第179話 先手必勝と謎の黒騎士

(えーっ、なになに? ハーレム満喫中で誰を最初にしようか迷っているって? 羨ましいな、このヤロー)


(誰もんなこと言ってねぇっすよ! 真面目に聞いてくださ……いや先輩でも、あえて言わせてもらうわ、聞けよコラ!)


 早々にボケをかます勇者パラディンサリィに、俺は激しいツッコミと暴言を吐き散らした。

 彼女は(キャハハハ)と思念で明るく笑っている。


(冗談だよ~ん、後輩くん。そんな目くじら立てちゃいやーよ。ん~っ、敵も怪しいちゃ怪しいよねぇ。元々胡散臭い連中だけにねーっ)


(俺達はこのまま作戦通り囮と引き付け役に徹します。そちらは罠かもしれないんで警戒してくださいって話っす)


(わかったよ。ところでエルダードラゴンもそっちに向かっているんでしょ? あたしのパーティを二名ほどそっちに向かわせるから、後輩くん達は信仰騎士団の相手に集中してねぇ)


(え? それだと、そっちが手薄になるんじゃないっすか?)


(問題ないわ。こっちはこっちで、ボン、バキ、ドゴォンでちゃちゃっと終わらせるから安心してぇ)


 相変わらず謎の擬音だが、まぁいいだろう。

 にしても普段は頭のネジが数本ほど外れた感じだが、時折優しくなるという卑怯な先輩だ。

 飴と鞭のような嫌いなのに嫌いになれない、妙な感情に陥ってしまう。

 

(わかりました。俺達もボン、バキ、ドゴォンでちゃちゃっと終わらせますから、必ず合流しましょう先輩)


(……後輩くん、なんかいいね。キミが女の子だったら恋に落ちちゃうんだけどなぁ。ねぇ、女の子になる気ない?)


 ねーよ。百合なら他でやってくれ。

 てか、もう思念切ってやるわ。


 俺は無言で、リーゼ先生にチャンネルを変えてもらった。

 何故か自分が笑みを零していることに気づく。


(クロウ様、如何なされました?)


(いや、アリシア……やっぱ勇者パラディンは面白いと思ったまでさ――敵が射程距離に入ったと同時に仕掛ける。それまで定位置まで奴らを誘導していくぞ)



 かくして俺達は隠密行動と称し、あえて痕跡を残して移動を繰り返して行く。

 そうすることで敵を誘導し、こちらが追い詰められる構図を演出する。

 だが実際、蓋を開けてみれば……ってやつだ。


 こうした策を完成させるには、彼女の特殊スキルが必須だ。


 ――リーゼ・マイン先生。


 彼女の特殊スキル《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》により、各自の頭の中で敵の動きがある種のマップとしてリアルタイムに浮かんでいる。

 おかげで手に取るように位置が把握できた。


(やっぱ凄ぇな……リーゼ先生のスキル。非戦闘用とはいえ、レアリティRとか絶対に嘘だろ?)


 俺は脳裏に浮かぶマップをチェックしながら移動を続ける。

 常に先回りすることで挟撃や囲まれることはまずあり得ないだろう。


 さらに森の中は、エルフ族であるディネルースの領域フィールドだ。

 ディネが仲良くなった精霊達から、敵の情報がより細かく入ってくる。


(クロウ、信仰騎士団の騎兵隊が300騎。エルダードラゴンが三頭に、モンスターが50体だってぇ!)


(ほぼ軍隊規模じゃないか……ったく、こっちは五人しかいないってのに、偵察や斥候くらいしてから来いっての)


 そう皮肉を呟きながらも、やはり奇妙だと思った。

 魔竜ジュンター、エンシェントドラゴンの癖に頭が悪いのか?

 それとも俺達をハメるための罠なのか?



 脳内マップに沿い、木々の少ない平地へと辿り着いた。

 中央辺りまで移動すると、立ち止まり周囲を見渡す。


「ここまで来れば、もう喋っても問題ないだろう。メルフィ、頼む」


「わかりました――《幻影魔法イリュージョン》」


 俺の指示に、メルフィは呪文語を唱える。

 《幻影魔法イリュージョン》で俺達の姿を忠実に模した分身を作り、その場に目立つ形で設置した。


「俺の視界内ぎりぎりまで一旦離れるぞ。ディネも、いつでも攻撃できるよう準備しておいてくれ」


「うん、わかったぁ! 作戦通り、まずはボクとクロウのラブラブ・アタックだねぇ!」


「「「はぁ!?」」」


 ディネの言葉に、アリシアとセイラとメルフィの三人が過剰に反応する。

 おいおい、こんな時にウチの子達ったら……もう。


「みんないい加減にしろよ! ユエルが不在の中、これだけ危険なクエストだ! 今の俺達は万全じゃないってことを忘れるな! 油断して大怪我しても知らないぞ!」


「「「「はぁ~い……」」」」


 俺に窘められ、しゅんとする女子達。

 クソッ、みんな可愛いな……いやそうじゃねぇ!


 俺が次期勇者パラディンになってからの、彼女達のポンコツぶりが半端ない。

 これならまだ糞未来の女子達の方が色々な意味で安心できたかもしれねーや。


 それから分身だけを残し、視界ぎりぎりまで離れ茂みへと隠れる。

 竜なら即バレだが、少なくても人族である信仰騎士団は一瞬でも誤認させ騙せるだろう。

 はっきり言って、それで十分だ――。



 間もなくして無数の蹄の音が響き渡る。

 信仰騎士団の騎馬隊がやってきた。

 その数は情報通り、300騎ほどの大所帯だ。


 他のエルダードラゴンとモンスターの姿はない。

 脳内マップ上だと、一定の距離を保ち待機しているようだ。


「ん? なんだ、あいつ?」


 ふと先頭を走る、一人の騎士が視界に入った。

 教団を名乗るだけあり多くの信仰騎士達は真っ白な鎧に身を包む中、そいつだけは頭からつま先まで全身が漆黒の鎧を纏う黒騎士の男だ。

 ひと際目立つ浮いた存在、おかげで遠くからでも視認できた。


(……先導しながら走っているところを見ると、あの黒騎士が騎士団長なのか? なんだか妙に気になる奴だ……リーゼ先生、そこから敵の分析とかってできる?)


(流石に黙認しないと瞬時は無理かな……時間かかってもいいなら、繋がっているクロウ君の視野からスキャンしての分析ができるけどぉ?)


 おお、試しに言ってみたけど、そんなことが可能なのか?

 ガチで探索に関して万能スキルじゃないか……益々リーゼ先生の見る目が変わるわ。

 アリシア達も少しは見習えよな!


(んじゃそれで頼むよぉ。サリィさん達のフォローを兼ねてだけど大丈夫?)


(サリィちゃん達ならフォロー不要よ。あとね、クロウくん……)


(何、先生?)


(先生がいないことをいいことに、お嫁さん候補の子達とイチャコラしちゃ駄目だからねん、プーンだ!)


(……御意)


 やっぱ、リーゼ先生も大して変わんねぇ……てか、なまじ離れているだけに一番手に負えねぇ。

 本当なら激昂するほどツッコんでやりたいけど、俺まで可笑しくなるから黙っておくわ。


 黒騎士の件はリーゼ先生待ちとした。

一抹の不安を覚えるも俺達は行動に移していく。


 信仰騎士団の騎馬隊が《幻影魔法イリュージョン》で作られた俺達の分身をみるや、動きと止める。

 団長格と思われる黒騎士の指示で、前方の騎士が弓を構えて矢を放たれた。


 警告もなしで問答無用のようだ。

 とはいえ所詮は幻影。飛翔する矢が次々と分身体に接触すると、フッと消滅し矢だけが空しく地面に突き刺さった。


「引っ掛かったな――《タイム・シールド時間盾》!」


 俺は茂みから抜け出し、二本のブロードソード片手剣を鞘から抜き刃を重ねる。

 そこから光輝を放つ半透明の『時計盤』が出現し巨大化され、動きを止めていた信仰騎士団に向けて発射された。


 疾走する『時計盤』は、騎馬ごと信仰騎士団を覆う形で接触し消滅する。

 瞬間、300騎の動きが停止し時間を奪った。


「これがボクとクロウのラブラブ連携攻撃だよ――《ハンドレット・アロー百式の矢》!!!」


 だからラブラブはやめーい。


 続いてディネが前に出て三本の矢を放つ。

 飛翔するスキルの矢は三百本に増殖し、容赦なく信仰騎士達の体を次々と射抜いた。


「――タイム・アップだ」


 俺の言葉と共に奪った時間が戻される。

 攻撃を受けた信仰騎士達は次々とその場で倒れた。


「うぐぁ、攻撃を受けただとぉ!?」


「ギャアァァァ痛でぇ! いったいどうなっているんだぁぁぁ!?」


「誰かぁ、状況を報告しろぉぉぉ!!!」


 予想通り、不意の襲撃によりパニックを起こしている。

 そのまま絶命した者もいれば、重症で動けない者、または軽傷で起き上がれる者まで被害がばらばらだ。


「ディネにはエルダードラゴン戦に備えて力を半減させたとはいえ、思ったより元気な奴もいるな……テロリストの癖に、それなりに鍛えられた連中ってことか」


 まぁいいや。

 第二陣の攻撃で確実に仕留めてやるぜ。

 自分でもドン引くほどのエグイ戦法でな。


 ……って、ん?


 そういや、指揮っていた黒騎士の姿がないぞ。

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