノス先生、義父の特殊スキルといい……よく、ゾディガー王の後ろ盾があったとはいえ、よく『隠密部隊』を抜けることができましたね?」
「まぁな、ユエルっち。ランバーグの親父が生きていた頃じゃ、こうした話は
つまり今はランバーグが死んだので、その魔法が無効化されたということですね。
それからニノス先生の案内で、わたし達は居間に向かった。
無効化時間にも十分に余裕がある。
「これは――」
居間に入った途端、真っ先に目に入った物。
部屋の中心にベビー・ベットが三つ並んでいた。
ジェソンの証言通り、そこは嘗てわたし達兄妹が寝ていた場所だ。
覚えていない筈なのに妙な懐かしさを感じてしまう。
「そうだ、思い出したぞ!」
突如ジェソンは駆け出し、真ん中に設置されたベッドの布団を剥ぎ取る。
そこに一冊の分厚い本が隠されていた。
表紙にはこう書かれている。
魔導書:
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