第174話 女勇者の性癖とパーティ

「言っておくけどアンタのことじゃないからね! あたし男には一ミリも興味ないから!」


 先輩の勇者サリィから唐突に侮蔑されてしまう俺。

 だったら「気に入った」ってどういう意味だよ?


「あのね、クロウ君……サリィちゃんはガールズラブ、つまり女の子にしか興味ないんだよ」


 背後からリーゼ先生が教えてくる。

 ガールズラブ?

 つまり同性愛者っていうのか?

 んじゃ自称恋愛マスターや浮世を流したってくだりは、全て女子に対してかよ……。


 するとサリィは、後ろのリーゼ先生に視線を向けた。


「あっ、リーゼじゃん! おひさ~っ、相変わらずおっぱい大きいねぇ! あとで揉ませて~!」


「嫌ですぅ! もう会う度にそういうことするからパーティを脱退したんですからね! あと、もう先生には将来有望な婚約者がいるんですぅ~、ざんねんでしたぁ!!!」


 リーゼ先生、婚約者ってまさか俺のこと?

 俺の意志確認もされずに、いつからそこまで進んでいるんだ?


「なっ!? 婚約者って……まさか、そいつぅ!? 嘘ッ! その後釜男、まだ学生でしょ!? あんた、いくらなんでも犯罪だからね!」


「元盗賊シーフで手癖の悪いサリィちゃんにだけは言われたくないも~ん! それに、私とダーリンはまだピュアラブ中ですぅ! 正式に勇者パラディンとなるまでお預け中ですぅ!」


 いつからピュアラブになったんだろう?

 デートどころか、手すら握ったことないってのに……てか俺の意志は?


 リーゼ先生の暴走発言に、アリシア達は顔を顰めている。

 けどいつものようにブチギレたりしない。


「リーゼ先生殿……当分は保留だと話し合ったではないか? 何故、虚勢を張るのだ?」


「大人はすぐに焦るからねぇ。やっぱアタイらだけで正妻の話を進めた方がいいんじゃないかい?」


「そうだね~。実年齢はボクの方が上だけど、ああいう感じで必死になりたくないねぇ。ユエルだって戻ってきてないのにさぁ」


「最終的には、クロック兄さんの意向を確認するべきだと思います。来るべき日に備え、兄さんにアピールして誰が先か決めて頂くことがベストでしょう」


 乙女達は意外と客観的かつ冷静に受け止めている様子だった。

 てか、みんなの頭の中はそのことしかないのだろうか?


 勇者サリィは「チッ」と舌打ちして、俺を凝視する。


「あのガードの固い、マシュマロおっぱい……じゃなかった、リーゼを手籠めにするとね。アンタ、クロックといったわね。やるじゃない……けどそれよりも」


 言いながらサリィは近づき、舐め回すようにアリシア達を見比べている。


「――パーティの子、めちゃ粒ぞろいの美少女ばっかじゃん! くぅ~、たまんねぇ! ヘイ、彼女達ぃ! あとでお茶しな~い!」


 妙なテンションで興奮し始めたかと思うと、女子達をナンパしてきた。

 どうやら冒頭の「気に入った」発言は、アリシア達に向けられた台詞だったようだ。

 にしても「ヘイ、彼女!」とかって、コテコテの誘い方だな……あのチャラ男のソーマ・プロキシィでさえ、そんなの言わなかったぞ。

 恋愛マスターじゃなかったのか?


 アリシア達も男相手だったら断り様もあるが、相手は同性でしかも現役の勇者パラディンだけあり、どうリアクションしていいかわからず戸惑っている。


 仕方ない。たとえ先輩相手でも、ここは俺が制止を促そう。


「ちょい、サリィさん。俺の仲間達に変なこと言うのやめてもらえます? ガールズラブは他所でやってください」


「クロックと言ったわね……あたし、ガールズラブって言葉が嫌いなの! 極東風に『百合』って呼んで頂戴ッ! そっちの方が響きも可愛くて、さもピュアラブっぽいでしょ!?」


「ユリ? まぁ別にいいっすよ。それより、まずお互いのパーティを紹介しませんか?」


「……そうね。男のアンタはどうでもいいけど、女子達とは仲良くしたいから賛同するわ」


 サリィは自分のパーティを紹介してきた。

 

 まずは、『カネリア』という人族の神聖官クレリック

一番落ち着いた雰囲気を持ち大人びた女綺麗な性だ。

 リーゼ先生並みに豊満な身体つきだからか、どこか母性を感じてしまう。

 ちなみに勇者パーティの良心であり、サブリーダー的な立場だとか。


 もう一人は、『マナルーザ』という人族の賢者セージ

 俺とメルフィに似た長い黒髪で、お淑やかそうな女性だ。

 補足として賢者セージとは魔導師ウィザードの上位職だとか。


 さらに『ミギア』という人族の女性は最も背が高く、力強そうな闘士ウォーリアだ。

 ウェーブがかかった赤髪、褐色の肌がエキゾチックな女性。

 リーゼ先生曰く、特攻隊長的なポジだとか。


 また『トゥーコ』と紹介されたエルフ族の女性は槍術士ランサーだ。

 長い紫色髪を後ろ三つ編みにしており、明るそうで天真爛漫な雰囲気を持つ。

 ミギアと同様、攻撃主体でエルフ族ならではの身のこなしとスピーディな戦闘が得意だとか。


 最後に『モエラ』という獣人の狸族で雑用係ポイントマン

 ショートカットが似合う美少女風であり、丸みを帯びた両耳にモフモフの尻尾が印象的だ。なんでもパーティの中で最年少らしい。

 またリーゼ先生の後輩らしく、断れない優しい性格から脱退騒動に巻き込まれてしまったと言う。

 先生ってば何気に酷くね?


 こうして一通り自己紹介を受け、俺もアリシア達を紹介した。


「へ~え、アリシアちゃんにセイラちゃん、ディネルースちゃんにメルフィちゃんか……他にユエルちゃんもいるんでしょ? もうね、みんな美少女ばっかでヤバくね? どうやって集めたんだよ、コンチクショウ! このぅ、エロガキィめぇ!」


 サリィは「流石、あたしの後輩!」と言わんばかりに、肘で俺を突っついてくる。


「まぁ、メルフィは俺の妹で、あとは縁があって一緒になった仲間達です」


「ふ~ん、まぁ『英雄色を好む』って言うからねぇ。あたしも同じだから、そこだけ男のアンタと気が合うわ」


 一緒にすんじゃねーぜと言ってやりてぇ。

 けど今の俺が否定しても説得力がないと思う。


「もう、クロウ君をサリィちゃんと違いますぅ! 真面目に頑張って、勇者パラディン候補から勝ち上がってきたんだぞぉ!」


 珍しくリーゼ先生がまともなフォローをしてくれた。

 てか、この先生でさえ真っ当に見えるのだから、サリィという勇者のパンチ力は色々な意味で半端ない。


「フン、一夫多妻制という美少女達とのハーレムをチラつかせれば、誰だって一心不乱で頑張るってもんよ。あたしのように……そうよねぇ王様ぁ?」


 サリィは何故かタメ口で、ゾディガー王に意見を求めてくる。

 いっそ、このまま無礼打ちで首ちょんぱされねぇかな?


「……余に振られても困る話だ。それより顔合わせを終えたのなら、今回のクエストについて詳しい説明がある。これから会議室に来てほしい」


 ゾディガー王は特に咎めることなく、あっさりスルーした。

 流石は躱し方が上手い。見た目通り年の功を感じる。


「それって、ここでは聞かせられない話?」


「うむ、そうだ。まだ憶測の範囲も含まれており、大っぴらに話せぬ内容でもあるのだ。したがって限られた者達が適任だろう。その為の極秘クエストだ。ちなみに説明と指揮はソフィレナに任せるぞ……余はこのような老体故に身が持たない、ソフィレナ頼むぞ」


「わかりました、陛下」


「やりぃ、かわゆい姫ちゃんだとテンション上がるぅ!」


 もう色々と酷ぇよ、サリィ。

 俺より不届き者の勇者だ。

 タメ口以前に礼節もあったもんじゃない。


 だからか? 多少俺が失礼ぶっこいても周囲が笑って許してくるのは?

 つくづく納得したわ……。


 俺は反面教師を目の前にして、「ハッ、わかりました」と丁寧に頭を下げて見せる。

 その殊勝な態度に周囲の騎士と重鎮達から、「流石は次期勇者パラディンよ。ああでなければならない」と褒められた。

 サリィのおかげで、俺の評価が爆上がりしとる(笑)



 それから『謁見の間』を出て、俺達は会議室に向かった。


 広々とした丸テーブルに、俺達全員が座る。

 その中には、リーゼ先生もいた。

 あの後、ゾディガー王から作戦に参加するよう要請されたからだ。

 リーゼ先生も国王から直々の依頼なので仕方ないと引き受けた背景がある。


 ふとソフィレナ王女より、一つの水晶球スフィアがテーブルに置かれた。


「姫さん、これは?」


 国王や重鎮達がいないので、俺は普段通りの口調で訊ねた。


「これに我が国の偵察隊が記録した、森で待機するエンシェントドラゴンの様子が映っています」


「マジっすか!?」


「ええ、それともう一つ……」


 ソフィレナ王女が手を翳すと、水晶球スフィアから映像が投影される。


 最初に映し出されたのは、超巨大な竜の傍にいる複数の存在――。

 瞬間、その場にいる誰もが自分の目を疑った。


「――ひ、人族だと!?」

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