第153話 斬り裂くタイム・ソーサー




 俺の掛け声で仲間達全員が行動を起こした。


「――《ナイトメア悪夢》」


 俊敏な暗殺者アサシンらしく、スヴァーヴは先頭を失踪し、濃霧を発生させる。濃霧は旋風に乗り、瞬く間にブラックドラゴン黒竜の巨大な全身へと覆い包み込む。


 刹那、ブラックドラゴン黒竜は動かなくなる。


「あれは?」


「スヴァーヴの特殊スキル能力さ。あの霧を浴びた奴は速攻で眠るか、精神が崩壊するまで悪夢を見せられちまう。またブラックドラゴン黒竜十八番オハコの幻術も見せることができるよ」


 カーラは説明しながら、俺の前に立つ。

 その手に握られる、二丁のハンドガン魔拳銃を構えた。


「ディネルースって言ったね! まずはアンタとアタシの特殊スキルで、『竜』の上半身を狙うよ!」


「え? うん、わかった!」


 カーラに指示を受け、ディネも弓を構える。


 遠距離攻撃を得意とする、弓使いアーチャー銃術士ガンナーの異色コンビ。


「《ハンドレット・アロー百式の矢》!」


「《ブラスター荒れ狂う者》!」


 弓矢と銃弾が連続して発射された。


 圧倒する数である1000本の矢と、超強化された6発弾丸が、ブラックドラゴン黒竜を襲う。



 ドオォォォォン――!



 あっという間に、ブラックドラゴン黒竜両腕と両翼が粉砕された。


 ロータが施した特殊スキル効果で、彼女達が放つ攻撃の一撃一撃が強化されていたからだ。


 その攻撃でブラックドラゴン黒竜に纏っていた濃霧は消失し、目を覚ましてしまった。

 損傷による痛みか、あるいは怒りからか、長い首を上空に翳し怒号のような咆哮を上げている。


 大抵の冒険者は『竜』の咆哮を聞くだけで精神が混乱するが、今の俺達は抵抗力レジストも強化されているので問題ない。

 ロータの特殊スキル効果とはいえ、万能すぎてヤバイと思えてしまう。



「次は、私が行くぞ!」


「抜け駆けはさせないよ!」


 アリシアとフリストが勇敢に、『竜』に向かって疾走した。


「私が二人をサポートします――《フォービドゥン・ナレッジ禁断知識》!」


 メルフィの掌から、具現化型である『魔導書』を出現させた。

 自動にページが捲られ、魔法が行使される。


 ブラックドラゴン黒竜の口から業炎が吐き出されるも、アリシアとフリストの周囲に円型の結界が張り巡らされて完璧に防いだ。


 身体が強化されただけでなく、高度な魔法で防壁術バリアも張られている。

 ほぼ無敵状態と言ってもいいだろう。


 おかげで、二人も躊躇なく素早い動きで、ブラックドラゴン黒竜の懐へ潜り込む。


「喰らえ! 《マグネティック・リッター磁力騎士》!」


 アリシアの斬撃が『竜』の片足を引き裂き飛ばした。

 刃に磁力を施すこで、同極同士を反発させる効果で大ダメージを与えていく、彼女が得意とする攻撃である。

 強化付与されている分、大樹のような『竜』の大腿部でも簡単に引き裂くことが可能であった。


「《リインフォースト援軍》!」


 フリストも自分自身の数を50体に増やし、騎士団以上の連携攻撃でブラックドラゴン黒竜のもう片足から、長い尻尾に掛けて猛攻撃を仕掛けている。

 その両腕に掲げるハルバード戦矛槍で、数の暴力と言わんばかりに装甲のような鱗を砕いて肉を斬り裂く。

 

 ほぼアリシアと変わらないタイミングで片足と尻尾を粉砕させる。



 ドスン!



 最早、ブラックドラゴン黒竜は自力で姿勢を保つことができず、大地にひれ伏す形で倒れ込んだ。

 両手両足、両翼に尻尾を失った、巨大な芋虫のような姿へと変貌している。


 最後に、メルフィはスパルをスパルトイ・オーバーラン竜牙兵の蹂躙モードに変化させ、ブラックドラゴン黒竜の口元に向けて拳撃を打った。

 両拳にはめ込まれ水晶球は『亜空間サブスペース領域フィールドを発生さ、直径30cmが抉られる形で飛ばされ消滅していく。

 しかもラッシュによる拳撃で、口元が無残で歪な形へと変貌を遂げている。


 おそらく炎を吐かれないようにするためだが、相変わらずやることがエグすぎる竜牙兵スパルトイだ。



「まぁ、両親の仇かもしれねぇから、同情はしないぜ――」


 俺はブラックドラゴン黒竜の前に立つ。


 みんなが与えてくれたチャンスを最大限に活かすため。


 きっと俺の特殊スキル能力なら、体内にいるかもしれないウィルヴァを助け出せると信じてくれた上でのチャンスでもある。


 その期待を裏切るわけにはいかない。


 ――自分の力を信じろ!


 俺は両手に握りしめる、ブロード・ソード片手剣の刃を重ね合わせ身構えた。


「よくわからないが実感はしている……俺の《タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記》がもう一段階進化を遂げたってことを――」


 交わった刃から、眩い光輝を発した半透明の『時計盤』が出現する。

 一見、《タイムシールド時間盾》のように見えるが、以前は無色だったことに対して、その『時計盤』は深紅に染まっていた。


 みんなが俺を心から支えてくれたことで成長した新たな力。


 『時計盤』はさらに巨大化し、倒れ伏せている『竜』と同格の大きさとなった。


「――《タイム・ソーサー時間斬刃》!!!」


 それは『円形盾ラウンドシールド』ではなく、『円形刃ラウンドカッター』だ。



 ギィィィィィィ――ン!



 刃と化した『時計盤』が高速に回転し発射される。


 放たれた高速回転する巨刃は、まさに断頭台の如くブラックドラゴン黒竜を斬首した。

 華麗に宙を舞う頭部は地面に落下し、激震を与えながら転がっていく。


 ほぼ同時に《タイム・ソーサー時間斬刃》は消滅した。


 さらに胴体部分に異変が起きる。

 まるで生命力を吸い取られたかのように、肉体は急速に衰えていき枯れ木のように痩せ細っていった。


 最後には鱗どころか肉片すら消失し、白骨化した骨組みだけが残った。


「――《タイム・ソーサー時間斬刃》は斬ったモノの時間を奪い自在に操ることができる。以前は直接触れるか武器を通さなきゃ出来ないが、この術式・ ・なら遠隔でも可能となったってところかな……しかも超長寿である『竜』を白骨化しちまうほどの威力とは……EXTRAエクストラ級の威力ならではか?」


 俺は新たに身に付けた力を分析する。


 だけど不思議だ。


 まだ何か物足りなさを感じる。

 

 本当の進化を遂げていないと思える何か――。


 一体、俺はどこまで行き着くのだろう……。



「クロウ様、お見事です!」


「やったね、クロウ!」


「兄さん、凄かったです!」


 アリシアとディネとメルフィの三人が駆け寄って来た。

 既に強化支援の効果は消えているようだ。

 能力の負荷からか、みんなから相当な疲労が見られている。


 ちなみに俺も『精神力』と『魂力』が消耗して結構ヤバイけどな。

 ユエルは気を失ったままだし、回復系ヒーラーがいないとガチで困る。


「ああ、ありがとう。みんなが『竜』を追い込んでくれたからさ」


 特に打ち合わせなく、あそこまで他のパーティ達と連携が取れるんだからな。

 互いの相性もあるが、大したものだと思った。


「クロウ!」


 おっ、言っている傍から、カーラが単独で駆け付けてくる。

 他の仲間達は白骨化した、ブラックドラゴン黒竜の遺体付近にいた。


「よぉ、協力してくれてサンキュ。おかげで勝つことができたわ」


「んなのはどうでもいい――!」


 カーラはいきなりハンドガン魔拳銃を抜き、俺に銃口を向けた。


「おい、貴様ァ!」


 アリシアが憤怒し、俺を庇う形でバスタードソード両手剣を抜こうと身構える。


「よせ、アリシア。これはどういうことだ、カーラ?」


「こっちの台詞だ! 話が違うじゃないか!?」


「なんだと?」


「クロック! アンタ、今の攻撃でブラックドラゴン黒竜を仕留めると同時に、ウィルヴァ様とシェイルも始末したろ!? この殺人者め!」


「ん? まさか……そんな筈はない。俺の特殊スキル能力は、あくまで効果を与えたモノにだけ対象となるんだ。胃の中に入っているだけの二人に影響は及ぶ筈はない」


 百歩譲って仮に二人が対象となっても、俺が時間を操作しなければいいだけ理屈だ。


 俺が説明しても、カーラは納得していない。

 銃口を向けたまま、尚も責め立ててくる。


「じゃあ、なんで白骨化した遺体から二人は出て来ないのさ、ええ!?」


「ウィルヴァがいないだって?」


 あのシェイルって女も消えたってのか?






───────────────────

《スキル紹介》


術式:《タイム・ソーサー時間斬刃


スキル:タイム・アクシス・クロニクル時間軸年代記


タイプ:効果型+放射型


【効果】

・両腕(あるいは双剣)を重ねることで光輝く深紅の『時計盤』を創り出して放つことで、斬撃と時間を奪い操作することができる。

・『時計盤』はクロックの意志で自在に巨大化させることができる。

・炎から霊体、液体、そして『空間』ごと斬ることが可能であり、敵の特殊スキルも対象となる絶対的な攻撃力を誇る。

・《タイムシールド時間盾》との併用も可能である。


【弱点】

・狙って発射させる『放射型』となる技なので相手のスキルや高レベルの魔法によって軌道を逸らされ回避される可能性がある。

・斬撃を受けたモノだけが効果対象であり、それ以外のモノの時間は奪えない。

・相当な『魂力』が消費されるので、一度の戦闘に2回までしか使用できない。

(但し『魂力』が回復すればその限りではない)


【備考】

・実はクロック・ロウがEXRエクストラ以上の最終段階へと進化するための能力でもある。

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