第156話 私兵達の襲撃




 これまで、ずっと俺達の護衛をしていた10名の騎士達。


 いや、護衛していたとは言えない。


 俺達が『竜狩り』をしていても、いくら危機ピンチに陥ろうとも、ずっと傍観していた連中だ。


 まるで監視者のように。


 そんな連中が今更何を思って近づいてきたのか。


 ――俺にはもうわかっている。


 ブラックドラゴン黒竜のソーマも最後に教えてくれたしな。


 しかし、奇妙だ。


 これまで一切の物音を立てずに移動してきた奴らが、今は地面を踏みしめる足音から重なり擦れ合う鎧の金属音まで、はっきりと聞こえる。


 近づけば近づくほど……。


 意識を失っているユエルを護るよう待機させている、ディネやメルフィは警戒しているにもかかわらず、騎士達の動きに気づいていない。

 二人の目の前を通り過ぎても、何もないようスルーしている。


 俺だけが、騎士達の存在に気づいているかのようだ。


 まさか、連中がもつ特殊スキル能力か?


「――クロック・ロウ。その様子から、貴様は些か知り過ぎたようだ」


 戦闘を歩く騎士が初めて声を発してきた。

 全員がフルフェイスの兜を被り素顔は不明だが、そいつは男だと認識する。


「やはりな。テメェらは騎士団じゃないな?」


「本物の騎士団は既に始末し、我ら『反国王派』が成り代わっている」


「反国王はだと? 嘘つけ、そんな連中は最初から存在しないと聞いているぜ。テメェらはランバーグが差し向けた『隠密部隊』だろ?」


「……様をつけろ、無礼者め」


「生憎、いくら公爵だろうと、『教団』と手を組んでいる時点で俺にとっては、ただの『敵』だ。んな奴に敬称で呼ぶわけねーだろ」


「貴様がよく言う……」


 10名の騎士達は隊列を組み、じりじりと俺に迫ってくる。


 幸い巨大なブラックドラゴン黒竜の頭部を背にしているので取り囲まれることはない。


 しかし、先の戦いでかなりの疲労を抱えている。

 特に精神力と『魂力』の消費やばい……特殊スキルの使いすぎだ。

 このコンディションで10名の騎士を同時に相手できるだろうか?


 俺は騎士達の背後にいる仲間達に視線を向けた。


 アリシア達はまだ、ウィルヴァの捜索をしているようだ。

 ディネとメルフィ同様に、あの子達も連中の存在を意識していない。


「仲間を呼ぼうとしても無駄だ。我らの特殊スキル《カモフラージュ迷彩幻影》は、自分の存在・ ・を完全に消す能力。物音から気配、そして『その場に存在している』という事実に至るまでな。但し、殺そうとする対象者だけ、我らの存在を認識させてしまう。そういった弱点を持つ」


「存在を消す能力か……複数持ちの特殊スキルってことはレアリティUアンコモンか Rレア程度か? 射程距離もあるようだな? 現にさっきまで遠くで待機しているテメェらの姿は誰もが認識していたからな」


「約50メートルくらいだ。一人の存在がバレてしまえば、芋ずる式で他の者達の存在も認識されてしまう」


 だからこいつらは常に固まって行動していたんだな?

 まさに『隠密部隊』に適した能力ってわけか。


「今更、俺を始末するってか? 何故、もっと早く襲ってこなかった? チャンスはいくらでもあった筈だぜ?」


「我らの目的は本来、貴様らの監視にある。この林間実習にかこつけて、『あの方』を逃がすために……その為に、カストロフが用意した騎士達を暗殺し、こうして成り代わったのだ」


「……あの方? ウィルヴァ・ウエストか?」


 俺の問いに、騎士達は答えない。


 この場合、無言は「はい」と言っているようなものだ。


 やはり、ウィルヴァは最初から……。


「もう一組、ウィルヴァ達についていた騎士達はどうした?」


「別の『隠密部隊』が始末して成り代わっている。今頃、『あの方』と合流を果たし、護衛している筈だ。新たな場所へ向かうためのな」


 新たな場所?

 さっきブラックドラゴン黒竜は話していた『ロムトア洞窟遺跡』かもしれない。


 クソォ、あの野郎……逃がさねぇぞ!


「どけ、テメェら! 俺の相手している暇があったら、ランバーグの護衛でもしていろ! 既にカストロフ伯爵が、奴を捕らえるため動いているかもしれねぇぞ!」


「その必要なない」


「なんだと?」


 即答で答える騎士に、俺は眉を顰める。


「これは誰の命令でもない! 我ら全員の意志だ、クロック・ロウ! 貴様だけは殺す!」


「そうだ! 貴様さえ、いなければ……!!」


「ランバーグ隊長もご子息様も幸せに親子でいられたものを!!!」


 殺意を剥き出しに激昂してくる騎士達。


 何を言っているんだ、こいつら?

 まるで、俺のせいでウィルヴァとランバーグが可笑しくなったと言っているのか?


 冗談じゃねぇ!


 俺は二剣のブロードソード片手剣を鞘から抜いた。


「勝手なことほざいてんじゃねぇ! そもそもランバーグの私欲でテメェら『隠密部隊』ってのが、『教団』とつるんで暗躍しているから悪いんだろーが!? ゾディガー王の私兵の癖に、ランバーグの私欲で暴走してんじゃねぇ!!!」


「……ゾディガー陛下の私兵か。確かに、あの方にも責任はある」


「何?」


 国王にも責任だと?

 ランバーグが暴走したことが、ゾディガー王と何か関与しているのか?


 そういや、あの国王、ソフィレナ王女の件から、やたら俺を『次期勇者パラディン』として推していたよな?


 まさか、そのことがランバーグの耳に入り、義息子ウィルヴァのために――?


 そう考えれば、連中が言うように俺が二人を狂わせた元凶だと思われても仕方ない。


 だがブラックドラゴン黒竜との話から、これまでの全ての事が何か別な理由で動いているような気がしてならないんだ。


 どちらにせよ――


「俺は誰にも屈指ねぇぞ! こうなりゃ全ての真実を暴き出して白日の下に晒してやるぜ!! 俺達の未来は俺達が守る!!!」


 片手に握られたブロードソード片手剣を騎士団に向けて投げつける。


 重装甲の癖に騎士は身軽で素早い動きで躱していく。

 ブロードソード片手剣は空を切り、そのまま遠くへと飛んで行った。


「フン、クロック・ロウ知っているぞ! 貴様はもう『魂力』が尽きかけていることを! それだけの強力な力には膨大な『精神力』と『魂力』が必要なのは当然のことだからな! その状態で、仲間の支援も得られず、我ら10名と戦えるのか!?」


 喜悦の声を上げる騎士、他の連中もフルフェイスの兜越しでニヤっいているに違いない。


 しかし――。


 ニヤッ


 俺も唇を吊り上げて、ほくそ笑む。


「フフフ……」


「何が可笑しい、クロック・ロウ!?」


「追い詰められて気でも狂ったか?」


 騎士達の言葉に、俺は笑うのをやめ真顔になる。


「あのなぁ、俺が考えなしに自分から武器を放り投げるわけねぇだろ?」


「なんだと!?」


「そろそろ来るぜ……俺の仲間達がな」


 俺がそう言った瞬間。



 ドドドドドドド――!



 全身のっぺりした30体の粘土人形達が、猛スピードでこちらに向かって迫って来る。


「な、なんだぁ、あれは!?」


「セイラの特殊スキル――《ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達》だ」


 粘土人形達は次々と騎士達に抱き着き、互いの体同士を密着させながら形状を変えて岩へと戻った。

 結果、騎士達を岩で拘束するという奇妙な絵面となる。


 俺が知らせたんだ。


 ブロード片手剣を投げたことでな。


 連中の後ろに、丁度アリシア達が捜索活動をしていた。

 それを見越した上での行動だ。


 この『隠密部隊』の特殊スキル《カモフラージュ迷彩幻影》の能力は、直径50メートル範囲内で自分の存在を消せれるらしい。

 だが、あくまで能力者達だけだ。


 ――俺は該当しない。


 したがって、俺がブロード片手剣を投げたことで、彼女達が異変に気づいてくれた。

 後は五感が優れた、半獣娘であるセイラが俺の会話する声を聞けば状況を汲み取ってくれると踏んだってわけだ。


 俺はパーティ達のことを誰よりもよく知り信じている。

 だからこそ、委ねられた作戦だ。


「クッ、クソォ!」


 一人だけ難を逃れたようだ。

 声から察するに、ついさっきまで俺と中心になって会話をしていた男である。

 きっと『隠密部隊』の班長的なポジか?


 《ブレイブ・ドールズ勇敢な人形達》は「走れ」「飛べ」などの単純な指示コマンドしか送れないと聞く。

 どうやら命中精度に難があるようだ。


 そんなことよりも、このままでは騎士に逃げられてしまう。


 刹那。



 ――ドォォォォン!



 銃声が鳴り響いた。


「ぐおぉぉぉぉっ!」


 騎士の太腿部を銃弾が装甲ごと貫いたのだ。


「フリーズ! みっともない真似みせんじゃないよ!」


 銃術士ガンナーのカーラだ。


 けど、この子……ウィルヴァとランバーグの仲間じゃないのか?


 何故、仲間である『隠密部隊』の男を撃ったんだ?


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