第189話 思わぬ再会と危険な警告

 仮にそうだとしたもだ――。


「矛盾していませんかね? だとしたら、ゾディガー陛下は何がしたいのでしょうか?」


 俺は隣に立つ、アリシアの端整な横顔をチラ見する。


 ゾディガー王が黒幕だとしたら、部下のランバーグにわざわざ自分の娘を拉致させたことになるからだ。

 その後だって妻のブリッタ王妃が憔悴しただかで色々大変だったと聞いている。

 仮にカストロフ伯爵を罠にハメるとして、わざわざ自分の家庭を崩壊寸前まで追い込むような真似をする理由がわからない。


 けど、もしかして……ゾディガー王も誰かに操られているとか?

 あの老人化もそれが原因で――。


「クロック君の言う通りだ。一つ仮設を立てれば何かしらの矛盾が生じてしまう。まるで貴重なパズルのピースを誰かが見えなくしてしまったように――だか私が思うに、きっと我々の常識や倫理観とは逸脱した何かがあるのかもしれない。それら全てを覆す巨大な存在、あるいは神憑り的な何かだろうか」


「神ですか……」


 エドアール教頭の言葉に、俺は竜守護教団ドレイクウェルフェアが祀る『竜神様』というワードが頭に浮かんだ。

 それと、ドレイクという竜人リュウビトの教皇。


 ウィルヴァが俺達を裏切って闇堕ちしたことと何か関係しているのだろうか?


「どの道、今はまだ疑惑の段階……同じ王族とはいえ末端の私では、確たる証拠がない限り、現役の国王を告発することはできない。その為に各先生達やカストロフ伯爵に動いてもらっているのだよ……」


「そうですか。俺達はどうしたらいいんでしょうか?」


「まだ疑惑の段階で、クロック君達に話したのは他でもない。ゾディガー王はどういうわけか、キミのことをえらく気に入っているからね……彼と親密になるのは控えた方がいいという注意喚起が目的さ。パーティの皆もね。特にアリシアさん、キミは母方の親戚だけあり、より注意した方がいいだろう」


「はい。教頭殿、わかっております」


 アリシアは毅然とした返答をしている。

 本当は実の父親に対してだけど、得体の知れない国王なのも確かだ。

 エドアール教頭の憶測が正しければ何かしら仕掛けてくる可能性もある。


 実は俺よりもアリシアの方が警戒するべきかもしれない。

 もしかして、そのために教頭はパーティごと呼び出したのだろうか?


 などと考えていると、奥側の暗闇が一瞬だけ青白く発光した。

 と同時に、金属が擦れ合う音を響かせながらその人物は近づいてくる。


「――カストロフ伯爵?」


「やぁ、クロック君。この度の大変だったね。アリシアも元気そうで何よりだ」


 カストロフ伯爵は薄い微笑を浮かべた。

 彼の特殊スキル、《ディメンション・タワー異次元の塔》は一度マーキングした箇所を自由に行き来するという、神出鬼没の騎士団長だ。


「ええ、父上……ユエルは一緒なのでしょうか?」


 アリシアの問いに、カストロフ伯爵は首を横に振るう。


「いや、ユエル君は『ポプルス村』で滞在している。神官としての使命を担いながら、自分の過去と向き合ってくれているよ」


 そうなのか、ユエル……何か進展があればいいな。

 いや真実が明らかになったところで、果たしてそれが彼女にとって良いものとは限らない。

 何せ、最も尊敬し敬愛していた実の兄でさえああだからな。

 敵側の黒騎士として俺達に立ち塞いできたと知ったら、どれだけショックを受けることか……。


「カストロフ伯爵、ユエルのことお願いします」


「わかっているよ、クロック君。ユエル君は聖職者だけあり気持ちの強い女子だ。我ら騎士団も全力で彼女をサポートしよう」


 ちなみにユエルの傍には、アリシアの弟アウネストと数名の騎士団が傍で護衛しているそうだ。

 アウネストといえば「隠れ無能力者」だったが、つい最近エドアール教頭の特殊スキルで退学処分を受けた生徒のスキルを移植されたという話だ。

 これでアウネストも正式にフェアテール家の跡継ぎとなったらしい。

 いったいどんな特殊スキルなのか不明だけど。


「カストロフ伯爵、そろそろ本題に入りましょう。わざわざ忙しい伯爵に来てもらったのは他でもない。つい先程クロック君達に話した通り、伯爵にはあるゲストを連れて来てもらいました」


 エドアール教頭が話題を切り出してくる。


「ゲストですか……俺も知っている人物とか? 結局誰なんですか?」


「ここに呼ぼう――」


 カストロフ伯爵が指を鳴らすと、また奥側から青白い光輝が発せられた。

 すると暗闇から四人の女子が歩いて来る。


 その姿に、俺は勿論パーティ達全員が驚愕した。


「――お、お前たちは!?」


「久しぶりだね、クロック・ロウ」


「その節はどうもですぅ」


「まさか、またこうして其方らに会えるとはな……」


「……恐悦至極。また会えてうれしい」


 そう、彼女達は嘗てウィルヴァとパーティを組んでいた女子達。


 銃術士ガンナーのカーラ、付与魔術師エンチャンターのハーフエルフであるロータ、女部族戦士アマゾネスのフリスト、暗殺者アサシン悪魔族デーモンのスヴァーヴの四人だ。


 彼女達は元竜守護教団ドレイクウェルフェアのメンバーで、ウィルヴァとシェイマが逃走してから、カストロフ伯爵に拘束され連行されたんだ。

 ……そんな彼女達がどうしてここに?


「この四人とは司法取引が成立し、我が騎士団に入隊させている。表向きはネイミア王国から移動してきたスキル・カレッジの学生だ。無論、過去の経歴を抹消させた上でだ」


 カストロフ伯爵が説明してくる。

 俺は頷き理解しながら、再びカーラ達を一瞥した。


「つまり、彼女達が『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の一員だったという経歴は全て抹消されたと?」


「ああ、その通りだ。どの子も入団していたというだけで際立った犯罪歴はない。おかげで書き換えも容易だったよ」


「彼女らの任務は、次期勇者パラディンことクロック君の支援にある。二軍パーティとして使ってくれたまえ」


 エドアール教頭が言ってくる。

 俺はどういう意味かわからず首を傾けた。


「二軍ってどういう意味ですか?」


「ああ、ウィルヴァは体制を整え次第、再びミルロード王国を狙い今度こそ襲ってくるだろう。竜守護教団ドレイクウェルフェアと魔竜ジュンターを引き連れてね。おそらく、もう同じ手は二度通じない。したがって優秀な特殊スキル能力者は多い方が良いと判断し、私の方も内密に彼女達を受け入れることにした。そして責任者のカストロフ伯爵と話合った結果、やはりクロック君の傍に置くのが適任だと思っている……色々な意味でサリィさんよりもね」


 まぁ、サリィ先輩は百合だからな。

 カーラ達も中々の美少女達だし、きっとハメを外して暴走しかねない。


「わかりました。一度、竜退治で組んだこともありますし、俺で良ければ彼女達をお預かりいたします」


「流石、クロックだ。次期勇者パラディンだけのことはあるねぇ。アタシらも下手な貴族より、アンタの護衛をしていた方が余程気が楽だよ」


「あの時、必死で私達を庇ってくれたこと。今でも忘れていません」


「今度はオレ達が恩を返す番だ……クロック殿。遠慮なく使ってほしい」


「……よろしく」


 カーラ、ロータ、フリスト、スヴァーヴが俺に向けて頭を下げて見せる。

 各々が訳ありで教団にこそ属していたが、基本は仲間思いの良い子達ばかりだ。


 こうして一緒に組めるなんてなんか嬉しい。

 最近、ろくなことがなかっただけに尚更だ。


 そう思う反面、


「……うむ。父上と我が主がそう仰るのであれば、仕える身としては何も言うまい。だが、貴様らには我らと行動を共にする上で言っておかなければならぬことがある」


 ずっと黙って聞いていた、アリシアが重々しい口調で言ってきた。

 何故か後ろのセイラ、ディネ、メルフィ、リーゼ先生が同調して頷いている。


「なんだい? 改まって」


 カーラが訊ねると、アリシアはカッと青い瞳を見開いた。


「――いいかァ、よく聞けッ! 貴様など、クロウ様との一夫多妻制には決して加えんからなァァァッ!! その事を肝に銘じて仕えるが良い、わかったなァァァ!!!」


「その通りさぁ! クロウの妻候補は既に定員満杯だからねぇ!」


「クロウのお嫁さんは、ボクらで十分ッ!」


「私達だけで兄さんを幸せにしてみせます!」


「先生も後出しは駄目だと思いますぅ! ごめんね~ん!!!」


「「「「は、はぁ……」」」」


 一軍の女子達から物凄い剣幕に、カーラ達は唖然とする。


 おーい、みんなぁ。

 エドアール教頭達の前で何言っちゃてんの?


 もう、やべーよ。

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