第180話 黒騎士の正体

 あの黒騎士め……どこに行きやがった?

 まさか俺の《タイム・シールド時間盾》を予測して一瞬で逃げたってのか?

 どうする? ディネかリーゼ先生に索敵してもらうか


 いや、その時間はないようだ。


 恐慌しパニックを起こしていた、信仰騎士達は落ち着きを見せている。

徐々に体制を立て直しつつあった。

 竜神とやらを祀る教団に属するだけあり、それなりに精神面メンタルが鍛えられているのか。

 重症の者はそのまま地面に伏しているが、動ける者は騎馬に跨り隊列を組み始めている。

 

 信仰騎士達は、姿を晒した俺とディネに向けて身構え一斉に剣を抜いた。

 その数はおよそ100騎ほど。思ったより数が多い。


「黒騎士のことは後回しだ! アリシア、セイラ、メフィ頼むぞ!!!」


「わかりました! 我が主にして最愛の君、クロウ様――《マグネティック・リッター磁極騎士》!」


「アタイだって、クロウへの想いは誰に負けないよぉ――《ブレイブ・クレイ勇敢な粘土!》


「もう皆さんったら、好き勝手ばかり言ってぇ! 一番クロック兄さんを愛しているのは私です――行きなさい、スパルちゃん! スパルトイ・オーバーラン竜牙兵の蹂躙第二形態セカンド・フォーム!」


 俺の指示で茂みから三人が飛び出し、各々の特殊スキルを発動する。

 ちょい、何気にみんなの口上が恥ずかしいんだけど……この子ら絶対にやべぇよ。


 最初にアリシアがバスタードソード両手剣の剣先を地面に突き立てた。

 続いて、セイラが地面に向けて鋼鉄手甲ガントレッドの拳撃を連続して打ち放つ。


 すると地面が盛り上がり、30体の粘土人形が形成された。

 セイラが作りだした『ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達』だ。


 粘土人形達はやたらと綺麗なフォームで両手を振って走り出し、信仰騎士に向けて突撃した。


 ほぼ同時に、メルフィの鞄から出現した赤ん坊サイズの竜牙兵スパルトイことスパルの体が大きく膨れ上がる。

 大人以上のサイズとなり、武骨で凶悪顔の闘拳士『スパルトイ・オーバーラン竜牙兵の蹂躙』に変貌した。

 さらに背中の鎧が分解され、ギミック式の両腕に変形する。


「ガァァァァァァ――!!!」


 竜牙兵スパルトイは咆哮と共に口から唾液をまき散らし、ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達の後に続いて駆け出した。


「なんだ、あの奇妙な連中は!?」


「近づいてくるぞぉ! 矢を放てぇぇ!!」


「く、来るなぁ、バケモノ共ぉぉぉぉ!!!


 異形の者達による襲来に、信仰騎士達は動揺を隠せないまま矢を射ろうと構える。

 だがブレイブ・ドールズ勇敢な人形達の動きは早く、30体それぞれが飛び掛かり信仰騎士達に抱きつき固定された。


 その刹那、


「うわぁっ、何だ!?」


 抱きつかれた信仰騎士を中心に騎馬から引きずり降ろされ、一カ所に固められるように引き寄せられ集められていく。


 ――アリシアの特殊スキル、《マグネティック・リッター磁極騎士》の効果だ。


 磁力が施された地面から生成された、ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達はアリシアの意志で強力な磁力を帯び抱擁した信仰騎士ごと引き寄せているのだ。

 しかも信仰騎士達や騎馬が身に纏う、鉄板の甲冑プレートメイルにも影響し、抱きつかれていない筈の者や負傷し地面に伏せている者達さえも磁力により取り込んでいる。

 そうして激流に飲み込まれるが如く全員が搔き集められていく。

 

「――スパルちゃん! 《ドゥームズデイ・ゼロ終末の零》!」


 メルフィの指示で、竜牙兵スパルトイは「オオオオオ――ッ!」と獣のような雄叫びを上げ、背部のギミックから亜空間領域サブスペース・フィールド弾を連射した。


「ぎゃぁぁぁぁ!!!」


「消える!? 俺達の肉体が消えてしまうぅぅぅ!!!」


「助けてぇ、助けてぇ、竜神様ぁぁぁぁぁ――……!!!」


 竜牙兵スパルトイから放たれた亜空間領域サブスペース・フィールド弾を直撃され、信仰騎士達は紫光の渦に包まれた。

 それは完全なる無と消滅を誘う、絶望の光弾であり信仰騎士達の肉体は次々と抉り削られてしまう。

 しかも《ドゥームズデイ・ゼロ終末の零》という技は融合と増殖機能を持ち、近くにいる者達を巻き添えにする効果を持つ。


 当然ながら《マグネティック・リッター磁極騎士》により集められた者達にも影響を及ぼし、侵食されるように巻き込まれて消滅している。


 こうして数分後。

 既に屠られた者達や騎馬も含め、300騎もいた信仰騎士は跡形も残さず殲滅された。


 ……うん。竜を祀るイカレ狂団相手とはいえ、我ながらエグイ戦法だ。


『――やれやれ。手加減しないだろうと思ってたけど、ここまで容赦ないとは思わなかった』


 不意に男の声が聞こえた。

 籠ったような声質だが、どこか聞き覚えがあるような気がする。



 ヴォン――ガキィッ!



 思考を巡らせる前に、そいつは轟音と共に突如現れバスタードソード両手剣で斬りかかってきた。

 俺も咄嗟に反応し、手にしていたブロードソード片手剣を目の前で交差させて刃を受け止める。


「こ、こいついつの間に!?」


 そいつは姿を晦ませていた、黒騎士だった。

 いきなり目の前から出現し攻撃を仕掛けてきたのだ。


 受け止めたのはいいが、物凄い剣圧で押し負けそうになる。

 鋭利な刃が眼前へと迫ってきた。


「ぐっ、テメェ舐めるなよ――タイム、」


 ヴォン!


 空を切り裂くような轟音。


 俺は特殊スキルを発動しようとした瞬間、再び黒騎士の全身が一瞬だけ光に包まれる。

 再び、フッと姿を消した。

 この間、1秒も経過していない。極ほんの一瞬だ。


「消えた!? んぐぅ!」


 背後から気配を感じた。

 気がつけば、すぐ真後ろで黒騎士が立っている。

 いつの間に……いや、こいつの特殊スキルか!?


 このまま俺に攻撃するのであれば、《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》の《再生リプレイ》でそのままダメージを送り返してやろうと待ち構える。

 だが黒騎士が攻撃してく様子はない。


 俺は「ハッ」と、黒騎士の思惑に気づく。


「アリシア達か!? 俺の仲間の迎撃を恐れ、俺に着かず離れず距離を保ってやがる!」


 現に彼女達は助けに入ろうと身構えるみも、神出鬼没の黒騎士に対し攻撃するのを躊躇している。

 下手をすれば、俺を巻き込んでしまうからだ。

 つまり黒騎士にとって、俺は仲間達への牽制であり盾代わりとなっている。


『パーティの仲間達は絶大にキミを信頼しているようだからね。こうして、キミにつかず離れずにいれば下手に攻撃できないだろ? クロック・ロウ』


 フルフェイスの仮面越しで声を籠らせ言ってきた。


「なら俺が離れりゃ済む話じゃねぇか――《短縮スキップ》!」


 俺は自分の時間を飛ばし、射程距離の10メートルほど先送りして移動する。

 

 ヴォン!


 だが黒騎士も再び鎧を発光させ、一瞬で俺の間近まで迫っていた。

 しかも背後から回って真正面だ。


 こいつも俺と似たような時間操作系の能力があるのか?

 いや違う……こいつは自分の足で移動している。

 現に移動する度に、謎の轟音が鼓膜を突き刺しているからだ。


 おそらく音の壁を超えた際に発生されるソニックブーム。

 つまり黒騎士は音速以上の速さで動いているということ。

 にもかかわらず、音以外は衝撃波など一切発生してない。

 つまり特殊スキル効果で物理法則が無視されている。


 俺の記憶でそんなことできる能力者は一人しかいない。

 だが、奴の特殊スキルとは明らかに異なる部分がある。


 この黒騎士……いったい何者なんだ?


「クソッ、黒騎士め! 我が主から離れろ!」


「ムカつくねぇ! アタイはそういう姑息な奴が大っ嫌いさ!」


「あんなにピッタリくっつかれたら、クロウに当たっちゃうよ!」


「兄さん、5秒でいいですから、そいつから離れてください!」


 パーティ達が酷く動揺している。

 なまじ攻撃力が高い分、誤射して俺ごと仕留めてしまないか懸念しているようだ。

 戦い慣れたとはいえ、彼女達もまだ学生。五年後の記憶を持つ俺ほど戦いの駆け引きが熟練されているわけじゃない。


「大丈夫だ! 逆に言えば、こいつは俺に攻撃できない! おそらく俺を盾にすることで何かしらの時間を稼いでいるに違いない! 違うか、コラァ!」


『――相変わらず聡明だね、クロック……いや、クロウ君』


 黒騎士はあえて口調を変え、俺をそう呼んだ。

 

「なっ……俺をそう呼ぶってことは、まさか貴様は――」


(クロウくん! 黒騎士のスキャンができたよぉ! 心して聞いてぇ、彼は――ウィルヴァくんだよぉ!)


 俺が確信を得る前に、リーゼ先生の思念が飛び込んできた。


「……ウィルヴァ・ウエストだと?」

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