第185話 助っ人と支える仲間達

『……こちらこそ決断に感謝するよ、クロウ君。次に会った時こそ本番だ――』


 ウィルヴァの全身が黒き鎧ごと黄金色の光に包まれる。

 空を切り裂く音速と共に、奴の姿がフッと消えた。


「ウィルヴァのスキル、《ゴールド・フラッシュ黄金の閃光》か……けど何か違う」


 俺はそう思った。

 ウィルヴァの特殊スキルは一度使用すると1分かんほどの冷却時間クールタイムが生じてしまうという弱点を持つ。

 だが奴は攻撃こそしてこなかったが、回避するだけでも連続してスキルを使用していた。

 

 考えられるとすれば、ウィルヴァも俺同様に特殊スキルを進化させたのか。


「……あるいは、あの黒い鎧に謎があるのか?」


 そのどちらかではないかと憶測を立てる。

 本人が消えてしまった以上、確かめようもないのだが……。


「クロウ様、早く撤退しましょう! もうじき敵が押し寄せて来ます!」


「ああ、アリシアそうだな――」


 束の間、



 ドッドドドドドド――ッ!!!



 遥か上空から炎を宿す複数の何かが降り注ぎ、迫り来る三頭のエルダードラゴンに直撃した。

 まるで巨大な砲弾のようなそれは、いとも簡単に竜の両翼と背中を貫き、頭部や首さえも穿ち飛行機能を失って地表へと落下する。

 その際に発生した衝突による轟音と振動が、離れていた俺達にさえ伝わり体を激しく揺らした。


「な、なんだ!? 何が起こった!?」


 一瞬、新手かと思ったが、被害は敵側が一方的のようだ。


 現に謎の物体により貫かれた時点で三頭のエルダードラゴンは絶命しており、巨体を重ねる形で倒れ伏せたまま動くことはない。

 また激しい炎により肉体が燃やし尽くされていた。


 だが地表を移動する50体のモンスターは健在であり、依然として突進してくる。

 しかしあのような一ヵ所に集中された陣形なら、俺の《タイム・シールド時間軸盾》で停止させることが可能だ。

 その方が撤退しやすくなるだろう。


 俺はそう考え、二刀のブロードソード片手剣を重ねる。


 が、



 ――ドゴオォォン!



 遠くから眩い光輝を発した螺旋状の巨大な何かが地べたを這うような猛スピード接近してきた。

 まるでエネルギー状の穿孔機ドリルに模したそれは、前方のモンスター達に突貫し海流の如き渦の中へと巻き込んでいく。


 抵抗不可能と思われる圧倒的な力によりモンスター達の肉体が捻じ切られ、あるいは全身が裂かれるほど穿孔され瞬く間に塵と化した。

 一瞬で50体いた筈のモンスター軍団が全滅してしまう。


 だがエネルギー状の穿孔機ドリルの勢いは収まらず、まるで大蛇のようにうねらせながら尾を引き、回転し続けながらこちらへと迫って来る。


「クソオッ! やはり新手の攻撃か!? モンスターを捨て駒にして俺達を襲うつもりなのか!」


 俺はそう判断し身構えた。

 いつでも攻撃可能な体勢を保持する。


「――ちょい、クロックゥ! 待ってぇぇぇ!」


 突如、大声で制止を呼び掛けて俺の名を呼ぶ女性の声。

 しかも発生源は、こちらに迫ってくる渦巻きの中からだ。


 すると次第に穿孔機ドリル状の渦は萎み始め、俺達に近づく頃には消失した。

 同時に一人の女性がこちらに向かって滑り込んで来る。


 槍を持ったエルフ族の女性、見覚えがある姿だ。

 無傷だが相当な疲労が見られ、肩を上下に揺らし深く呼吸を整えている。


「あんたは……確かサリィ先輩のところの槍術士ランサー?」


「フゥーッ。そっ、トーコだよ。ほらウチの勇者パラディンが助っ人に出すって言ったでしょ? アタシらがそれよぉ……ハァハァ」


 そうか、そういやそんな話だったな……。

 ウィルヴァのことですっかり抜けてたわ。


 にしても、


「アタシら? トーコさん一人じゃないの?」


「離れた所に賢者セージのマナルーザがいるよ。最初にエルダードラゴンを仕留めた隕石はあの子が放った特殊スキルだからねぇ」


「隕石だって!? あの攻撃が……」


「そっ、《ルイン・メテオ滅亡の隕石》というスキル。まぁ隕石と言っても、それに似せた『魂力』だけどね。あんな感じで遥か上空から『爆炎の隕石』を墜として目標物を攻撃する放射系の能力だよ。なんちゃってだから、地表に落ちても実際の隕石のような衝撃はないから安心してねーっ」


 トーコは軽い口調で説明しているが、三頭のエルダードラゴンを同時に屠るほどの威力だ。

 たとえ本物の隕石でないとしても恐ろしいスキルに違いない。


「トーコさんの攻撃も特殊スキルでしょ? なんだったの、あれ?」


「ああ、アタシの《アクセル・スマッシュ加速突撃》だよ。自分の体をエネルギー状の騎馬槍ランスと化して敵に突貫する、至極シンプルな強化系の能力だよ。まぁ『今力』の消費が激しいのと、一度使用するとブレーキが難しいのが弱点かな? あとパーティのみんながそうだけど威力がバカ高い分、広範囲攻撃ばかりだから考えて使わないと危ないって感じぃ」


 聞いてないのに、わざわざ自分を含め仲間達の弱点まで教えてくれる。

 あの大蛇のような穿孔機ドリル騎馬槍ランスだったのか。

 デタラメな破壊力に違いない。


 マナルーザといい、選ばれた勇者パーティメンバーだけあり、やべぇ特殊スキル持ちが多いパーティのようだ。


「そうっすか。助かりました、ありがとうございます……それで、サリィ先輩は?」


「リーダーなら魔竜ジュンターと戦っている最中かな? リーゼから死んだとか報告ないから大丈夫じゃね?」


 随分と仲間から雑な扱いだな、サリィ先輩……。

 逆に言えばそれだけ信頼されているからだろうけど。


 けど、こんなにあっさり片付けてくれるなら、ウィルヴァを逃がさなきゃよかったな。

 実際、奴とどう戦うのか考えてなかったけど、ウィルヴァとの思惑通りに乗せられムカつくしイラっとする。

 まだ余力もあるし、もうひと暴れしてやりたい気分だ。


 いや、それはあくまで結果論だ。

 それはそうと、


「アリシア、セイラ、ディネ、メルフィ……みんなすまない。思わぬウィルヴァとの遭遇に、俺はリーダーとして冷静さを欠いていたようだ」


 トーコとマナルーザが助っ人に来なければ、下手をすれば敵に囲まれていたかもしれない。

 そうなれば危なく大切な彼女達を危険な目に遭わせてしまうところだった。


「いえ、クロウ様が取り乱されるのも無理はありません……実際、私も大変驚いておりましたので」


「アリシア、そうだったのか? にしては冷静に進言してくれたよな? 他のみんなもな。おかげで俺の目を覚ましてくれたと思っていたんだけど」


「こんな時だからこそです。クロウ様を支えるのが私達の使命だと思っておりますので」


「アリシアの言う通りさ。アタイだって思いがけないウィルヴァとの再会に、こんなに手が震えちまっている……情けないほどにね。けどアタイなんかより、クロウの方が何倍も傷ついている筈だろ? そう思ったら落ち着くことができたのさ」


 セイラは言いながら、小刻みに震わせる手を見せてきた。

 そうか……俺のために必死で自分の感情を押し殺してくれていたのか。


「ありがとう、二人とも。おかげで俺は大丈夫だ。ディネとメルフィもありがとな」


「えへへへ、クロウのためだもん」


「私達はクロック兄さんを支えお守りするためにいるのです。どうか気にしないでください」


(――ちょい、みんなぁ! 先生に隠れて、クロウくんにラブラブアピールしちゃ駄目だからねーっ!)


 いい雰囲気の中、突然リーゼ先生の思念が頭の中に入ってきた。


「先生、サリィ先輩達はどうなったの?」


 もう頭で念じる必要はないので声を出して問いかける。

 思念でのやり取りって意外と疲れるのよ……下手に迂闊のこと考えられないし。


(大丈夫だよ。みんな元気ぃ、ただ『魂力』使い果たして動けないみたいだけどねぇ)


「だろうな、トーコさんとマナルーザさんの特殊スキルを目の当たりにした限り、どれも多対戦向きで強力な分、『魂力』の消費も激しい。当然の道理だ」


 しかも仲間ごと巻き添えにしてしまうリスクがある分、時と場所を選んでしまう。

 俺が知る限りじゃ、勇者パラディンサリィの特殊スキルが最も汎用性が高そうだ。


「それでリーゼ先生殿、肝心の魔竜ジュンターはどうされたのだ? 無事に仕留められたのでしょうか?」


(うん、アリシアちゃん……それがね。先生、答えにくいから、サリィちゃんに直接聞いてみるぅ? チャンネル合わせるからよろしくぅ~!)


 何故に逃げる、リーゼ先生?


 間もなくすると、勇者パラディンサリィが俺に思念を飛ばしてきた。


(ちょい、後輩くん! 聞いてよぉ!)


「サリィ先輩、無事で良かった……んで、エンシェントドラゴンはどうなったんです?」


(だから聞いてよぉ、もう! あの黒騎士って奴がムカつくんだけどさぁ――)


 先程まで魔竜ジュンターと戦っていたサリィに状況を聞かされ、俺は絶句した。

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