第164話 ユエルの証言~深まる謎




 なんだって!?


 ウィルヴァとユエルが双子じゃなく、実は三つ子だってのか!?


 あと一人……誰よ!?



 それからカストロフ伯爵が、ユエルに質問を続けきた。


「三つ子ってことは、ウィルヴァ君とユエル君……あともう一人は?」


「妹です。レイルといいます」


 妹、いたのか。


 未来の記憶を持つ、俺でさえわからなかった事実だ。

 つーか一度も会ったことはないんだけど、どういうこと?


「レイル……その子はいまどこに?」


「わかりません……わたしでは彼女を見ることはできません。ウィルお兄様のところにいるのか……案外、この屋敷のどこかに潜んでいるのかもしれません」


 ユエルの発言で、俺達は一斉に辺りを見渡した。

 

 勿論、誰もいない。


 てか、厳重な結界で守られた、この屋敷に部外者が入り込むことはあり得ないことだ。


「知的種族のわたし達では、レイルを見ることはできません。唯一、彼女を見ることができるのは、ウィルお兄様と……」


「他は?」


「……わかりません。ウィルお兄様は全てを知っていますが、わたしは選ばれない普通・ ・なので、何も教えていただきませんでした」


「普通? どういう意味だね? 選ばれないとは?」


「本当の父にです。父に選ばれたのは、ウィルお兄様とレイルだけでした。わたしは『普通・ ・なので除外された』のだと、幼少の頃からお兄様に言い聞かされました」


 つまり、ウィルヴァだけが何かしらの事情を知っており、ユエルは何も知らされないまま育ってきたってわけか。


「ユエル君、いくつか重要なワードが出て来たね。まず順を追って聞いていいかい?」


「はい、なんなりと」


「まず、レイルとは何者なんだい?」


「あの子が何者かはわかりません……実際に姿が見える、お兄様の話だと『父さんとよく似ている』と仰っていました」


「まるで幽霊体ゴースト……あるいは本当はウィルヴァ君の妄想の『妹』ではないのかね?」


「いいえ、レイルは実在しています。それに幽霊体ゴーストなら神官職プリーストのわたしでも見ることができますので……レイルが顕現けんげんできないのは、本来この世界に干渉してはいけない姿だからだと、ウィルお兄様が話してくれました。現にわたしも、レイルの姿は見えませんが、あの子の存在はわかります」


「何故、キミは見えない妹の存在を知ることができる?」


「レイルの姿や実際の言語は普通・ ・のわたしにはわかりませんが、本人から『思念』で語りかけてくることは度々ありました。特に中等部の頃は、わたしかウィルお兄様の傍について来ていたようです」


「では、ユエル君はレイルと会話することができるのかね? その『思念』で?」


「はい……といっても、向こうから語り掛けたことに答えるだけです。わたしから、レイルを呼び出したりすることはできません。こちらから語り掛けても無視、あるいは本当に近くにいないのかの二択です。わたしには判別する術もありません」


「普段、レイルとはどのような会話を?」


「わたしには些細な話です。年頃の女子の話とか……好きな男子の話でしょうか? レイルは、兄と姉には甘えん坊ですが優しい性格で、誰かに危害を加えるような子ではありません。わたしが知る限り、あの子が誰かに迷惑をかけたり何か問題を起こしたことは一度もないと思います」


 無害ってことか?

 だから近くにいても、なんらトラブルや不可思議なこともなかった。

 姿が見えなく、ウィルヴァ以外に認識されない存在なら、俺達だってわかる筈はない。


 カストロフ伯爵じゃないけど、幽霊みたいな妹ってわけか。


「最近、レイル君とやり取りしたことは?」


「高等部に入ってから一度もありません。案外、今もわたしの傍にいるかもしれませし、ウィルお兄様に『わたしユエルに話し掛けるな』と命じられたかもしれません。あの子は、ウィルお兄様を恐れていますから……」


「ウィルヴァ君を恐れている? 今でこそ指名手配中の犯罪者だが、誰かを抑圧するようなタイプには見えないが?」


「はい、ウィルお兄様は誰にでもお優しい方です。レイルが一方的にお兄様を毛嫌いしているようです。理由はわかりません……きっと選ばれた者同士の確執があるのでしょう」


「選ばれた……キミ達のお父さんだったね? それは、ランバーグのことかい?」


「違います。義理ではなく、わたし達の本当の父です」


「ならば、キミ達が生まれた村で一緒に暮らしていた老人か?」


 それもランバーグだ。

 奴の正体は痩せこけた老人であり、あの恰幅のいい中年の姿は偽装だったという話である。


「共に暮らしていた時、わたしもずっとそうだと思っていましたが、お兄様から『母親側の祖父だ』と言っていました」


「母親か……共に暮らしていた、当時18歳の娘だな? しかし娘は結婚した経歴がない筈だ。密かに誰かの子を孕んでいた、未婚の母か?」


「わたしにはわかりません……本当の父については兄妹間で禁句タブーだったので、わたしから聞くことはありませんでした。時折、ウィルお兄様かレイルが口を滑らせる程度の断片的な情報しかありません」


「母親に関してだが……私も調べたが、記録は全て抹消されている。それこそ実在していたのかさえ怪しい感じだ」


 カストロフ伯爵の言葉に、俺は眉を顰める。


「伯爵、横から失礼します……だったら前に、俺達に話していた情報の出何処はどこからなのです?」


「当時、同じ村で暮らしていた住民からの証言だよ。わかったのは、ユエル君達と同じ容姿であり、それと年齢くらいさ」


 だから、ウィルヴァの出生が怪しいって言っていたのか。


「母親はラーニアっという名だと、父だと思っていた祖父から聞いております。わたし達を生んですぐ亡くなったとか……」


「ラーニアか……もう一度、その名で調べてみたら何かわかるかもしれんな。そのラーニアが亡くなられた原因とか、キミは何か聞いているのかね?」


「……はい。レイルのせいだと、ウィルお兄様が言ってました」


 謎の妹、レイルのせいだと?

 一体、なんなんだ、その妹は……。


「ウィルヴァ君は随分と内情に詳しいな……三つ子なのに、まるでユエル君よりも先に生まれたような違和感を覚える」


「いえ、わたし達は正真正銘の三つ子です……ただ聞いたことがあります」


「何をだい?」


「ウィルお兄様こそ、本当の父に最も愛されているから……生まれた時から、誰よりも父の言葉が届いていたそうです」


「誰から聞いたんだい?」


「レイルです。あの子も本当の父に認められた、その存在を知る一人ですから……但し、本当の父については、ウィルお兄様から厳粛に口止めされていたようで、わたしに情報はございません」


「同じ兄妹なのに、ユエル君だけが疎外されている……それも、キミが『普通』だからかい?」


「はい」


 ユエルは躊躇することなく頷いた。

 さらに話を続ける。


「わたしが本当の父に選ばれない失敗作であり、ウィルお兄様とレイルと違い、最も普通・ ・のヒト族だから……だから妹の姿も見えないのだと言われました」


 ユエルが失敗作……随分と酷い言い方をする。


「誰に言われた? ウィルヴァ君か?」


「違います。ウィルお兄様は、ずっとわたしのことを庇ってくれていました」


「では誰だ?」


「育ての父……いえ、実の祖父こと義父のランバーグ公爵です。だから彼は、わたしを引き取る際に難色を示し、ウィルお兄様が『わたしも養女として引き取ること』を条件で養子となったのです」


 祖父とランバーグは同一人物だからな。

 

 ランバーグは『公爵』としての表向きでは結婚歴のない独身だったが、『隠密部隊』の隊長として裏の顔は不明だ。


 したがって、密かに子供が一人くらいいても可笑しくないだろう。


 そのウィルヴァ達の三つ子の母親とされる、18歳のラーニアって女性が実在するのであればだ。


 肝心の『本当の父親』って存在は気になるけどな――。


 それに、ユエルも生まれた時から、祖父であるランバーグにガチで蔑ろにされて疎外されていたようだ。

 ウィルヴァとレイルの二人と違って普通・ ・であり失敗作だから……。


 血の繋がりがあるのに酷すぎる最低な話だ。


 しかし……ウィルヴァは人族じゃないのか?



 俺にとって宿命の好敵手ライバルにして、未来では正統な勇者パラディンだった男。



 ――ウィルヴァ・ウエストは一体何者なんだよ!?

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