第183話 強奪者の強制転換
突如、現れた
一見して随分と小柄で幼い容姿に見えると、魔竜ジュンターは思った。
だが、その小さい体から溢れてくる『魂力』は、これまで滅ぼしてきた国々のどの勇者より異質な何かを纏っていると感じる。
魔竜ジュンターは縦割れの瞳孔で、じっとサリィを凝視した。
『ミルロード王国の
「
サリィは飄々と言っているが、決して容易いことではない。
竜族の最高位エンシェントドラゴンはあらゆる本質を見抜く力がある。
例え強力な魔法を施されても、神と呼べる者でなければ隠蔽することは不可能だ。
魔竜ジュンターとて同様の能力を持っており、現に先程のレイルとのやり取りでも彼女が密かに抱く深層心理について言及している。
したがってサリィが嘘をついてないことも理解し、同時に得体の知れない
『護衛の部下達を誘導し、全滅させたのもテメェらの仕業だな?』
「そうよ、あたし自慢の最強パーティ兼嫁達よ!」
ここでネタバラしていこう。
まずエルダードラゴン達が誘導された「クマのぬいぐるみ」の正体は、
スキル能力で具現化したクマのぬいぐるみで、複数の敵を任意の場所まで誘導する効果を持つ。また、ぬいぐるみに攻撃を加えると爆発するという凶悪さを秘めている。
続いて魔物達を飲み込んだ大地震は、
一定の場所に地震を発生させ、地割れにより敵の動きを封じて、また激震により肉体を内部から破壊する効果がある多対戦特化型の特殊スキルだ。
最後に美しき女神のような風貌を持つ謎の巨人だが、これは
カネリアが信仰する女神『守護女神フレイア』に模した虚像を顕現させ、その息吹で味方達にはダメージの全回復を恩恵として与え、敵には高出力の破壊粒子砲を浴びせ浄化させるという慈愛と破滅を司る恐ろしいスキルだ。
ただし強力すぎるがため、魂力の消費が激しく1日3度しか使用できない制約がある。
その彼女は口端を吊り上げ、
魔竜ジュンターは臆せずされど侮らず、冷静に眼前の敵を分析し始めた。
(……あんな小っせぇ剣で俺の鱗が傷つけられるものか。仮に出来たとしても猫に引っ掻かれた程度だ。しかし、この小娘が単独で来やがったということは相応の自信があるということ……この魔竜ジュンターに対してだと?)
瞬きする間に様々な思考を巡らせるが、サリィの思惑がまるで読めない。
この小娘が身の程知らずの間抜けならそれまでだが、仮にも一国を代表とする
『――レイル。この状況をもう一つの『銀の鍵』、いやテメェの兄貴に伝えに行け』
魔王ジュンターは背後に浮かぶ、竜族と人族が混合した異形の少女に視線を送る。
ちなみにレイルの姿は、人族のサリィには視認することができない。
そしてレイルの声すら聞くことさえ不可能だ。
『駄目よ。あんたを監視するようお兄様から命じられているの……この位置なら思念を送れるわ』
『空気読めよ、糞小娘が……今から俺はガチ・モードで、このちんちくりん勇者をブッ殺す。それに巻き込まれたくなかったらって話だ。万一にでもテメェに何かあったら、あの兄貴だけじゃなく、盟約を結んだ親父にまで何をされるかわかったもんじゃねぇ……そういう意味だぜ』
魔竜ジュンターにとって、『銀の鍵』の父親と称する竜神こと『空虚なる
レイルは仕方なさそうに首肯する。
『……わかったわ。基本、ワタシはこの世界の干渉を受けないんだけどね……あの
『誰が泣きつくか! とっとと行けや、糞ガキめ!』
魔竜ジュンターに急かされ、レイルは『フン』と鼻を鳴らして姿を消した。
「古代語、いや竜語かな? 独り言にしては聞いたことのない言語ね……てかアンタ、どこか人族っぽい
サリィは首を傾げ、魔竜の様子を窺っている。
彼女は熟練された
それにしても目的が暗殺である以上、本来なら正面から堂々と向き合う必要はない筈だ。
そこには、サリィの思惑があったからだ。
(あたしの特殊スキル――《
エンシェントドラゴンの全長は尻尾から頭頂部まで約120メートル。
覚醒している状態で頭部を狙うのは絶望的だ。
それに《
中途半端な攻撃では反撃を受ける恐れがあった。
したがって一撃で仕留めるしか、サリィに勝機がないと言えるだろう。
(ならば狙うとしたら心臓だねん。問題は高さか……飛ばれたら厄介だけど、まっ、なんとかなるしょ)
『勇者が……サリィとかいったな、テメェに答える義理はねぇ。とはいえ、身構えている割には襲ってこねーよな? んだけ近づいている癖に不意打ちしてこねーのはなんでだ? 一撃必殺の何かを持っているが特殊スキルの制約上、今の状況じゃ使えねえんじゃねーのか?』
ほぼ言い当ててくる、魔竜ジュンター。
言動こそチャラいが本質を見極める『竜の眼』は伊達ではない。
だがサリィも
そう易々とボロを出すようなことはない。
「んなの自分の名を上げるために決まっているしょ? 暗殺より正面からエンシェントドラゴンをブッ斃した方が伝説としていい感じに語り継がれるわけじゃない?」
『確かにテメェは欲深い女だ。しかし同時に執念深く強かでもある……俺はそこを警戒し、テメェから距離を置くことにするぜ! やっぱ知的種族共の特殊スキルは侮れねぇ! 上空から炎を吐いて焼き殺してやんよぉぉぉ!!!』
魔竜ジュンターは両翼を広げ上空へと羽ばたこうとする。
「ま、マズイわ――なーんて言うと思った? 好都合だっての! 寧ろそれを狙ってましたーん!」
サリィは歓喜し叫んだ。
同時に彼女の背部から何かが出現する。
それは魔竜ジュンターにとって見覚えがある物だ。
つい先程、エルダードラゴン達が誘導された「クマのぬいぐるみ」であった。
『さっきの特殊スキルか!? しかし最強の
魔竜ジュンターが歓喜に似た咆哮を上げる。
それは精神を破壊する魔法が込められた攻撃。
容赦なく、サリィの華奢な体を刻み蝕まれていく。
常人なら発狂死しても可笑しくない衝撃の筈だが。
「生憎、こっちも
サリィは笑みを浮かべ跳躍した。
自身に
しかしそれでも、魔竜の下腹部ほどの高さ。
狙いとする心臓には遥か遠い。
だが刹那、サリィは手にしている
そこには、「クマのぬいぐるみ」こと
ドオォォォォ――ン!
その爆風により、サリィの体がさらに上昇する。
ついに魔竜ジュンターの胸部にまで接近した。
『な、なんだと!?』
「ようやく届いたね――《
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