第169話 教師たちの相談と懸念
クロック達が、教頭室から出て行った後。
先生達だけが、その場に残されている。
否、自分達から残っていた。
しばしの沈黙後。
「――教頭先生。クロック君達を再びゾディガー陛下に会わせて良かったのでしょうか?」
最初に学年主任であり、普段は国王直属に仕える
「ランバーグというトカゲの尻尾が切られ抹消された以上、ゾディガー王の企てを暴きボロを出させる者はクロック君しかいません。何故かゾディガー王は彼を気に入っているのは本当ですからね」
「本当にあの陛下が……裏で糸を引いていたのでしょうか? 私は未だに信じられません」
「長年、彼に仕えているスコット先生が疑念を抱かれるのも無理もない。謎の奇病で、あのような姿になってから、より行動が胡散臭くなりましたからね……そうでしょ? 嘗てランバーグの隠密部隊の
エドアールは、
ニノスは頷いて見せる。
「……ええ、ランバーグの親父も隠密と暗殺に長けたプロっす。自害するなんてありえねぇっす。自分の遺体を残すことで、そこから幾つも情報がバレますからね……今回がいい例っす。オレらだって親父に散々そう教えられたくらいで……その親父が自ら禁を破るとは思えないっしょ~?」
「ではニノス先生、ランバーグの自害は何かのメッセージであると?」
イザヨイが細目の双眸をより細めて聞いてきた。
「メッセージというか、カモフラージュかもしれないっすね~。自分の素性がバレてもいいから、重要な何かを守りたい的な~?」
「ランバーグが命を懸けても守らなければならない相手は、この世でゾディガー王しかいない。きっと彼に関する何かだろうね……それと、ウィルヴァ・ウエストかな?」
「――だったら教頭先生、益々クロウ君をお城へ行かすわけには危険じゃないでしょうか? 私、心配ですぅ~」
リーゼは豊かすぎる両胸を揺らしながら、約束を果たした愛しい生徒の身を案じた。
「その為に
「ええ~、サリィちゃんがぁ!?」
リーゼは声を荒げドン引きしている。
彼女だけでなく、他の教師も「いや嘘でしょ……」と難色を示していた。
エドアールは軽く咳払いして見せる。
「……そういえば、リーゼ先生は彼女と元同じパーティでしたね? 確かにサリィさんの素行はアレで色々と問題の多い方ですが、
普段は堂々としている、エドアールにしては珍しくやたらと口ごもる。
その挙動不審な様子に、何かしら事情を知る教師達は微妙な表情を浮かべていた。
「話が変わりますが、教頭先生……そのぅ、ウィルヴァのことでしゅが」
微妙な空気の中、ホビット族の教師シャロが口を開く。
「なんですか、シャロ先生?」
「さっきの話……クロック君達の前では言えなかったのでしゅが……遥か古代、
「本当ですか?」
エドアールの問いに、シャロは小さな首を縦に振った。
「……ウィルヴァ兄妹も三つ子であり、姿の見えないレイルって妹が『本当の父』に似ているという、ウィルヴァ本人からの証言もあったとか? まさか……」
「でしゅが、ユエル・ウエストは紛れもなくヒト族であり、女神フレイアを心から信仰する聖職者……そんな筈はないと信じたいしゅ……」
「シャロ先生、私もユエルさんは『白』だと考えています。ユエルさんの証言から、彼女は母親似の
「ゾディガー陛下は何も関与していないと?」
スコットが聞いてくる。
「いえ、ゾディガー王も何らかの関与はしている。あの老化もそれが影響かもしれません……ですが、私には、ウィルヴァと姿が見えないレイルを影で導いたとされる『本当の父』こそが、『本当の黒幕』ではないかと思えて仕方ありません」
エドアールの話に、その場にいる教師達は沈黙する。
それは絶句と言っても過言ではない。
最早、自分達の常識外――その範疇を超えていると誰もが思ったからだ。
「――とにかくです、そうクロック君達に負担をかけてばかりもいられません。いくら歴戦を潜り抜けた有能な次期
エドアールが言葉に、教師は揃って頷き同調して見せる。
「では、私とシャロ先生で『
「陛下の監視ですか……忠誠を誓う身としては辛い役割です」
「スコット先生、貴方が最も忠誠を使うべき者はミルロード王国と平和に暮らしている民達です。王は国をまとめるべく象徴であり絶対者ではありません。まともな思考さえあれば、誰でも担えます。
「わかりました。我が真の主、エドアール様……」
スコットは騎士の礼をエドアールに向けた。
それは、主にだけ見せる礼節の作法である。
「ニノス先生は昔の伝手で、裏社会側から情報収集をしてください。イザヨイ先生はこれまで通り生徒の教育と、万一はクロック君達を助けてあげてください。貴女の力……必ず彼らに必要となるでしょう」
「うぃす!」
「わかりました。『侍』の魂にかけまして――」
フランクに返答するニノスと違い、イザヨイは噛み締めるように返答した。
「残るはリーゼ先生ですね」
「はい、教頭先生! なんでも仰ってください!」
「では週末にクロック君達と同行してください」
「え!?」
「え、じゃないでしょ? サリィさんに彼らを紹介してあげてくださいよ。元パーティである先生が仲介に入るのが一番でしょ? 教え子でもあるわけですしね」
「は、はい……なんか嫌だなぁ」
「何か言いましたか、リーゼ・マイン先生?」
「い、いえ! 頑張りますぅ!」
こうして、スキル・カレッジの教師達も各々の役割を持って動くことになった。
教師達が退出後、部屋に残されたエドアールは独り机に両肘を立てて寄り掛かる。
そのまま「ふぅ……」と深く溜息を吐いた。
「……先生達の前ではああは言ったものの、果たして未来あるクロック君にサリィさんと会わせて良いのか心配になってきました。いえ、彼女もあれからしっかり勇者しているようですし、実力だけは確かでしょうし……うん、きっと大丈夫でしょう!」
この教頭がそこまで『勇者サリィ』を懸念しよいしょする理由――。
それは過去、エドアールがうっかり書類手続きを間違えて推薦してしまった、なんちゃって勇者だからである。
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