第157話 ディメンション・タワー




銃術士ガンナーの女! 貴様ァ、どういうつもりだ!?」


 片足をハンドガン魔拳銃で撃たれた、騎士の姿を装った『隠密部隊』の男。

兜越しで、近づいて来るカーラを睨みつけている。


 彼女は「フン」と鼻で笑った。


「言ったろ、みっともないって。飼い主の許可なく、噛みつくんじゃないよ!」


「『教団』の使徒である貴様らは聞いてないのか!? クロック・ロウのせいで、ランバーグ様は……」


 教団の使徒だと?


 やはりカーラ達も……。


 だったら尚更、何故俺を助けるような真似を何度も?


「んなの知らないね。大体、『隠密部隊』のおたくらと組んだ覚えないし……つーか、ウィルヴァ様とシェイルを隠したのは、アンタ達?」


「その口振り……何も知らないのか? 所詮、貴様らも我ら同様の捨て駒か……」


「アンタ達と一緒にするんじゃないよ。アタシらはこの腐った世の中を変えたいがために入団してんだ。目的のためなら手段を選ばない、アンタ達とちげーんだよ!」


「目には目を……されど、私達にも信念はあるですぅ」


「戦士としての矜持まで失っちゃいないさ」


「……お前ら嫌い」


 カーラに続き、ロータ、フリスト、スヴァーヴの三人も同調している。


 俺にはこの子達は自分の目的と信念があり、それらの目的で『竜守護教団ドレイクウェルフェア』に入団したって感じに見える。


 確かに、俺も各国における世襲や貴族体勢には不満を抱くところもある。


 あのスキル・カレッジにおいても、特殊スキルの有無で生徒達が差別されている

 俺だって、この時代では『勇者パラディン候補』として一目置かれているも、それは特殊スキルがあるからであって……。


 現に五年後の未来では、俺は名もつかないレアリティEとして見られ、正真正銘の劣等生だったんだ。


 そのせいで可愛がっていた義理の妹には見放され、女子達に軽視される始末。

 あの頃、植え付けられたトラウマは、今だって断片的に尾を引いてしまっている。


 俺は両親を『竜』に食い殺されたことで、『竜』という存在が憎い。


 だから『竜守護教団ドレイクウェルフェア』の存在を知っても、カルト教団だと軽蔑するだけで靡くことはなかった。


 けど、その矛先が国や貴族に向けていたのなら、俺だって血迷って入団してしまうかもしれない。


 辛うじて『竜』の存在で知的種族達は手を取り合って生存しているも、案外微妙なバランスで国が成り立っているのかもな。


 最近、『教団』の連中と戦っているうちに、そう思えてしまう自分もいる。


 だけど、今の俺には家族と呼べる仲間達がいる。


 アリシア、メルフィ、デュネルース、セイラ、ユエル……。


 駆け付けて来てくれた彼女達を一瞥する。

 まだユエルは目を覚まさず、メルフィがスパルを大きくさせ、背中に担がせていた。

 あんな凶暴な竜牙兵スパルトイに任せて、ユエルは大丈夫だろうか?


 いや、今はいい……。


 とにかく彼女達と共にあれば、俺は迷わず正道を歩むことが出来るんだ。


 これだけは言い切れる。


「カーラ、お前達はウィルヴァとシェイマのことを知らないのか?」


 俺は率直に聞いた。


「……シェイマ? ああ、バレてたんだね。当然か……あんだけ、アンタに喧嘩を吹っ掛けちゃね。けど、ウィルヴァ様はなんだってんだい? あの方は、アタシらの正体は知らない筈だよ」


「知らないだと?」


「そうさ。ランバーグ公爵からも一切伏せられていた筈だからね。シェイマ様の正体だって気づいてない筈さ。何せ初対面だったからね」


 カーラははっきりと言い切る。

 隠し事や嘘をついている様子はない。


 他のパーティの子達も頷き、同じような反応だ。

 けど、自分達の正体をあっさり喋る時点で違和感を覚えるけどな。


「俺は立場上、この林間実習が終わったら、お前達をカストロフ伯爵に突き出すぞ? そんなにベラベラ正直に話していいのか?」


「バレちまったもんはしょーがない。腹も括っているさ。じゃなきゃ、『教団』に入団したりはしないよ。けど、これはこれ、それはそれさ……卑劣な奴らは許さない。例え同じ教団員でもね」


「だから、私達は『教団』の使徒ながら腫物扱いだったんですぅ」


「オレ達も、たまたま目的が一緒だっただけで、そこまで『教団』に染まっちゃいない」


「……我が道を行く」


 なんだか変わった子達なのはわかったぞ。


 強情……いや、しっかりとした信念がある所は、少しアリシア達とキャラが似ているかもしれない。


「クロウ様、こやつらと一体何の話をしているのですか? それにこの騎士達、やはり不審者でありましたな。大方、『教団』の連中でしょう」


 そのアリシアは俺を庇う形で前値たち、バスタード両手剣を抜く。


 ちゃんと説明するべきだが、話がややっこしくなるから、落ち着くまで伏せておくべきかな。


 まずは、地面に蹲る騎士を装った、この男を拘束しないと。


 そう思い、男をチラ見する。


 男は蹲った状態で、何かを手にしていた。

 呪文語が彫り込んでいる『棒杖ワンド』が握られている


「おい、テメェ! 何を持っているんだ!?」


 俺は気づき、声を荒げた。


「……これは、以前からランバーグ様が証拠隠滅ように渡された、《自爆呪殺法スーサイド・キル》。本来なら、私一人だけの自害用だが、独自に改良して直径30メートルまで吹き飛ばすことができる玉砕魔道具だ!」


「なんだって!? やばい、みんな逃げろ――」


 俺が叫んだと同時に、男は躊躇なく魔道具を地面に叩きつけて割った。



 カァ――!



 視界を覆う程の眩しい閃光が発生する。


 ん? あれ、何ともないぞ。


 そう思って、目を凝らした瞬間。



 ――ドゥオォォォォォン!!!



 遥か遠くの方で爆発音が鳴り響いた。


「なんだ!?」


 一体、何が起こったのかわからない。


「や、奴がいない!?」


 カーラは男が蹲っていた場所に銃口を向けた。


 確かに男が消えていた。


 地面に叩くつけた筈の《自爆呪殺法スーサイド・キル》という魔道具と共に――。


「この現象……もしや」


 アリシアは覚えがあり、何かを言いかける。


「――遅れてすまない。大丈夫か、クロック君、アリシア?」


 渋い声。

 純白の鎧に身を包んだ、大柄な初老の騎士の姿が目の前に存在した。


「カストロフ伯爵!?」


 アリシアの親父さんだ。

 一体、いつからそこにいたのかわからない。


「父上ですね!? 自害する寸前で、あやつを遠くへ飛ばしたのは!?」


 アリシアの問いに、カストロフ伯爵は頷いた。


「ああ、私の《ディメンション・タワー異次元の塔》でな。誰もいない遠くへと移動させ、そこで自爆させたのだ」


 そういや、この親父さん。

 やたらと神出鬼没で、一度でも来た場所ならどこからでも現れることができるんだ。

 きっと俺達が林間実習に挑む前に、下見としてこの領域エリアを巡回したに違いない。


「……転移能力ですか?」


 魔道師ウィザードらしい好奇心旺盛なメルフィが尋ねた。


「少し違う。独自の異次元空間……私は『塔』と呼んでいるが、そこを通して自在に出たり入ったり出来るのだ。『塔』の中では時間は流れない、全てが制止した世界だ。だから、あの男を爆発寸前で『塔』の中に誘い、爆発させずに遠くまで運ぶことができたのだ」


「ちなみに、異次元の『塔』を利用し、時空に歪を発生させ敵を両断することもできる。攻防一体の能力でもあるのだ」


 カストロフ伯爵の説明を娘のアリシアが自慢げに補足する。

 なるほど……恐ろしい特殊スキル能力だな。

 伊達にミルロード王国を支える騎士団長じゃないようだ。


 あっ、感心している場合じゃない!


「カストロフ伯爵、ウィルヴァが!?」


「クロウ君、全てわかっている。どうやら最悪な事態が起きているようだ。今、騎士団総出で、『彼ら』を捜索している……反逆者・ ・ ・としてな」


「父上、反逆者とはなんでありましょうか?」


 アリシアが首を傾げて聞いている。


「……どうやら、クロウ君から聞かされてないのか? ウィルヴァ・ウエストは義父である、ランバーグ・フォン・ウェストと結託し『竜聖女シェイマ』の逃亡を手助けした容疑が掛けられている」


「「「「え!?」」」」


 驚愕したのは、アリシア達じゃない。


 カーラ、ロータ、フリスト、スヴァーヴの四人からだ。

 彼女達は、ずっとウィルヴァは何も知らない無関係だと思っていたからな。


 対して、アリシア達は冷静に事態を呑み込んでいた。

 事前に俺が説明したこともあり、目立って取り乱すことはない。


 しかし、どの子も事態と直視できず、沈黙して俯いている。


 当然の反応だ。


 俺でさえ、ブラックドラゴン黒竜から状況を聞かなければ、今頃「嘘だ!」と叫んでいるところだろう。


「どうやら、クロウ君はアリシア達には話してくれたようだね?」


「すみません、カストロフ伯爵……勝手な真似を」


「いや賢明な判断だと思う。思いの外、彼は『教団』の中枢に根付いていたようだからな」


「根付いていた? ウィルヴァが?」


 俺は「まさか」と聞き返すと、カストロフ伯爵は頷き肯定する。


「――ランバーグは自害した」


「え!?」


「キミ達が林間実習をしている中、私達が衛兵隊を引き入れて屋敷に踏み込んだ時、既に死んでいる奴の遺体を発見したよ。おそらく、ネイミア王国でイサルコ王子が毒殺された『呪殺術毒カースポイズン』を服用したに違いない。その小瓶が落ちていたからな」


 な、なんだって!?






───────────────────

《スキル紹介》


〇スキル:ディメンション・タワー異次元の塔


能力者:カストロフ・フォン・フェアテール


タイプ:効果型


レアリティ:SR


【能力】

・独自で創った異次元空間こと『塔』を通して、予めマーキングした座標位置を基準に自由に行き来することができる。

・座標位置から直径100メートル以内なら、自由に位置を変えることができる。

・『塔』の中は時間が停止された世界となっており、物理的な攻撃も出来なければ物体が壊れることもない。さらに歳も取ることはない。

・『塔』の中に物を持ち込み、格納庫として永久に保管することもできたり、捕らえた種族を監禁することもできる。(閉じ込めている間、生理現象は起きない)


【応用技】

・異次元空間を発生させる際、わざと座標値をずらすことで、時空に歪を発生させ『塔』に閉じ込めようとする敵を両断(正確には引き千切る)することができる。


【弱点】

・一度使用した座標値はリセットされ、再度訪れないと座標値として使用することはできない。

・時間が停止された『塔』に長居すると、生物時計が麻痺し「ウラシマ効果」状態となる。現実世界に戻ったら数年後が過ぎている場合もある。

・破壊寸前また破壊しつつある物質を『塔』へ持ち込んだ際、壊れることはないが修復することもできず、現実世界に移動した時に壊れてしまう。

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