第177話 女勇者サリィの特殊スキル

 極秘クエストに赴く中、俺は現役の勇者パラディンサリィから過去の経緯を聞いていた。

 本人曰く、推薦を受けた男子生徒が臆病風に吹かれ泣きつかれたことで、自分が代わりに不正を犯してまで勇者パラディンになったと主張する。


「……なるほど。それで予め推薦が内定されていた男子生徒側も、特に不満を申し立てることなくあっさりと受け入れた。だからそんなに大事にもならなかったってわけか?」


「まぁね、教師の大半は知っている筈よ。だから、あたしを悪者扱いにして体面を守っているってわけ。そうよね、現役教師のリーゼ先生?」


「私はその頃、まだ学生だったもん。しかもサリィちゃんより年下の後輩だしぃ、だから詳しい事情なんてわからないしぃ。だけど、そもそもサリィちゃんの素行が悪すぎて推薦枠から外されたんでしょ! それなのにエドアール教頭に噛みついてばっかで、そういうの逆恨みって言うんだからね!」


 リーゼ先生の主張は正しい。

 そもそも推薦枠から外されたのも、サリィの自業自得だからな。


 だけど話を聞いている限り、確かにサリィはアンフェアで勇者パラディンになったけど心構えや気持ちは本気の決意を感じる。


 それに似てるな……俺が勇者パラディンになろうとしたきっかけと――。


 俺も糞未来じゃ劣等生の無能者として酷い扱いを受けていた。

 当時、俺の特殊スキルが名前もつかない最低ランクだと見なされていたからだ。


 そして五年前の時代に遡及して、実はEXRエクストラの特殊スキルだと発覚した途端、次期勇者パラディンまで成り上がっている。

 俺個人なら手放しで変化を喜び、そのまま甘んじて満喫すりゃいいだろう。

 周囲なんてお構いなしに、好き勝手スローライフを送りゃいい……当初はそう思って逃げだそうとさえしたくらいさ。

 

 けど、そうじゃないだろって思い始めたんだ。

 俺にとってトラウマの元凶はなんなのか……それは今の世界情勢とスキル・カレッジのようなカースト制度にある。

 

 あれだけ迫害され罵られ続けていたのも、俺の特殊スキルが無能だと思われていたからだ。

 糞未来じゃ抗うことなく受け入れ負け犬と化していた……。


 だからこそ対竜撃科に声を掛けられても、Eクラスにこだわり続けていたところもある。

 劣等生扱いを受けていた負け組の俺がどこまでのし上がるのか、世間に証明させるために――。


 けど最も超えたいと目標にしていた勝ち組のエリートだった奴が、実は義理父と結託していた裏切り者だと発覚して、その気持ちもすっかり萎えちまったけどな……。


「……やり方はアレだけど、サリィ先輩の思いにも同調できます。なんとなくっすけど」


「え? 後輩くん、ガチで? ひょっとしてキミって男の癖に良い人?」


「男だって良い人はいますし、女だって悪い奴は普通にいますよ……てか、俺のことどんな目で見てたんっすか?」


「……元カノを寝取ったハーレム糞野郎」


 酷ぇ、想像していたのより最悪に思われていたのか。

 そりゃ出会い頭から攻撃的だったわ。


「だからサリィちゃんとは付き合ったことないでしょ! クロウくん、誤解しちゃ駄目だからねぇ! 先生はクロウくんが初めてだからね!」


「大丈夫ですよ、リーゼ先生……てか初めても何も、俺と先生も付き合っているわけじゃないでしょ?」


 もう、どっちもどっちだ。

 二人がそんな話をする度に、後ろで歩くアリシア達の目つきが鋭くなる。

 俺としては下手な誤解より、そっちの方が遥かに怖えーよ、まったく。


 こうして互いに少し打ち解け合いながら目的地まで進んで行く。



 日が昇りかけた朝方頃。

 目的地の森まで約10キロ地点まで近づいた。

 

「ここで一旦小休止だね。リーゼ、《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》でみんなと思念でやり取りできるようにしてぇ」


「わかったわ――《サンクチュアリ・ナビゲーター聖域への案内人》」


 リーゼ先生は特殊スキルを発動する。

 頭上に白銀色のゴーグルが出現し、彼女の顔へと自動的に覆いかぶさった。


(おっし! これで敵だけじゃなく、各自の位置や状況もわかるねぇ! やっぱリーゼは凄いわ~、ウチに戻ってきてよ~ん!)


(嫌だって言っているじゃない! もう、しつこいなぁ!)


(いい加減にしてくださいっすよ……それで、ここからどうするんですか?)


 俺は呆れながら問い質してみる。


(二手に分かれるわ。後輩くんは予定通り、信仰騎士団を誘き出す餌になって頂戴。そうすれば、エルダードラゴンやモンスターも必然的にそっちを注目するからね)


(……言い方よ。んでサリィ先輩達はどうするんですか?)


(それこそ王城で話した通りよ。パーティでエルダードラゴンとモンスターを一網打尽にしている間、あたしが懐に入ってエンシェントドラゴンを仕留めるわ)


(サリィ先輩、一人で?)


(そうよ)


(いや流石に無理じゃね? 相手は仮にもエンシェントドラゴンっすよ?)


(射程距離にさえ入れば問題ないわ。それこそ、ボン、バキ、ドゴォンよ!)


(だからそのボン、バキ、ドゴォンってのが謎なんすけど……誰か語彙力の低い勇者パラディンに代わって説明してくれる人、いますかぁ?)


(――《強奪者の強制転換ロバリー・コンバージョン》。それがサリィちゃんの特殊スキル名だよん)


 元パーティのリーゼ先生が答えてくれる。

 なんだか強そうなスキル名だな。


(メルフィ、特殊スキルの鑑定をしてくれるか?)


(わかりました、兄さん――フォービドゥン・ナレッジ禁断知識!)


 メルフィの手から、一冊の魔導書が出現しページが捲られピタッと停止する。

 禁忌魔法の《魔眼の精密鑑定デビルアイ・ハイアプレーズ》が発動された。


 彼女の黒瞳が深紅に染まり縦割れの瞳孔となり鑑定がなされていく。


(鑑定終了しました。結果を出します――)


 メルフィは、透明色で長方形板の物体を浮上させた。



 ◆鑑定結果

特殊スキル名:《強奪者の強制転換ロバリー・コンバージョン

能力者名:サリィ・ストーン

タイプ:効果型

レアリティ:SR


【能力解説】

・相手の所有物を強引に奪い、あるいは別のモノと交換する。


【応用技】

・物質は勿論のこと、体内の臓器、骨に至るまで奪うことができる。

・また任意で別の物質あるいは生物同士の臓器類を奪い、また入れ替えることが可能。


【弱点】

・奪えるモノは一度に一つに限られ、スキル発動後クールタイムが生じる。

・また能力効果の射程距離、10メートル範囲に限られる。



以上



 うおっ、何よこれ!?

 SRとは思っていたけど、なんかヤバくね!?

 相手から何かを奪ったり交換したりする能力か……。

 元盗賊シーフならではと言えばそうかもしれないけど、能力効果がエグすぎる。


(ちょい、黒髪の妹ちゃん! 勝手に脱がせちゃやーよ! キミ、タイプだからあとでベッドに来るぅ?)


(ごめんなさい。兄さん以外は受けつけないので……)


(コラ! 何を話しているんだ、二人とも! てか妹は俺の指示でやっただけっす……それより、サリィ先輩、まさかこの特殊スキルで勇者パラディンの推薦状を入れ替えたんっか?)


(察しがいいねぇ、後輩くん。そうよ、ただし名前だけ交換したんだけどねん)


 そうだったのか……やっとカラクリがわかったぞ。


(けど先輩の特殊スキル効果、竜にも通じるんっすか? エンシェントドラゴンも?)


(モチのローン65回払いよ! このスキルで、あたし達は多大な成果を上げてきたんだからぁ!)


 モチのローンの意味はわからないけど、サリィの自信といい鑑定でも射程距離以外の制限はないのだから、そうなのだろう。

 臓器や骨まで奪えるとなると、流石のエンシェントドラゴンもワンキルだな。


 そりゃ好き勝手に百合百合しいことばっかしいても、勇者職パラディンを剥奪されず重宝されるわな。


(わかりました、サリィ先輩を信じます。俺達は自分に課せられたクエストを全うするよう努めますよ)


(あんがと、後輩くん。んじゃ作戦開始よ! リーゼはここで待機! あたし達の中継役をしながら敵の行動を分析と報告してね! 万一ピンチになりそうなら、ミルロード王国に軍隊の出撃を要請すること!)


 サリィが勇者パラディンらしく的確な指示を送る。

 こうして俺達の極秘クエストは開始された。

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